四十八話 もう慣れた。慣れたったら慣れたんだ!
なぜだかデートという体裁で七星さんとドッジボールをすることになった週末の休日。
俺はまたしても七星邸に来ていた。
……ここ最近七星さんの屋敷に来る頻度が高い気がする。
なんなら自宅で起きている時間よりも七星さんの家にいる時間の方が長いような。
自宅とは? みたいなことをぼんやりと考えながら、俺は斎藤さんの送迎に感謝しながらリムジンを降りた。
スポーツバッグを肩に担ぎながらエントランスへ向かう。
運動するということで、動きやすい黒のジャージを着てきた。
バッグにはタオルとスポドリ、それから汗拭きシートを入れている。
エントランスへ辿り着くと、これまた普段通り七星さんと笹峰さんが現れた。
笹峰さんは変わらずメイド服だったが、七星さんの服装に一瞬目を奪われる。
俺と同じく、彼女も運動しやすい服装だった。
スポーツ用品ブランドのロゴが胸元に入ったグレーのシャツに、紺色のショートパンツ。
そして、その下にピンクのラインが入ったスポーツタイツを着用していた。
なんというか、締め付けの強い服装のせいか体のラインが強調されて、目のやりどころに困る。
……いやいやいや、これじゃあただの変態じゃねえか。
自分の中に湧き上がった変な妄想を振り払い、平静を保つ。
「おはよう、七星さん」
「おはようございますっ、赤坂さん!」
後ろで纏められたポニーテールを揺らしながら七星さんは笑顔で挨拶を返してくれる。
隣で笹峰さんも控えめに頭を下げてきた。
「それでは、中へどうぞ」
「え、運動場かどこかに行くんじゃないのか?」
「……? わたしの家に集合という話をしたはずですけど」
「だからここから運動できるところに移動するんだろ?」
「はい、もちろんっ」
なんだか話がかみ合っていないような気がするな。
大人しくついていくと、エントランスの奥の空間へと通される。
そこには、エレベーターがあった。
まあ、俺ぐらいになれば七星さんの自宅にエレベーターがあるぐらい、驚くに値しない。
もう十分慣れた。
自分の成長を実感しながらエレベーターに乗り込むと、笹峰さんがB2Fと書かれているボタンを押した。
……地下。地下、ね。てか地下二階。ふーん。
まあ、俺ぐらいになれば七星さんの自宅に地下が二階層分あるぐらい、驚くに値しない。
緩やかな浮遊感の後、エレベーターは静かに止まった。
「こちらですっ」
七星さんの案内に続いてエレベーターを出て、地上の屋敷に比べると少し機械的というか無機質な廊下を進む。
突き当たりに両開きの大きな扉があった。
例えるなら、体育館のような。
……いやいや、まさか。
脳裏に嫌な予感が閃く。
それを笑い飛ばしていると、数歩先を歩いていた笹峰さんが扉を引き開いた。
「話がかみ合わないわけだ……」
眼前に広がる光景を前に、俺は力なくそう零す。
高校の体育館よりも広く、綺麗な室内運動場がそこには広がっていた。
「それでは、赤坂先生。今日はよろしくお願いしますっ」
「よ、よろしく……」
七星さんがふざけた調子でぴょこりと可愛らしく頭を下げてきたが、俺は別の意味で笑うしかなかった。




