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 午前の授業が終わり、時刻は正午過ぎ。


 弱々しかった太陽は見た目だけでも強がって光を振舞うが、実際の屋外は風が肌を裂くように冷たい。


 それでも屋内は暖房のおかげで、心地良い温度に設定されている。


 あまりの心地よさに、美鈴は思わずふあ、と気の抜ける欠伸をひとつして瞼を擦る。


 しばらくぼうと虚空を眺めてから、ずいぶんとゆっくりとした動作で、机の横にかけた通学鞄から弁当箱を取り出した。


 そんなナマケモノのような美鈴の背後。まさしく野生のライオンのように、しなやかで静かな動きで彼女に近寄る人影があった。


 その存在に気付かない美鈴へ、慎重に間合いを詰める。そしてついに間合いが限りなく0になると一気に捕縛にかかった。


 身長差を生かして、一気に腕の中に美鈴を抱き収めてしまう。


「みーちゃん!」


「ひゃあぁッ!?」


 突然の衝撃に驚いた美鈴は、机の上にバンダナで包まれた弁当箱を落とす。


「今日もまた佐藤センセーからかってー。今度こそ本当に評価落とされちゃうよー?」


 綿貫ゆかは標準から比べてもだいぶ小さい美鈴の身体を、ぬいぐるみのようにしっかりと抱きしめて、満面の笑みを浮かべて頬擦りする。


 綿貫ゆかは引き締まった長身と、ベリーショートの髪が特徴的な少女である。他校と合同で行う体育大会の短距離走では、必ず最上位に立つほどの俊足を持つ。


 日に焼けた顔は精悍で、私服で歩いているとよく高校生の男子と間違われて声をかけられる事がある。


 このクラスの生徒を男女合同で背の順に並ばせると、一番前が美鈴で一番後ろがゆかになる。


 黙って立っていれば性別問わずに好感をもたれる容姿を持つが、彼女には少し特別な癖があった。


「あーん。抱き心地いいなぁ。髪の毛もさらさらだしー」


 ゆかは美鈴の顔に頬擦りしながら、長い髪を恭しく掴んで軽くキスをした。


 これがゆかの少し変わっている点。小さくて可愛いものは、問答無用で抱きしめて愛撫するのだ。


 そのせいで奇異の視線を集めてしまう。


「アタシが男子だったら、家につれこんじゃうのにぃ。むしろ今日うちにおいでぇ。おねぇさんと楽しいぃ事しよう。うぇへへへ」


 猫撫で声で誘うゆかにどういう対応をしていいのか分からず美鈴は、視線を彷徨わせて助けを求める。


 しかし好奇の視線は向けられても、助けようとする者はいない。美鈴はクラスで浮いた存在なのだ。


 ここはエリートを生むための進学校であり、そこに通う生徒たちは相応の教育を受けているものが多い。


 その中でもお世辞にも真面目だとは云えない美鈴は、邪険に扱われることがある。


 なにしろ真面目に勉強しているようには見えないが、それでも成績は学年で最高位にある。邪険に扱われるのは、半分以上は僻みでもある。


 美鈴を抱きしめるゆかの手が服の裾へ忍び込もうとした瞬間、ごんと鈍い音を立ててゆかの後頭部に違うクラスメイトが手に持っていた弁当箱をぶつけた。


「ぎゃ!?」


「あなたは公衆の面前で何をしてるのよ」


 品のない悲鳴を上げたゆかは、手を放して自分の頭を抑える。


「まったく……。大丈夫?」


 クラスメイト、天沢薫は美鈴の前に回るついでに、ゆかを引っ張って移動した。


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