15
さっとふすまに背中をつけて、美鈴は首をぶんぶんと横に振った。
そのやりとりを見ていた薫がくすくす笑い、勉強机の椅子に座り机に頬杖をついた。
「美鈴はお布団より、こっちの方が好きだもの、ね?」
そういう薫の頬も色づいていた。艶やかな手つきで手招きされた。何かまずい気がしてならない。そっちはそっちでまずい気がする美鈴は、やはり顔を大きく左右に振った。
「美鈴お嬢様。失礼します」
ふすまの向こうから、女性の声が聞こえた。救いの手だと心からか感謝して、美鈴は振り返って勢いよく開けた。
突然勢いよく開いたふすまに、浴衣を着た女性は一瞬驚いたように目を見開いたが、すぐににこりとやさしい笑みを浮かべた。
「お風呂のご用意が出来ました。ご友人の方々とご一緒にどうぞ」
美鈴はさっと全身から血の気が引いた。女性は失礼しますといって去っていく。
背後では早々に準備を始めている二人の気配。
「さ、行こうか、みーちゃん!」
肩を掴まれて、びくりと跳ね上がった。恐る恐る振り向くと、そこには飢えた獣の目をしたゆかと、にっこりと微笑んだ薫。
もはや逃げ場はないらしい。
察した美鈴は、大人しく洋服箪笥から肌着を取り出す。覗き込んでくる視線を感じたが、もうあきらめた。
同じく二階にある浴場に向かい、脱衣所に入ると、美鈴は執拗な視線が張り付いてくるのを感じた。振り向くと、やはり煩悩に染まりきったゆかと視線が交わった。
「は、恥ずかしいよ……」
消え入りそうな声で言ってみると、余計に興奮した様子で近づいてきた。
「いいじゃんいいじゃん。ほら、ほら、おねえさんの前でぬぎぬぎしようねぇ」
パーカーの裾を掴まれて、一気に捲り上げられた。それを皮切りに、抵抗する間も与えられずに脱がされていく。
あっけなく下着だけにされてしまった。ゆかが鼻血をたらした隙に離れて、バスタオルを体に巻きつけて隠す。
今の美鈴なら、顔で目玉焼きが焼ける気がした。
「ろりダメぜったい! のーたっち!」
両手で顔の前に大きなバッテンをつくり、潤んだ目で必死に訴える。
しかしそれを見た二人の反応は、美鈴が予想だにしないものだった。
「ふ、ふふふん。この子ったら、自分がろりろりのちょープリティ子猫ちゃんだって事ちゃんと自覚してたんだね……。ほ、ほらぁ、いいこだいいこだ。こっちにおいでぇ」
ゆかは両目を怪しく輝かせてにじり寄ってくる。
助けを求めようと薫を見ると、なんと彼女も美鈴の世代の子供が浮かべていはいけない妖艶な笑みを浮かべて近づいていた。
「なにをそんなに怖がっているの? 私達、女の子同士じゃない」
たしかに同性である。しかし、それでも先ほどから受けている行為からすれば、危険なことに間違いはない。
美鈴の目元にじわりと新たに涙が膨れ上がり、顔をくしゃりとゆがめた。
「ふたりとも、こわいよ……」
脅えた声でつぶやくと、その場にぺたんと座り込み、顔を覆ってしまう。
そこで二人は自分達が行き過ぎたことをやっと実感した。慌てて彼女の隣に座りこんだ。
「ご、ごめんね……」
「ごめんなさい。調子に乗りすぎたわ……」
悄然としたふたりの態度に、顔を上げた美鈴は、濡れた顔で首をかしげる。
「も、もう、こわいこと、しない?」
美鈴が赤い顔で尋ねると、一瞬ゆかはぐっと押し黙り、頷いた。
「大丈夫。もうしないから」
「安心して。もう絶対に怖がらせたり、恥ずかしい思いはさせないから」
二人が強く、半分以上は自分を戒めるためにそういうと、美鈴はにっこりと微笑んだ。
「ありがと」
さっそくの試練に、ゆかは悶絶しながらも何とか耐え切った。
「そ、それじゃぁ、お風呂、入ろうか」
薫に言われ、美鈴は脱ぎ散らかされた自分の服を拾い、籠に放り込んだ。
そして躊躇いなくタオルをはずして、下着もあっさり脱いで籠の中に入れていく。
「み、みーちゃん……」
その躊躇いのなさに一瞬呆気に取らた。そしてそのまま浴場に行こうとしたので、慌ててゆかが小さなタオルを渡した。
「お、お願いだから、かくして……。また、襲いそう……」
後半は小さく、ぎりぎり美鈴には聞こえないほどの声でつぶやいた。
不思議そうに首をかしげながらも美鈴は従い、体を隠した。




