表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
財閥のお嬢様と始める偽装交際~「これは契約だ」と思っていたはずが、何故か財閥の総力をかけて甘やかしてくる~  作者: 戸津 秋太
二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

62/75

六十二話 保留

「七星さんに、勝つ?」


 その突拍子のない提案を俺は思わず反芻していた。

 七星さんは勢いそのままに頷く。


「はいっ。わたしに成績で勝てればそれが赤坂さんのアピールポイントになるはずですっ」


 その提案は確かに合理的だった。

 俺が七星さんの誕生日パーティーも兼ねたクルーズ旅行までの間に磨けるアピールポイントはせいぜい学力ぐらいしかない。

 そして、その学力が七星さんよりも優れていれば十二分にアピールポイントになるだろう。


 億を優に超える資産を持つ財界の人間が一高校生の成績程度あまり気にもしないが、七星さんよりも上であれば話は別だ。

 七星財閥の一人娘を上回る学力を有している者を表向きにバカにはできないだろう。

 いわば、これは七星さんの立場を利用したものでもある。


 だが、これには問題が一つあった。


「……七星さん、前回の中間考査学年一位だったよな」

「はい」

「……一年生の頃から、学年一位だったよな」

「はい」

「……なるほど、もしかして今回は手を抜いてくれるとか」

「抜きませんよ?」

「……………………」


 ――いや、無理じゃね?

 つまり、七星さんに勝つには学年一位を取らないといけないということになる。


 俺は若干表情を引き攣らせながらやんわりと言葉を紡ぐ。


「えっと、七星さんは俺が七星さんに勝てば、それがアピールになると思ってるんだよな?」

「はいっ」

「で、七星さんとしても俺がバカにされるのは避けたいんだよな?」

「もちろんです!」

「じゃあ、七星さんが手を抜いてくれたら俺も勝ちやすいと思うんだが」


 論理的に物事を順序だって説明する。

 お互いのメリットのために、俺は何も間違ったことは言っていないはずだ。


 七星さんは綺麗な眉を僅かにひそめた。


「八百長みたいなことは嫌です。それに、わたしが手を抜いたら元も子もありません」

「というと?」

「成績が落ちるとおじい様に怒られてしまいます。それも、この高校へ進学する条件でしたから」


 そういえば、以前も似たようなことを言っていたような気がする。

 授業を休まないことがこの高校に入る条件の一つだったとかなんとか。


 公立高校に入るにあたって、どうやら七星さんは優等生然としたものを求められているらしい。


「ん? だったら俺が仮に七星さんに勝つとまずいんじゃないのか? 成績が落ちるってことだろ?」

「わたしの成績が落ちていなければ問題ないんです。順位は相対的なものですから、わたしが普段通りの点数をとれていれば何も言われないはずです」

「なるほど……」


 納得はしたが、そうなるとやはりこの条件を突破するのは難しい。


「ちなみに七星さんの中間考査、主要七科目の合計点は何点だったんだ?」

「たしか、六百二十八点でした」

「……わかってはいたけど凄いな」


 素直に感心する。

 いや、状況が状況だけに手放しに称賛できないが。


 俺の前回の合計点は五百七十二点で、一年の学年末考査と比べると軽く百点以上も上がっている。

 順位も学年全体で二十位以内につけていたし、客観的に見て悪くはないと思っていた。


 だが、上には上にいる。

 全教科九十点以上をとれというのは、中々な注文だ。


「大丈夫ですっ、赤坂さんならできます! 一週間であれほど好成績を残せたんです。今から頑張れば十分に間に合うはずです! わたしにできることはしますし、家庭教師の先生もお呼びしますから!」


 眉間に皺を寄せて考え込んでいると、七星さんがずずいと身を乗り出してきた。

 期待に目を輝かせる七星さんの瞳。


 ……俺だって、ここまで言われて奮い立たないヘタレじゃない。

 確かに今から頑張れば可能性があるんじゃないか、ぐらいには思う。


 だが、やはりネックになるのはバイトだ。

 今月もすでに試験前までシフトを入れている。

 無理を言えば外してもらえるかもしれないが、そうなると稼げなくなる。


 葛藤が湧き上がり、俺は七星さんの眼差しから逃げるように「一旦考えさせてくれ」と答えていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ