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13.星に願いを込めて

 美しく、且つ、楽しげに。使用人と妖精の手を借りつつ彼女が飾り付けた邸の外観を見上げる。これ程までに、心が弾むものだろうか。飾りの持つ不思議な効力に思わず苦笑した。

 いや、俺が単純なだけなのかもしれない。それか、楽しそうに飾り付けをしていたフレヤを知っているからこそのものであるのか。


「如何ですか?」


 もしくは、こうして自信満々にソワソワと俺の返事を待つ彼女と共に眺めているからか。


「素敵ですよ。とても華やかだ」

「そうでしょう。皆で頑張りましたから」


 彼女の表情に喜色が滲む。ふわっと花が咲くように笑んだ彼女に、こちらも目尻を下げた。

 公爵邸は、街を一望できる高台に建っている。つまりは、街からも公爵邸がよく見えるということ。きっと今年は領民達にどうしたのかと思われているのだろうな。


「それにしても……。凄い数の星飾りですね」


 願いを込めて飾る特別な星飾り。名称は何と言ったか。色とりどりのそれが、ズラリと正面扉を彩っていた。


《祈り星のこと~?》

「そのような名前だったかな」

《女王様が使用人達の分も用意したからな》

《でもでも、強制はしてないわよ。参加したい人はしてねって言ったの》

《まぁ、全員参加した結果のこれだけどね~》


 あぁ、なるほど。彼女ならばそうしても可笑しくはないという納得感に、一つ頷く。しかし、そうか。全員が参加するとは、少し意外だったな。使用人達も祭りを楽しみにしてくれているのだろうか。


「あの、公爵様の分もあります」


 フレヤの言葉に、目を丸めてしまった。ノアが引き寄せたカゴを彼女が受け取る。カゴの中には五つの祈り星が入っていた。


「これで、その……」

《最後~? 完成~?》

「そう、飾りが完成します」

《ボクは何を願おうかな~》

《いざ問われると難しいものだな》

《ワクワク。何でも良いのよね》


 妖精達がそれぞれカゴから祈り星を取っていく。フレヤは取らずに、カゴを俺に差し出した。それに、目を瞬く。


「ええと、いりませんか?」

「え? いえ、そんな! 貰います」


 慌ててカゴに入っている祈り星を手に取った。ほっと安堵した様子のフレヤに、こちらは眉尻を下げる。まさか俺の分があるとは思っていなかったのだ。


「……ありがとう」

「いいえ」

「願い、願いか……」


 手の中にある祈り星に、目を伏せる。幼い頃は、沢山あった気もするが……。


「叶うといいですよね」

「……えぇ、本当に」


 フレヤもカゴに残っていた祈り星を手に取る。流れるように、ノアがカゴを元あった場所へと戻した。


《た~くさん、悪戯したいな~》

《平穏無事》

《とってもとっても素敵なものが、いっぱい見れますように!》


 ノア達が口々に願い事を言っていく。随分と個性が出るものなのだなぁと、その様子を眺めていれば三人の視線がこちらを向いた。


《女王様とディランは願いを込めないの~?》

「んー……迷ってるの」

《そうよねそうよね。迷っちゃう》

《ディランもか?》

「そうですねぇ……」


 どうしたものかと悩んでいれば、段々と気恥ずかしさのようなものが顔を出し始める。というか、これは願い事を口に出さなくてはならないのだろうか。


「うーん……うん。これにする」


 フレヤはそう呟くと、祈り星を両手で大切そうに包み込む。胸の前までそれを持っていき、目を瞑った。


「どうか、皆が幸せでありますように」


 そう言ったと同時に、彼女が持つ星飾りが光輝く。それにぎょっとして「フレヤ!?」と呼んだ声が裏返った。


「え? あ、どうしましょう」

「大丈夫ですか!?」

《あらら~、勢い余って少しだけ力も一緒に込めちゃったね~》

《ふむ。最近、魔法の練習をしているせいだろうか》

《でもでも、これくらいなら大丈夫じゃない?》

「本当ですか? 絶対に?」

《心配しなくても、倒れたりはしないよ~》


 ノアの言葉に、深々と安堵の息を吐く。本当によかった。心臓に悪過ぎる。


「ご、ごめんなさい」

「いえいえ、良いんです。でも、誰かに見られると事なので……。そこは気を付けてくださいね」

《うん、それは本気で気を付けて~》

《流石に誤魔化しきれないぞ》

《そうそう、大騒ぎになるわよ》


 彼女はコクコクと素直に頷く。それに、少しの不安を覚えた。まぁ、もしもの時は煙に巻けば良いか。上手く誘導すれば、論点は直ぐにすり替えられるのだから。


「因みに、この祈り星はこのまま飾っても問題ない代物なんですか?」

《そうだね~。まぁ、ただの祈り星ではなくなっちゃったことは確かだけど~》

《込めたといっても少量だからな。問題はないだろうとは思うぞ》

《まぁ、公爵家に関わりある人達にちょっとした良いことが起こるかな~くらい》

「私の願い事が叶うということ?」

《ほんのちょっとだけね~。女王様の力は特別だからさ~》

「そうなのね」


 フレヤが軽い調子でそう返すのに、ノアは少し困ったような顔をする。特別、か。妖精達が女王を隠す理由もその特別にあるのだろうか。

 であるならばどう特別なのかは知っておきたいが、彼女の前では止めておいた方がよさそうだ。それを知ったら、無茶をしそうで怖い。


《それで? ディランの願い事は~?》

「俺はもう込めました」


 ニコッと人好きのする笑みを浮かべて有耶無耶にしようとしたが、そう上手くはいかないらしい。ノア達に不満そうな顔を一斉に向けられた。


《はぁ~~?? 空気読んでよね~》

《自分だけ秘密にするつもりか》

「いや、使用人達は口に出してました?」

《え~?》

《それは……》

「出していませんでした」

「そうでしょう?」

《何よ何よ、聞かれて不味い願い事なの?》


 このまま押し切れると思っていたのに……。ミラが痛いところを突いてくる。一気に形勢が逆転し、ノアがニマニマと嫌な笑みを浮かべた。


「別に、不味くはないですけど……」

《けど~?》


 これは、素直に白状しないと有ること無いこと好き勝手に言われる可能性が高いな。後々の事を考えると、そちらの方が厄介だ。仕方がないと溜息を吐き出す。


「あー……。フレヤが幸せでありますように」


 言ったは良いものの、やはり気恥ずかしい。居心地の悪さに、髪を少し乱してしまった。


「これで、いいでしょう。ほら、飾りますよ」

《待って~。それ、どうやったら叶うかな》

「……はい?」

《女王様の力を込めるか?》

《それじゃ意味ないよ~》

《じゃあじゃあ、ワタシ達の力を込める!》

《ど~だろ? でも、いっぱい込めれば或いは……》

《試す価値あり、か……?》

「ダメよ、みんな」


 フレヤがオロオロとノア達を止める。それに、全員の視線が彼女に向いた。

 目が合って、パッと逸らされる。じわじわとフレヤの頬が赤くなるのに、こちらも照れて口元を手で隠した。


《きゃーっ! 甘酸っぱいわ!》

《ミラ~?》

《ぴえっ!?》

《断る》

《まだ何も言ってないわよ!!》


 どうにも上手い言葉が見つけられない俺にとっては、このノア達の愉快さが助かるといえばそうなのだが……。何とも言えないな。


「んんっ、飾りを完成させましょうか」

「……そうですね」


 流星が願いを叶えてくれるなど、とんだ与太話だ。幼い頃に願ったことは、何一つとしか叶った記憶がないのだから。

 けれど、そう。叶うといい。今まで叶わなかった分、どうかどうかと。フレヤと隣り合って飾った祈り星に、切と願った。

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