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TABOO  作者: 1GIFT
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第一話 開幕

薄暗い道を白衣を着た男が歩いている。


道は狭く、2人並んでギリギリ通れるか分からないほどだった。


しかも辺りを照らしている光は夜の星の灯りほどしかない。


地図を持っていたとしても迷ってしまう人の方が多いだろう。


しかし男は一切迷うことなく目的地である扉の前までやってきた。


扉には二重ロックがされていたが、男は慣れた手つきでパスワードを入力し、虹彩認証を済ませる。


「認証確認。ロックを解除します」


機械的な音声が流れ終わり、男を迎え入れるように自動的に扉が開かれる。


部屋の中に窓などは一切なく先程の道と同じほど暗く、室内には冷たい空気が漂う。


部屋の奥には鉄格子があり、その中にはボロボロの服を着た青年……いや、子供の姿があった。


髪色は青と異質で両足を鎖で繋がれており、自由に動き回れないようになっていた。


繋がれた鎖は鉄格子に比べてかなり新しく、小さな灯に照らされて光っている。


「おい、起きてるか。俺の声が聞こえるか?体は自由に動くか?」


子供に向かって男が問いかける。


問いかけられた子供は、ゆっくりと目を開け男の目を睨みつけた。


男はニヤリと笑うと、子供に向かって話し始めた。


「これは驚いた。睨まれるなんてことは初めてだ」


男は子供の体を見て異常がないことを確認すると、また話し始める。


「その様子だと、体の方にも問題はなさそうだな。なるほど、完成したと言われるだけのことはあるな」


子供の状態を確認し終わり出口に向かって歩き出すが、ふとあることを思い出し、子供の方に向き直る。


「そういえば、もう1人いたな。もし使い物になるならお前の弟になるかもな。」


部屋を後にした男は、戻る最中に小さく言葉をつぶやく。


「新時代の開幕だ」


男はそう確信していた。




第二次世界大戦中、日本に原爆が落とされ、それをきっかけに戦争は終戦を迎えると思われた。


しかし戦争は終わるどころか勢いを増し、戦場はさらなる地獄へと変わる。


終戦までには長い年月と数え切れないほどの尊い命が失われ、多くの怒りや悲しみが生まれてしまう。


この戦争の犠牲と引き換えに日本が手に入れたものは、科学技術の発達というものだった。


そして時代は現代に至る。


今の街並みに昔の面影を思い出せる人はもうほとんどいなくなっていた。


都市は急速に発展し、田舎という場所いや、言葉自体が存在しなくなり周りを見渡せば高層建築物が至るとこに見える、しかもそれは日本中のことである。


植物は人工物へと姿を変え一部のマニアが好き好んで買うためのものとなり、道端に生きていた花たちは日常から姿を消した。


そんな中、大阪のどこかの路地裏にはっきり言うと時代遅れ、よく言うとレトロな雰囲気の店があった。


壁や床は全て木でできており所々補強された跡がある。


店内をオレンジ色の光が照らし、人々の語り場の雰囲気を作り出していた。


客のほとんどは朝っぱらからビールを飲み自分たちの話を楽しんでいる。


客足は良好で店のテーブルに関しては満席となっていた。


店主がグラスを磨いていると、突如店の扉が開かれ男二人組が入ってくる。


年齢は若く両方とも二十歳を超えてるようには見えない。


先頭の男は上が青で下が灰色の作業着を着ていて、頭にゴーグル、両手にタクティカルグローブをつけていて右手の5本全てにはめられた銀色の指輪は、店の電灯に反射し輝いている。


服の上からでもわかる程度体が筋肉質あり、髪色は他と違い黒くなく青色で、いい意味で目立っていた。


曇りのない眼をしており表情には自信が満ち溢れている。


そして何故か足首には鎖が巻かれており、少し年月が経っているのか錆び付いていた。


もう1人は先ほどと比べると良く言うとシンプルで、赤のパーカーにかかとが隠れてしまうほどの長い茶色のワイドパンツを着ている。


寝癖がついている赤い髪にやる気のない目、見た目からしてだらしない男だ。


そして足首には同じく鎖がついていたが、こちらは右足だけだった。


2人とも店に入ると、先頭にいた男<カイン>は店全体に聞こえるような声で喋り出す。


「おいおいおい、人がいるなんて珍しいな。俺はいっつも通りすっからかんだと思ってたぜ」


それを聞いた客の数名が笑い出し、店主はカインを見てめんどくさそうにしていた。


店を見渡しながらカインと男は歩き出す。


カウンターで食事をしている男がカインに向きなおり声をかける。


「よぉ、カイン。相変わらず元気だなお前は」


「ああ、朝っぱらから皮肉をいえるくらいには元気だぜ」


2人はカウンターにいる店主の前まで移動し話しかける。


「おやじ、いきなりで悪いが仕事あるかい?できれば近場で労働時間が短いやつがいいんだけど」


腕をカウンターのテーブルに置きながらカインがそう聞くと、店主は眉間にしわを寄せ答える。


「店に入り数秒で営業妨害するようなやつにできる仕事があるとでも思ったか?」


「怒んなよ、悪かったって。それに仕事を与えてやって欲しいのはアベルの方だ。俺は……まあ一様仕事あるしよ」


苦笑いを浮かべながら、もう1人の男<アベル>のことを親指で指差しながら答える。


「ふん、お前なんかを雇ってる所の気が知れねぇよ」


そこで今まで喋っていなかったアベルが口を開く。


「それで、あるの。ないの」


それを聞き店主はカウンターの下からチラシを持ち出し、少し優しいと思える声色で喋り出す。


「荷物運びの仕事がある。頼まれた仕事をこなせば二千から三千円程度の金が貰えるようになってるみたいだ。荷物は玄関に置けばいいから、顔も見られることもない」


「……そう」


アベルがチラシを見てつぶやいているその横で、カインは口を尖らせていた。


「もしも〜し。なんか対応が全然ちがう気がするんだけど、酷くない?」


「じゃかましい!お前らを店に入れてやっているだけでもありがたいと思え!」


感情が昂り、声を荒げる。それだけでは治らず、拳をカウンターのテーブルに叩きつけた。


その振動でカウンターのテーブルに置かれたビールジョッキが揺れ、耐えきれず床へと落ちてゆく。


皆が気がついた頃にはすでに床のすぐそばまで落下しており、ガラスの割れる音が店内に響き渡る。


……だが、実際はそうではなかった。


ありえない、決してありえない。


でも、それは起こった。


ビールジョッキは空中で動きを止めたのだ。しかもそのまま上に上がっていき、そのビールジョッキをアベルは驚くことなく手で持つ。


激しい動きだったのにも関わらず、中身は一切こぼれず波を打っていた。


「はい。こぼれてないよ」


アベルは何も気にせずビールをカウンターの上に戻すが、周りを見て自分のしてしまったことに気がつく。


ありえない光景を目の当たりににした客たちはようやく店に入ってきた人物の正体に気がついてしまった。


「ば、化け物だ」


「悪魔の子が、なんでこんなところに?!」


「化け物が人間様の店に来てんじゃねぇよ!」


店の中に2人に対する罵声の言葉が響き渡る。


アベルの顔がだんだんと青くなってゆく様子を見かねたカインは手を引っ張り、店の外へと連れ出す。


2人が出て行った後、食事をしていた男が静かに独り言を呟く。


「昔から知ってるが、やっぱり不思議な奴らだな。あいつら」


それを聞いた店主は軽く首を振る。


「あいつらは、本当にただただ可哀想な奴らだよ」


店の中は先程までの賑わいは消え、静かな静寂が訪れていた。

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