21
むせび泣くそれは、すがるように美鈴の肩に顔をうずめた。
一瞬迷い、美鈴はそれの肩を抱いた。ローブの下の肩は、自分とほとんど変わらないほど細くて小さい。
それに驚き、それがどれほどの思いを今までしてきたのかと思うと、美鈴は切なくなった。
「ゆるしてなんて言えない。でも、もうやだ。ひとりは、いやだったんだ……」
どれだけ不安だったのか、美鈴にはわからない。だが、咽ぶそれからその気持ちが直接伝わってくる気がした。
目の前で殺された家族や、仲間たち。破壊された街で死体に紛れて逃れ、木の洞でおびえながら眠る生活。
助けてくれた人たちが殺され、そのことを伝える新聞が街中にばら撒かれた。生け捕りにするべく、昨日まで助けてくれた人たちが敵になっていく。
世界でただひとりだけでいる孤独感に付きまとわれ、何もかもが尽き果てそうになった時、突然現れた人間によってこの世界に逃がされた。
逃げ延びた世界でも追跡は続き、身を休める時間すらなかった。
飛び込んできたそれは、映像ではなかった。雰囲気や感情の塊そのものだったように感じた。だから余計にそれがどれだけの思いで、助けを求めていたのかよく分かった。
「おねがい。全部ぼくのわがままなのは分かってる。二回も助けてもらったのに、おこがましいのもわかる。でももう君の才能しか、ないんだ」
少しだけ離れて、泣顔を美鈴に向けてきた。まだあどけない、それこそクラスに居てもおかしくないはずなのに、どうしてそれはこんなにも苦しんでいるのか。
何の不自由もなく生きている同い年の子供がいるのに、一方で道を少し間違えただけで死が待ち受けるそれが居る。
なぜ、こんなにも差があるのだろうか。その疑問が美鈴の胸で溢れた。
「おねがいだよ、ミレイ。少しだけ、少しだけでいいんだ、ぼくに君の力を貸して……」
語るそれは、死に物狂いで何かを求めていた。美鈴は顔を上げて、視線を交えた。
「あいつを、女王を殺すためだけでいい。あとは君の願いを守るために、その力を使ってほしい」
目元を拭ったそれは、表情を硬く締めなおした。
「あなたも、自分のために、人を殺せるひとなんだ……」
静かに美鈴が言った。その言葉にそれは一度目を見開くと、視線をはずして唇を噛む。そして決意したようにまっすぐに美鈴を見た。
「すべてが終わったあと、ぼ……、私の体は君の好きなようにしていい。君の気が済むのなら、この身を切り分けて、死の釜の底に委ねてもかまわないから、どうか……」
そういって、跪き頭を下げた。余計に小さくなったその体が、不憫でならない。
「いいよ……、貸してあげる。でも、わたしは、わたしの好きな人を守るために、この力を使うよ」
どこか疲れたような顔で、美鈴は言った。
世界はあまりにも不条理すぎるとは思う。しかし、それの悲願を叶えるためには、誰か知らない人たちをまた多く殺さなければならない。その天秤を計ることは、今の美鈴には出来なかった。
しかし、その言葉だけでも、それはくったくない笑みを浮かべて見せる。
「ありがとう……」
心の底からのお礼の言葉に、美鈴も微笑んだ。そしてそれはまた小さな小動物の姿に戻る。
『そういえば、まだ名前教えてなかったね』
これだけ深い付き合いになってしまったのに、まだ美鈴はその相手の名前すら知らないことに、急におかしくなってきて、思わず笑ってしまう。
「そういえば、そうだね」
立ち上がって埃を払うと、小動物が向き直って器用に後ろ足だけで立って見せた。
『私は、ヴィエダー。よろしくね、ミレイ』
小さな頭を下げてお辞儀して見せた。その愛くるしい動きに、美鈴は思わずくすりと笑みを浮かべた。




