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財閥のお嬢様と始める偽装交際~「これは契約だ」と思っていたはずが、何故か財閥の総力をかけて甘やかしてくる~  作者: 戸津 秋太
二章

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五十八話 憧れ

「ところで、今日はなんでまた遊びに誘ったんだよ」


 格闘ゲームがひと段落ついて、用意されたお菓子を食べながらダラダラと過ごしながら俺は不意に気になっていたことを訊ねた。


「なんだい? 用がないと友達を遊びに誘ったらダメなのかい?」

「そういうわけじゃねえけどよ。こういう風に唐突に誘うことはなかっただろ?」


 大河の家で遊ぶときは大抵「このゲームしようぜ」とか、「このマンガ読むか?」とか、そういう具体的な内容が先行することが多かった。

 今回みたいに特に目的もなく遊ぶかー、となることは記憶にある限りではなかったと思う。


「だって悠斗、予定がないとバイト入れるでしょ?」

「それはもちろん」


 誰かと遊びに行く予定でもなければバイトのシフトに入る。


「息抜きも必要だろうっていう、親友からの計らいさ」

「……大河」

「あとはそう、悠斗が遊びに来ると店番を手伝わなくていいからね」

「お前それが本音だろ」


 一瞬感動しかけた自分を殴りたい。


 舌をわざとらしくペロッと出しながら、コントローラーを手に取り直して今度はレースゲームを選択する大河。

 ジト目で睨みながら乗り物を選択する。


「大河って進路希望調査票どうするんだ?」


 大河の車へ体当たりを敢行しながら訊ねる。


「前も言ったけど、僕は実家の仕事を継ぐからね。問題は大学に行くかどうかだけど、そこは悩みどころかな」


 スリップした車を立て直しながら大河はぼんやりと答える。


「別にやりたいこともないし、学びたいこともない。それなのに大学に行ってもなぁってどうしても考えちゃうんだよね」

「まぁ、大学に進学する理由なんて学びたいことがあるか、新卒で就職するためのどっちかだしな」


 実家の仕事を継ぐことが決まっているなら新卒という肩書きも必要ではないし、確かに大学に進学する理由はないのか。


「ただまあ、学生の時間を楽しむのもありかなって感じではするんだよね」

「学生の時間、か」


 夏休みなんて学生の特権みたいなものではあるし、就職すればちゃんとした休みなんてとりづらくなる。


「そういう悠斗はどうするんだい?」

「俺は、自分の学力が許す限りいい大学に進むかな。現状できることなんてそれしかない気がするし」

「お金持ちになるために?」

「ああ」

「変わらないね、悠斗は」


 金がすべて。

 この自論は、むしろ日を追うごとに強くなっている。


「なんかさ、昔はもっと色々と将来への憧れがあったよね」


 一足先にコースを三周し終えてゴールした俺は、大河がゴールするのを待っていた。

 そんな時、ふと哀愁を漂わせながら大河が零す。


「将来への憧れ?」

「そう。将来の夢、みたいなやつ。悠斗はなかった?」

「将来の夢か……」


 大河に訊かれてぼんやりと考えてみるが、特に思い浮かばない。

 母さんが家を出て行って、父さんが荒れて、気が付けば金持ちになりたいと思うようになっていた。


「大河はあったのか? 将来の夢」


 質問を質問で返すと、ようやくゴールした大河がコントローラーを置きながら口角を上げた。


「そりゃあ、あったよ。魔法使いになろうとしていた時期もあったし、影で暗躍するマフィアのボスを目指していた頃もあった。押し入れには今でも当時着ていた魔法使いの衣装とか残ってるんじゃないかな」

「ただの中二病じゃねーか」

「そうともいう」


 昔の思い出を楽しそうに話す大河だったが、ふと表情に陰りを見せた。


「たぶん、あの頃の自分は特別な何かになりたかったんだと思う。それこそ、ラノベやアニメなんかの主人公みたいにさ。でも、僕はそういう存在にはなれないって気付いてね」

「いや、お前は十分おかしなやつだぞ。安心しろ」


 なんか、自分は普通の人間ですみたいに言ってるが、そんなことまったくない。

 俺の突っ込みに微笑を返しながら大河は続ける。


「でもまあ、いつしか自分は魔法を使えない、マフィアのボスにもなれないって悟ってね。気付けば実家の職を継いだ方が将来安定するんじゃないかっていう、平凡な考えに行きついたわけさ」

「それが悪いとは思わないけどな」


 安定は大事だ。

 安定しているということは、金に困っていないということだし。


 俺の言葉に大河は薄く笑う。


「僕もそう思うよ。別に僕は今の僕に悲観してるわけじゃないんだ。……ただ時々、悠斗みたいな人間に憧れる時がある」

「俺に憧れる?」

「そうとも。金持ちになる、なんてぶっとんだ夢を追い続けられる君をね」

「それは過大評価だな。俺はまだ何もできてない」


 そもそも、金持ちになることを目指すのはそれほどぶっとんだ夢だろうか。

 魔法が使えるようになるとか、マフィアのボスになるとか、そういうのと比べると余程現実的だと思うが。


 何より、俺はまだ金持ちになるための道を微塵も進めていない。

 それに、俺はまだその道を探している段階だ。


 そこでふと、俺は気付いた。


「というか、どうせまたお前、こういう風に主人公を立てるキャラが出てくるアニメでも見ただろ」

「あ、バレた?」

「バレバレだ。言ってることがお前らしくなさすぎる」


 いい加減アニメか何かで見たキャラに影響されてそのキャラみたく振舞おうとするのはやめて欲しい。


 俺が睨みながら言うと、大河は苦笑した。


「悠斗の中での僕の人物像がどうなっているのかは気になるところだけど、悠斗に憧れてるのは本当だよ」

「そりゃ光栄なことで。ほら、次やるぞ」


 手の平を軽くヒラヒラと振りながらコントローラーを握り直す。

 隣で小さくため息が聞こえたような気がしたが、俺は聞き流した。

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