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財閥のお嬢様と始める偽装交際~「これは契約だ」と思っていたはずが、何故か財閥の総力をかけて甘やかしてくる~  作者: 戸津 秋太
二章

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六十六話 アンフェア

「本当にお泊りになられないんですか?」


 七星さんの家での勉強会を終わり、そろそろお暇しようという気配を見せ始めると、七星さんは決まって俺にそう訊ねてきた。

 今日も例に漏れず綺麗な眉を寄せる七星さんに俺は頷き返す。


「心配しなくても帰ったからも勉強してるから大丈夫」

「そういうことじゃないんですけど……」


 不満そうにする七星さんの傍ら、控えていた笹峰さんも何故かため息を吐く。

 二人の様子を訝しみながら荷物を纏め、俺は七星邸を後にした。


 七月に入り、日の出ている時間も長いとはいえ、流石に20時を回っていると暗くなっている。

 公園を通り過ぎると夏を感じさせる虫の音が響いてくる。


 道中、スーパーに立ち寄って値引きされているおにぎりを購入し、家に帰った。


「……今日は親父、いないのか。ラッキー」


 家の中に人の気配がないことを確認して俺は密かに呟く。

 手を洗い、キッチンでグラスにお茶を注ぎ、それを部屋に持ち込む。

 勉強机の卓上ライトをつけ、鞄の中から問題集とさっき買ったおにぎりを取りだした。


 ペリペリとおにぎりの包装を剥がしながらパラパラと問題集をめくる。

 早いもので試験まで残すところあと一週間となった。

 ここまで来れば授業も新たな範囲に進むことは少ないし、進んだとしても試験に出ることはない。

 つまるところ、この一週間が肝心だ。


 七星さんの家で解いたところを確認しながらおにぎりを食べる。

 ちびちびと食べ進め、食べ終える頃には一通りの確認が終わった。


 正直、自分が今どの程度にいるのかがわからない。

 勉強を進めれば進めるほどわからないところが増えていって不安になってくる。


 そんな不安を一度七星さんに吐露したことがあったが、その時七星さんは「無知の知、ですね」と嬉しそうに言った。

 なるほど、これが無知の知かぁなどと感心したものだが、試験が迫るにつれて笑えなくなってきた。


 とはいえ、これだけ勉強しているのは人生で初めてのことなのでそれなりに手応えを覚えてもいる。

 授業中に教科書の問題を解くように指示された時も、基礎的な問題であればまったく躓くことがなくなった。

 一日のうち、空いている時間のすべてを試験勉強に注ぎ込んでいるのだから、手応えがなければ逆に困るが。


「……あちぃ」


 問題集を解きながら思わず抱いた不快感を口に出す。

 七星さんの家では冷房がついているから快適だったが、この部屋の蒸し暑さは不快だ。

 やっぱり七星さんの家に泊めてもらえばよかったかな、なんてことを考えてしまうあたり、欲深い。


 ベッドの傍に置いてある扇風機を勉強机の近くに持ってきてスイッチを入れる。

 生温い空気が循環する程度だが、ないよりはマシだ。


 そうして勉強を進めているうちに、不意にシャーペンがとまった。


「ここ、どう解くんだ……?」


 今日、家庭教師の先生から新たに渡された問題集。

 試験には出ないような難易度だが、逆に言えばこれが解けるようなら試験は何も問題ないと言っていた。

 七星さんの家では解き切れなかった部分を進めていたのだが、最後の方の大問でつまずく。


 俺は数分の間考え込み、悩んだ末、七星さんに質問することにした。

 まだ22時を回った時間。この時間ならギリギリ起きてるだろう。


「えーっと、『数学の問題集の17ページ大問3の解き方、教えて欲しいです』っと。……既読はやっ」


 一瞬で既読がついた。

 相変わらず反応が早い。

 そして返信も早かった。

『少し待っていてください』と簡潔に返事が来た。


 俺は七星さんから解法が来るまでの間、他の問題を解き進めようとしてはたと気付いた。

 もしかして、七星さんの勉強の邪魔をしているんじゃないかと。


 もちろん七星さんがこの時間も勉強しているとは限らないが、俺のために時間を使ってもらっている間に俺が勉強を進めるのはなんだかアンフェアな気がする。

 まあそんなことを言ってられる状況でもないのだが……。


 少し悶々としていると、スマホがぶるりと震える。

 画面を見ると、七星さんからメッセージが来ていた。


『今からお電話してもいいですか?』

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