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 顔を上げると、まず視界が一変していることに気づいた。さっきまではあんなにも暗かったはずなのに、魔力だと直感で分かったもので溢れかえって昼間のように明るく見えた。


 それとさっきから聞こえていた小動物の念波も、空耳に近いものから確かに聞こえる肉声のように感じるようになっていた。


 美鈴が驚く中、明るくなった視界の先では黒い怪物かげも警戒心を強めて間合いを見定め兼ねていた。


『なんでもいいんだ。君は顕現に特化した魔法使いみたいだし、なにか、強力な武器を思い浮かべてみてよ』


 美鈴の肩に乗った小動物はいともたやすくそんなことを言ってきた。


「強い武器……」


 そういきなり言われたところで、ぱっと出てくるものでもない。


 多種多様な”武器”を知っているからこそ、安易な破壊力を持っている爆弾を真っ先に思い浮かべてしまった。その中でもとりあえず出てきたのが水素爆弾ツァーリボンバだったのは、誰にもいえずただ頭を振って忘れた。


 それ以外。そうなるとどうしても限られてしまう。


「ねえ、それ物語のでもいいの?」


 尋ねるとこくりとうなずいた気配がして、念波が伝わってきた。


『どんなものでも。神話でもなんでもいいけど、ただひとつ注意して。完璧に頭の中で画き出さないとダメだよ』


 うなずいて美鈴はそれを鮮明に画き出した。


 美鈴には体力も、剣術やその類の才能はない。そうなると自動で相手を倒す武器が必要だ。神話の中から選ばれる武器は数種類ある。さらにそこから使用するにあたり、身体的条件が課せられたものを除外していくと、


「見つけた……」


 すこし不安が残るが、条件を満たした武器がひとつだけあった。


 何もしてこないと踏んだのか、化け物は間合いを一気につめる。


 美鈴は脳内にその姿をしっかりと描いた。あたかも現物を何度も目で見て手で触れたことがあるかのように、それを鮮明に画き出した。それの名前は、


「Fragarach!」


 空中に浮かび上がった閃光の中に、それはあった。美鈴は恐れることなくそれ掴み、この世界に引き出す。


 革の鞘に納まったその剣は細く短く、片手で振るうことを前提に考えられた創りになっている。なによりも全知全能の太陽の神と称えられたものが持つにふさわしい、研ぎ澄まされた機能美が輝く洗練されたデザインだ。


「すごい……」


 その雄姿に思わず感嘆を漏らした刹那、目前に現れた化け物の顔。


「きゃ!?」


 驚いて悲鳴を上げながら後ろにのけぞり、バランスを崩してしりもちをついたその時には、決着が付いていた。


 美鈴に危険が迫った刹那、その剣はひとりでに走り、一直線に化け物の脳天目がけて飛び、その胴を刺し貫き両断した。勢い余って鍔まで地面にめり込んでいる。


 機能までも完全に再現された魔法の剣に唖然としつつ、美鈴はしりもちをついたままだった体を起こして立ち上がった。


 あんなにも強力で恐ろしく感じていた影の化け物を、一瞬で倒した。完全に魔力の中枢を破壊された化け物は、砂のように細かい粒子になって消えていく。


 敵を倒すと、溶けるように窮地を切り裂いた剣も消えていった。


 すべてが幻覚だったように思えてきて、美鈴はぼうと何もない空間を見据えていた。


『ミレイ。ありがとう。助かったよ』


 降って湧いたような声にはっとなって、視線を下げる。なんとも形容しがたい小動物が後ろ足で立っていた。


 イタチ科の動物に似ていなくもないが、妙に大きい後ろ足や猫のように発達した前足が完全に相違している。まして全身にフレアパターンのような模様がはいっているのがあたり、完全にこの世界の動物ではない。


『それにしても、まさかこんなに強力な素質を持った人間が、こんな辺境にいるとは思わなかったよ。副名の強化もしないで、魔装具の召還と神具の顕現なんて大技やって見せた人なんて初めて見た』


 何のことを言われているのかさっぱり分からなかったが、どうやら褒められているらしい。どう反応したら良いものか悩んでいると、小動物はくるりと長い体を翻した。


『じゃあね、ミレイ! もう二度と会わないことを願っているよ。本当にありがとう!』


 そう言い残して、その正体不明の小動物は消えた。それと同時に美鈴の服も元通りに戻っていた。泥汚れや破れていたランドセルも元に戻っているあたり、余計に今までの出来事が夢か幻かと疑わせた。


「お嬢! お嬢どこですか!!」


 スポットライトのように強力な光が、公園の外から差し込んできた。それと同時に聞き覚えのある声もだ。あれは美鈴の家で働いている男の声だ。


 一度首をかしげて、美鈴は声のした方向へ小走りに走っていった。きっと、良くない夢を見ていたのだと自分をごまかした。


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