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彼方の御空の下で  作者: 行きずりの骸
第一章
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1-1.目覚めた場所

 ぴちゃ、という何か雫が顔に落ちた感覚で意識が浮上する。いつの間に寝ていたのだろうと思い、瞬時に直前の事を思い出す。そうだ、猫追っかけて変な奴に遭遇したんだ。

 「…え?」という声がまず意識せず溢れた。目を擦って上半身を起こし、周囲を見回す。そこは薄暗く――寧ろ何故微妙に明るいのか――岩肌に囲まれた、洞窟としか思えない場所だった。

 俺は夢でも見ているのだろうか。それにしてはいやにリアルな夢だ。取り敢えずもう一度眠れば目が覚めるのだろうか、なんて思いながら一度は起こした上半身を横たえようとして、いやいやと身を起こしなおす。

 近場にあった座るのに丁度良さげなでっぱりだか岩だかに腰掛け、冷静になれと反芻しながら状況を考える。

 然し程なくして複数の足音らしいものに気付いて顔を上げた。どうやら誰か此方に来そうである。隠れるべきかと逡巡しているうちに少し先の通路になっているあたりがぼんやり明るくなり、人影が見えた。

 此処は取り敢えず出迎えてみよう。隠れる場所もぱっと見当たらなかったのでそう判断し、人影を凝視する。

 やがて通路の影から三人ばかし、人が現れた。先頭に金髪の青年とそのすぐ後ろに並んで少年少女。全員まだ若く見える。だが、俺は視界に入ったある物に目を奪われた。

 先頭の青年は立派な長剣を構えているし、後ろの少女が構えているのは銃で、少年に関しては弓を持っていた。とてもおもちゃの類には見えず、そうなるとつまり全員武装しているという事だ。


――選択を間違えた


 直感でそう思った俺は、然しどうする気力もわかず、すぐにどうでもよくなって一瞬浮かした腰をまた下ろした。別に失うものもないし、いつ死のうと構わない命だ。ましてやこれが夢という可能性の方が現状まだあるし、慌てても仕方ない。

 「…おい、あんた。其処で何してる?」と先頭の青年に問われる。


「別に…なにも」


「…此処は立ち入りを禁じている。どうやって入ったんだ?」


「…わかりません。気付いたら此処で寝ていたので」


 ぼんやり、嘘は言っていないよなと思いながら答える。三人は顔を見合わせ、何か小声でやり取りしているようだ。

 少しして話がついたのか、着いてくるように青年に言われる。断る理由もないので俺はそれにどうとでもとれる反応を返し、のろのろと腰をあげて後をついていった。

 こんなひょろひょろの俺相手に随分警戒しているようで、前方を青年が歩き、左に少女、後ろに少年という固められっぷりだ。

 暫く歩いていると前方に光が見え、洞窟の出口についた。

 青年が洞窟の入り口脇に設置された定位置らしき場所に松明を戻し、再び歩き始める。俺はといえば眩しくて目が痛い。少しもたついた所を少女に銃で小突かれた。

 洞窟の外は見事な森が広がっていて、やっぱり日本とは思えなかった。そもそも現実という感じももてない。

 明るい所で見た隣の少女は透き通るような水色の髪を引っ詰めており、抜けるような白い肌と菫色の瞳が見事にマッチしていて物凄い美少女だ。


「うざい、こっち見ないで」


 キッと睨みつけられた。此処まで綺麗な生き物にされると、何かに目覚めそうだ。なんて思っていると集落――村と呼ぶ方がいいか。そんな開けた場所に辿り着いていた。

 すぐに「エディ達が帰ってきた!」という声が響いて、次の瞬間にはやや遠巻きに村人達に取り囲まれていた。よく見れば家の窓からも視線を感じる。

 その村人の中から、オレンジ色の頭をオールバック調に纏めた男が歩いてきて青年と俺を交互に見遣り、「…こいつが?」と声を発した。


「こいつしか不審なものはなかったし、いなかった。取り敢えず大人しいし、これといった魔力も感じないから、ニオの所へ連れていって判断を仰ぐつもりだ」


「それがいい。念の為、そこまではジーナとヒースも一緒にいてくれ」


 美少女の名前はジーナというらしい。という事は消去法で少年はヒースというのか。と会話を聞きながら見ていると、ジーナは不承不承といった様子で頷き、ヒースは素っ気なく頷いたように見えた。少し性格が見えた気がするな。

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