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 そうして先日美鈴が破壊した展望スペースまで来た。


「本当に、広いね……」


 薫が顔を引きつらせながら周囲を見渡す。


 盆地に広がる街全体を、ほぼ見渡せる位置にある美鈴の家。淵にあたる山の一角の中でも、一番高いためだ。


「そうなの?」


「そうだよ」


 小首を傾げた美鈴へ、間髪いれずゆかが言う。


「まずヴィエダー様から、アルマニア式の魔法の説明を頂きましょうか」


 葉月が言うと、きょろきょろしていたヴィエダーが軽く飛び上がる。少女将校のような紺色の服がふわりと浮いた。


「は、はい。それじゃ、僭越ながら……」


 ヴィエダーがぺこりと頭を下げると、頭に載っている帽子が落ちそうになって慌てて押さえた。そんな仕草にゆかは鼻の下を伸ばして、良いよぉ、と呟く。


「まず、魔法の原理から説明します」


 妙に他人行儀でぎこちないのは、おそらく説明することに慣れていないからだ。元居た世界では、説明するのは周りの大人で、ヴィエダーは単なるプロパカンダでしかなかった。


「魔法とは、人間の体内にある生命力から生成される魔力を燃料にします。油をまいて火をつけると燃えるのと同じように、魔法使いが何もない空間に魔力を流して世界を塗り変えるんです。それが魔法と呼ばれるものです」


 それを聞いて、美鈴は突然手のひらの上に小さなナイフを顕現させた。


「これ?」


 首をかしげて尋ねると、ヴィエダーはうんと頷いた。その顔が少し引きつっている。


「それは本当はものすごく難しい超高等技術なんだけどね。そしてここからが大事なことです」


 ヴィエダーは突然襟留めのスカーフを解いて、胸元をはだけさせた。ゆかが興奮して鼻息を荒くする。そしてまだ膨らむ兆しのない左胸の上、鎖骨の少し下のところを三人に見せた。手首で見えない部分を、ゆかは首を左右に振って覗こうとするが、薫に頭を叩かれて止めさせられた。


「みんなにもあるこの刻印が、これが意義名っていう魔法使いが持つ”力”の名前です」


 青い光を滲ませて浮かび上がった、見たことも無い言語で書かれたその文字。三人には自分のものは読めても、人のものは読めない。


「あ、これは魔法使いじゃないと見えないから、安心して!」


 そっと三人は自分の胸に触れたので、ヴィエダーが慌てて説明する。二人はほっと息を吐く。そして服を直しながら話を続けた。ゆかは残念そうだ。


「っと。その前に、名前のことを教えてないですね。


 名前とはその人をあらわす言葉です。逆を言えば、名前が沢山あれば、別にもうひとりの人間がいるのも同じといっていいです。でも、その名前の正体はやっぱり同じだから、複数人の生命力が同じヒトの中にあるのと同じ状態になります」


 うんとゆかが首を捻る。美鈴と薫はなんとなくだが納得したらしい。


「二つ名前があれば、力が倍になって、みっつなら三倍になります」


 困ったようにヴィエダーが言うと、ゆかは納得した。原理を説明するより、結果だけ言った方が良いのだろう。


「そして魔法使いは、最低三つの名前を自らに刻みます。本当の名前である真名。力の名前の意義名。本名の代わりの名前は字名っていいます。そして強ければヒトが勝手に付ける異名も生まれます。


 例えば、ミレイなら。胸にあるのが意義名で、カレック・ランド・ディボズィヒト・ツェゲッベンが字名になります。魔法使いの風習では、自己紹介するときは字名を名乗ります。ちなみに私の字名はビッテ・ヴィエダー・ディカーフト・オンヴィヒティング・ディーガで、仲間に開放の春風っていう異名をつけてもらいました」


 少し照れた笑いを浮かべる。それを聞いて小首をかしげた美鈴が口を開く。


「じゃあヴィエダーの本当の名前は?」


 美鈴が尋ねると、ヴィエダーは困ったような顔をしてから答えた。


「えっと、私は平民の出だから家の名前はないんだけど、一応シャルロットっていうのが、真名だよ」


 内緒にしてねと付け加える。しかしゆかはぶつぶつつぶやいているので聞いていない。


「じゃあ、シャーちゃんだね。恋人はいる?」


 質問の趣旨が理解できないにしても、ヴィエダー改め、シャルロットは頬を赤くした。


「い、いないけど、どうして?」


「アタシがちょっかい出しても、誰も文句がないでしょう?」


 言葉の意味が分からないシャルロットは首をかしげる。


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