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 むせび泣くそれは、すがるように美鈴の肩に顔をうずめた。


 一瞬迷い、美鈴はそれの肩を抱いた。ローブの下の肩は、自分とほとんど変わらないほど細くて小さい。


 それに驚き、それがどれほどの思いを今までしてきたのかと思うと、美鈴は切なくなった。


「ゆるしてなんて言えない。でも、もうやだ。ひとりは、いやだったんだ……」


 どれだけ不安だったのか、美鈴にはわからない。だが、咽ぶそれからその気持ちが直接伝わってくる気がした。


 目の前で殺された家族や、仲間たち。破壊された街で死体に紛れて逃れ、木の洞でおびえながら眠る生活。


 助けてくれた人たちが殺され、そのことを伝える新聞が街中にばら撒かれた。生け捕りにするべく、昨日まで助けてくれた人たちが敵になっていく。


 世界でただひとりだけでいる孤独感に付きまとわれ、何もかもが尽き果てそうになった時、突然現れた人間によってこの世界に逃がされた。


 逃げ延びた世界でも追跡は続き、身を休める時間すらなかった。


 飛び込んできたそれは、映像ではなかった。雰囲気や感情の塊そのものだったように感じた。だから余計にそれがどれだけの思いで、助けを求めていたのかよく分かった。


「おねがい。全部ぼくのわがままなのは分かってる。二回も助けてもらったのに、おこがましいのもわかる。でももう君の才能しか、ないんだ」


 少しだけ離れて、泣顔を美鈴に向けてきた。まだあどけない、それこそクラスに居てもおかしくないはずなのに、どうしてそれはこんなにも苦しんでいるのか。


 何の不自由もなく生きている同い年の子供がいるのに、一方で道を少し間違えただけで死が待ち受けるそれが居る。


 なぜ、こんなにも差があるのだろうか。その疑問が美鈴の胸で溢れた。


「おねがいだよ、ミレイ。少しだけ、少しだけでいいんだ、ぼくに君の力を貸して……」


 語るそれは、死に物狂いで何かを求めていた。美鈴は顔を上げて、視線を交えた。


「あいつを、女王を殺すためだけでいい。あとは君の願いを守るために、その力を使ってほしい」


 目元を拭ったそれは、表情を硬く締めなおした。


「あなたも、自分のために、人を殺せるひとなんだ……」


 静かに美鈴が言った。その言葉にそれは一度目を見開くと、視線をはずして唇を噛む。そして決意したようにまっすぐに美鈴を見た。


「すべてが終わったあと、ぼ……、私の体は君の好きなようにしていい。君の気が済むのなら、この身を切り分けて、死の釜の底に委ねてもかまわないから、どうか……」


 そういって、跪き頭を下げた。余計に小さくなったその体が、不憫でならない。


「いいよ……、貸してあげる。でも、わたしは、わたしの好きな人を守るために、この力を使うよ」


 どこか疲れたような顔で、美鈴は言った。


 世界はあまりにも不条理すぎるとは思う。しかし、それの悲願を叶えるためには、誰か知らない人たちをまた多く殺さなければならない。その天秤を計ることは、今の美鈴には出来なかった。


 しかし、その言葉だけでも、それはくったくない笑みを浮かべて見せる。


「ありがとう……」


 心の底からのお礼の言葉に、美鈴も微笑んだ。そしてそれはまた小さな小動物の姿に戻る。


『そういえば、まだ名前教えてなかったね』


 これだけ深い付き合いになってしまったのに、まだ美鈴はその相手の名前すら知らないことに、急におかしくなってきて、思わず笑ってしまう。


「そういえば、そうだね」


 立ち上がって埃を払うと、小動物が向き直って器用に後ろ足だけで立って見せた。


『私は、ヴィエダー。よろしくね、ミレイ』


 小さな頭を下げてお辞儀して見せた。その愛くるしい動きに、美鈴は思わずくすりと笑みを浮かべた。


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