ミギディミギディ
話は遡る事、まだ串の盛り合わせが一皿目だった頃。
北村君は鶏源郷に入店してから焼き鳥を食べるよりも説明する為に口を動かし、自身の作ったゲームと自身が夢見る会社の話を俺に語り続けた。
研修期間を明け晴れて正社員になった北村君。その瞳に映るのは情熱と輝かしい未来の数々。ブラックな会社にどっぷり浸かり、三十路にツモった俺にはその笑顔……眩しすぎる。
――ん? ちょっと待てよ? まだ入社して四ヶ月も経っていないのにゲーム会社を立ち上げ、独立? 早すぎじゃね?
最初に話を聞いた時は、どうせ大学卒が社会の厳しさを痛感し、逃げ道の為に選んだ甘い考えと思っていたが、北村君の目は本気そのものだった。
俺が新卒の時に同じような理由を言って辞めて行った人間を数名知っている。あれから八年、彼らの殆どがどのような末路を辿ったか大体読者の想像通りだろう。作りたい物と売れる物が相思相愛とは限らないのだ。
この悲しい結末を俺が語るにはとても忍びないので割愛するが、我が可愛い愛すべき後輩である北村君には、彼らのような悲惨な末路を辿って欲しくない。
ここはエンジニアの先輩としてではなく、人生の先輩としてあえて心を鬼にし、君にはまだ早い! と社会の厳しさをお経のように説法しようと思った。そして実際に唱えた。
だが、俺の有り難いお言葉の数々は彼が一気に飲んだビールのように一言で飲み干された。
「これが現在進行しているゲームの概要と出資元の企業。それと投資家リストです」
北村君は手を伸ばし、持っていた鞄の中から広辞苑の分厚さをも超える資料の束を取り出し、俺に差し出した。
んん…? とりあえず、念入りに作られたであろう分厚いゲームの概要書は一旦置いといて、一番上に挟まっていた出資元と書かれたお金関連の資料を手に取り、俺は目を通した。書類の文字の一番右下、太文字で書かれた出資金総金額を見て、俺は震えながら額から冷や汗を垂らした。
「総開発費。二十億四千五百八十二万円……?」
俺は目を見開き過ぎて眼球を落としそうになった。
前言で想像していた北村君の起業イメージが俺の中で完全崩壊した。
「苦節四年。ようやくここまで来ました、順に追って説明します」
「え? は、はい」
気付けば北村君に敬語を使っている俺がいた。
〇
北村君がゲームについて語る時の瞳は紫金石を散りばめたような輝きだった。希望とか情熱とか、熱い何かが瞳の中で鋭く俺を見つめている、そんな感じだった。
四年前、北村君は神の御告げを受けたかの如く、今作っているゲームの構想が浮かび、このゲームを作る事に人生を捧げようと誓ったそうだ。彼は大学でゲーム研究サークルなるものを立ち上げ、クラウドファンディングで同士と出資者を集めた。プレゼンテーション能力もさることながら、彼のゲームの期待値に多くの人々は魅せられ、海外大手のジャズスターゲームスが融資を表明した事を切っ掛けに。世界中からお金と優秀なチームが集まり、現在二十億を超える出資を集め、事業を進めている。
最初は嘘だと思ったが、俺が鳥ちょうちんを堪能している間や、俺が会社の愚痴を喋っている間にも、北村君はスマートフォンを弄り、リアルタイムで世界中の優秀なエンジニアとオンライン会議を行い、仕事をこなす。
北村君がゲームを楽しそうに作り上げている現実を目の当たりにして。嫉妬心からか、飲んでいるはずなのにちっとも楽しくない、酒は進むのにどんどん酔いが醒めていく。
なんだ? この漫画みたいなサクセスストーリーは。大人になった出木杉君かよ。っておいおい、なんでそんな天才がこんな黒を黒で塗りつぶしたような激ヤバ中小企業で油売ってんだ?
北村君曰く、今回優秀なエンジニアを見付ける為、自身の若さと新卒と言う立場を利用して、セキュリティー関連の我が社に潜入入社し、人材を探していたとの事らしい。
その若さでもう人を雇っているのかよ。俺が必死にコンパで女の子のお尻を追い掛けていた年齢で、彼は世界を相手取り、自身の夢を追い掛けている。なんだこのヒマラヤと消しゴム位の差は。
北村君が自由にこの世界を羽ばたく大鷲なら、俺は鶏であり、社会の量産型であり、搾取されるだけの存在。きっといずれは、この砂肝のように社会の闇に食べられる運命なのだろうか。彼と自分を比べれば比べる程。己の惨めさが際立って仕方ない。
だが、北村君は俺の手を引く。
「このゲームの完成には先輩が必要なんです。是非、力を貸してください」
彼は俺を必要としてくれる。そして評価し、対等に見てくれている。
もう、北村君と言う存在が俺には眩しかった。眩しすぎて直視出来なかった。それはこの惨めな砂肝に翼を授ける神様のような存在だった。
そして俺は彼から受け取った分厚い資料を開き、彼の作る世界の扉を開いた。
北村君のくれた概要書を読めば読む程、唖然と茫然とビックリマークが乱発する。
〇
製品名「ミギディミギディ」
プレイ内容はよくあるFPSゲーム。百人規模のプレイヤーが同じステージに集められ、生き残りを掛けた一人称ガンシューティングゲームだ。銃や剣などの武器やバリケードを作ったりして戦術的に闘うゲームだが、ミギディミギディはその仕様に選択性異能力バトル物を追加し、ちょっと変わった戦闘システムを採用していた。
二百五十五個の質問を「YES」「どちらかと言えばYES」「どちらかと言えばNO」「NO」の四択で回答していき、性格診断のようなチュートリアルをプレイヤーは行い、選んだ選択により、「マゼンタ」「シアン」「ゲルプ」と呼ばれる三系統の異能力を身に付ける。
属性攻撃や移動速度、防御力などを向上する戦闘能力系に特化した能力、マゼンタ。
敵からの認識を阻害する能力や千里眼のように監視できる策略的能力、シアン。
回復や蘇生、条件ありきだが一撃必殺技などの起死回生向き能力、ゲルプ。
授けられた異能力を状況に応じて使い分ける心理型サバイバルゲームだ。
やば、超本格的やん。書類を握る俺の手がワクワクで止まらない。
全ての異能力は三段階のレベルが存在し、レベルによって異能力がクラスアップし、使い方が変わる仕組みだ。
例えばシアン系異能力。千里眼を例に見れば、レベル一では一度視野に入れたプレイヤーのみ追跡可能にする能力。レベル二は障害物関係無しに半径三キロ圏内のプレイヤーをサーチ可能。レベル三は全エリアの全プレーヤーを監視出来る能力と、異能力のレベルを上げれば強い異能力を開放できる。
だが、開放には誓約がある。
プレイヤーには潜在能力値が定められており、一バトルに使えれる潜在能力値は最大百。
レベル一の異能力開放には三十を使い。
レベル二の異能力を開放するには六十。
レベル三を習得する為には百の潜在能力値を費やなければならない。
要するに異能力「マゼンタ」「シアン」「ゲルプ」三つの異能力を同時に習得したいなら百ある潜在能力値を全て割り振る必要があり、結果的に全てレベル一までしか習得できない。レベル三を習得する為には残りの二つの異能力を犠牲にしなければならない。
バトルを行う度に潜在能力値はリセットされ、毎度、異能力のカラーとレベルを自由に選べれると言う、自由度の高い仕様だ。
よく考えられた仕様だ。これなら使いたい異能力に応じて能力値を振り分け。戦闘タイプを変える事が出来る。
ステージの特性や相手の能力によっては、異能力を三色使った方が良い場合があったり、一つに特化した方が強い能力だったりと、やり方は様々。プレイヤーの独自性に委ねられる。強くなる為にはシューティングゲームの腕前はもちろん。戦術と戦略を考える思考力を必要とするゲーム。それがミギディミギディ。
与えられた才能を生かすも殺すもプレイヤー次第となんともとても業が深い。運も努力も必要なゲーム性だった。
そして、素人の俺が考えるだけでもドハマりしてしまいそうなゲームだった。
俺が前のめりで仕様書を読みふけていると。北村君はすかさず、スマートフォンを取り出し俺に渡した。
「良かったらプロトタイプですがNPC相手にプレイしてみてください」
「え? もう出来てるの?」
寝耳に水! 屏風に書かれた虎を何食わぬ顔で屏風から取り出し、さあ! 捕まえてみて下さい! と言われているような気分だ。一休さんも流石にビビるだろう。
北村君が大金と四年間の月日を掛け緻密に作られたゲームの仕様書を見てしまったんだ。面白いに決まっている。このゲームを起動させれば、きっと北村君の全てに惚れ込んでしまうだろう。というより、これまでも君と言う人間を見てきたんだ。てか、もう企業関係無しに北村君と言う人間性におじさんゾッコンだったけどね。
俺はもう北村君の手の上で躍らされている。
恐る恐るスマートフォンを受け取り、頬を赤くし、ニヤニヤ笑顔の北村君の横でゲームをプレイする。
〇
――気付けば三十分、まるで時間を切り離され、別次元に送り込まれたように、俺は北村君が作った世界に没頭していた。そして期待を隠せない跳ねる声で「どうでしたか?」っと言う北村君の質問を耳にし、現実に戻ってきた。
ぶり返していた鶏源郷依存症が醒め、注がれていたはずのビールの泡は上昇気流に乗って大気圏を貫き、トキメキ星となって俺の心を高鳴らせていた。
クソったれー! メッチャおもろいやんけー!
自身の持つ異能力の組み合わせ次第で弱いと思っていた能力に使い道が生まれ、三色の能力の組み合わせを変える事で遠距離戦から近距離戦まで戦闘の仕方がガラリと変わる。
俺も趣味程度でこの手のFPS系ゲームを程よく嗜んできたが、このゲーム性のクオリティを見せられれば、出資者企業リストの会社達が惚れる理由が理解できた。北村君の提示するミギディミギディは一攫千金の匂いがプンプン香ってくる。
脳内には凄いっと言う言葉が乱発する。スマートフォンを北村君に返すと、感銘受けた手はまだ臨場感に浸ったまま震えていた。
だが、それと同時に疑問が浮かぶ。これ程、完璧と言っても良いゲームに対してこれから俺がこのゲームに何をすればいいと言うんだ?
俺が疑問視する表情を諭すように彼は答えた。
「入社から見てきた結果ですが。哲郎さんはセキュリティー開発のエキスパート。その培ったノウハウと技術力でチート行為をする違反者に対抗できる完璧なセキュリティーシステムを構築して欲しいんです」
チート行為とはチートの語源、騙すの語源通り、オンラインゲーム内でゲームデータやプログラムを改ざんし、故意にプレイヤーに優位にする不正行為だ。著作権法に引っかかる犯罪であり違法行為である。
北村君は自身のゲームの弱点である、セキュリティー対策に力を入れたいと、技術ノウハウの手に入れる為、専門企業を当たった所。我が社に行き付き、俺を見付けたとの事。
「このゲームは異能力を組み合わせ使う事が出来る為。発想次第ではチートと疑われるような戦術を生み出してしまうプレイヤーが現れるかもしれないんです。今のご時世SNSでプレイヤー同士、チートの疑惑を掛けられ論争になる可能性だってあります。運営としてはプレイヤーの戦術的発想力を守りながら。違法者が絶対に居ないという信頼を売りにしなければいけないんです。それが僕の作りたい理想の世界。ミギディミギディです」
俺自身、他社のFPSゲームをしている時に何度かそのチーターと呼ばれるプレイヤーに遭遇したことがある。撃っても撃ってもノーダメージのプレイヤーだったり。三百六十度絶対に撃たれない場所からの壁貫通被弾。何度でも立ち上がって襲い掛かる無敵の敵。真面目に世界ランキングを目指しているプレイヤーや純粋にゲームを楽しんでいるプレイヤーにしてはこれほど不快な行為はない。結局、悪が蔓延る所に希望などなく、そのチートプレイヤーごと、そのゲームのサービスも終了してしまった。
ミギディミギディは異能力の探り合いや駆け引きバトルが味噌であり肝。運営としては安全安心なゲームを提供する事が大前提であり、宿命でもある。
だがそれを踏まえて何故北村君は俺を引き抜こうとする? 我が社には優秀なエンジニアは沢山いる。俺もエンジニアの端くれだが、技術的には上には上がいる。若い頃は頑張ってたけど、彼女と同棲してからは楽をして早く帰りたい一心で今はやる気など微塵もない。
「どうして俺なんだ? まさか、直属の上司だったからか?」
すると北村君は嬉しそうに答えた。
「半年間、全員のエンジニアさんを観察してデータを集めました。皆さん非常に真面目で優秀な技術者ばかりです。でも真面目過ぎるんです。だからこの会社の現状を理解出来ていない。生産性は悪く、売上を上げても残業手当で利益率は下がる一方、馬鹿げた工程案に対し、皆さん誰一人文句を垂れず考える事を放棄していました。でも哲郎さんは先月、先週、そして今日と上司に噛みついていましたね。正直見てて、この半年超楽しかったです。先輩は超ウザくて超五月蠅くて、そんでもって超ワガママっす! でも裏を返せば超素直なんですよね。僕、仕事に意見をぶつけ合える人とじゃなきゃいい仕事出来ないと思うんですよ。だから気付けば、哲郎先輩を雇いたいって気持ちより、哲郎先輩と仕事がしたいって思うようになってたんです」
褒められる事に対して防御力が備わっていない俺、メッチャ気恥ずかしい。大砲があったら砲腔に入りたい。そして心置きなくぶっ飛ばして欲しい。
冷たさと炭酸が抜けたビールを無理やり飲み干し、赤面を酔いで隠す。
「ははは……ありがとうね」
とりあえず北村君の熱意だけは猛烈に伝わった。俺はその好意に少しでも答えたいと思い、俺がプレイして感じ取ったゲームに対する意見とセキュリティー対策の案を喋り倒す。
〇
酔いと時間が回り、気付けば終電ゲームオーバー。ディスカッションは深夜を振り切り、お互いゲームに付いて改善案や対策案などを出し合った。
まあ、酔いが回って出る案だから、多分後で修正は必要だろうが、俺のキャッチボールを必死に受け取る北村君。
北村君は飲みの席と言うのにボイスレコーダー片手に俺の意見にメモを取り、目は完全に仕事モード。
セキュリティー系のプログラムの組み方は俺の方が確かにプロだが、必死に吸収しようと言う姿勢には感服する。彼がこのゲームに対する情熱はもう隠しようもない事実。努力を惜しまない天才。誰かこの北村君を倒す方法を教えてくれ! 北村君の垢を煎じてあのハゲ頭専務に飲ませてやりたいとつくづく思うよ。
「てっちゃん。そろそろ店閉めるでー」
大将八ちゃんの言葉を皮切りに、俺達は会計を済ませる。
「おおきにな! あ、そうだ、二人共、これ頂きもんの十三夜庵の夜な夜な饅頭。一個見上げに持って行きな!」
「夜な夜な饅頭! これ美味しいですよねー! 大将! ありがとうございまーす!」
俺と北村君は夜な夜な饅頭を頂き、店を後にした。
〇
街路樹を抜け。スナックヘベレケを抜け。タクシーを拾おうと大通りに戻ると、大通りには何やら仮装をした若い男女の群れが屯っていた。深夜二時を超え、いつもなら静まり返る深夜の繫華街にプラスされるのは、アニメのキャラクターから、ゾンビや骸骨、ドラキュアなどなどエトセトラ。目の前には奇天烈の闇鍋が広がっていた。
「あ、今噂の熊掃除郎もいる! 皆凝ってるな~。そういや今週から新宿百鬼夜行ですもんね」
新宿百鬼夜行とはNPO法人エデン倶楽部が数十年前に発起して生まれたハロウィンイベントだ。夜の渋谷センター街一体を通行止めにして、歩行者天国にし、お互いが二メートルの間隔を開け数キロのコースを練り歩くと言うイベント。
会費は一人五百円。皆ここぞとばかりにコスプレをし、映える格好をする。なんでも数十年前程に流行った新型のウイルスがキッカケで生まれたイベントとの事。だから分散も兼ねて一ヶ月を掛けて月末まで行われる。
「リア充め。どいつもこいつも夜中にパーリーピーポーしてんじゃねぇよ」
「あれ? 先輩はしないんですか? てっきり先輩、早く帰りたがってたから夜通しするのかと思ってました」
「しねーよ。てかそう思って誘ったのかよ。やっぱ強いなー、北村君は。明日はゆっくり彼女と過ごすんだ」
まずい、口が滑った。
北村君が目を見開いて反応するのを確認し、バレたと悟った。
「え? え? 先輩彼女居たんですか! うわー! 白々しいー! あんだけ上司の不倫ネタ暴露しといて自分の事は何にも教えてくれないんすね!」
「うるさい! だから今日は早く帰りたかったんだよ!」
「それを早く言ってくれれば良かったのにー。でも今日先輩と話が出来て本当に良かったです」
話をずらしやがって畜生め、俺を見つめる眩い屈託のない北村君の笑顔。……駄目だ、もうお手上げだ。敵わない。
「……俺も君が部下で良かったよ」
「はい! あ、先輩。俺、納期明けに退職して自社に戻ります。今まで本当にお世話になりました。ミギディミギディの広告用資料をお渡ししておきますので、じっくり考えて下さい。良い返事が聞ける事を期待しています」
俺は軽く頷いた。北村君は道路に大きくサムズアップし、タクシーを捕まえて笑顔で別れを告げた。
「彼女さんには謝っておいて下さい。ではおやすみなさい」
右手に委ねられたミギディミギディの資料。フルカラーで3Dの多種多様なキャラクターが楽しんでいる最高の構図が目に飛び込む。それはまるで夢の世界にご招待されたプレミアチケットに見えていた。自由という翼のファーストクラスに乗るも乗らぬも俺次第。こんなチャンス二度と訪れる事はないだろう。
だが、直ぐに回答が出ない俺がいた。
俺は悩んでいるのだろうか? とりあえず酒の勢いで決めて良い判断じゃない事くらい理解できた。ふと冷静になると、家路で不気味な顔を見せる彼女を表情が脳裏に浮かんだ。
「やべ、飲み過ぎた。急いで帰らなきゃ。ナナが待ってる」
体内に周ったアルコールは脳と三半規管を麻痺させる。俺は軽度の千鳥足でタクシーを探しながら家路を目指した。
「おい、そこの人族の男よ」
誰かが俺の肩をトントンし、呼び止める。振り向いた俺はのけぞり驚いた。
「うげぇ!」
驚くも無理はない。そこには、まるで北アメリカのグリズリーの如く、二メートルを超える斑模様の熊が立っていた。繁華街に熊が迷い込んだとなればまともな神経では太刀打ちできない。
「これはこれは脅かして悪かった。吾輩は猫の神。名前はマダナイと申す。日本の民よ、これから吾輩を願いを叶える為、少しばかし協力してくれぬか? さすればお主に魔法と言う力を授けよう」
「はい?」
ちょっと何言ってるか分からない。てか酔いが回って理解も追い付かない。
熊が猫だと喋り、熊が神だと名乗った。魔法? 力を与える? 何処から夢で何処までがファンタジー? 俺の目が点になるのも関係なしに、熊のマダナイさんは俺の手を強引に引いて立ち上がらせてくれた。