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財閥のお嬢様と始める偽装交際~「これは契約だ」と思っていたはずが、何故か財閥の総力をかけて甘やかしてくる~  作者: 戸津 秋太
一章

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四十一話 昨日との違い

 校門近くでゆっくりと停車したリムジンから七星さんと一緒に降りれば、否が応でも注目が集まるというものだ。

 最近は七星さんも自転車で通学していたから、リムジンが現れたことにより一層驚きが生まれている。


 一緒に教室まで向かう道のりも好奇の目に晒された。

 だが、一緒にいるのも教室に着くまでで、教室に入ればいつものように七星さんも俺も自分の席へと向かう。


「や、おはよう」

「おはよう」


 荷物を置けば、先に着いている大河が声をかけて来る。


「今日はいつもよりも顔色がいいね」

「そうか?」

「言ってみただけだよ」

「こいつ……」


 からかうような物言いに少しだけむかっとする。

 いい加減ラノベとかのキャラを真似して何の意味もないことを意味深に言うのはやめて欲しい。


「さっき二人が校門から歩いてくるのを見たよ。お熱いねぇ」

「わかってて言ってるだろ」


 ニヤニヤと愉快そうに笑う大河に眉を顰める。

 そこではたと大河が真剣な表情で俺を見つめてきた。


「な、なんだよ」

「……制服、新しくしたかい?」

「するわけないだろ。どこの富豪だよ。」

「だよね。うーん……?」

「ま、まあそんなことよりテスト勉強しろよ、な?」


 意外と勘のいい大河にそれ以上悟られないよう、肩に腕を回しながら話題を逸らす。

 俺のスキンシップが意外だったのか、大河は少し驚いた様子を見せながらも「言っただろ? 僕は留年しない程度にできればいいってさ」と涼しい表情で言った。


 なんとか話題を逸らせたことに安堵しながら大河を解放し、教科書を取り出す。


「……なんだか悠斗から凄くいい匂いがするね」


 大河がぼそりと呟いたが聞こえないふりをした。



     ◆ ◆



「赤坂さん、帰りましょうっ」

「あ、ああ……」


 今日も今日とてつつがなく授業が終わり、帰りのホームルームが終わると、早速と言った感じで七星さんが声をかけて来る。

 大河との会話を早々に切り上げて、俺たちは昨日と同じように教室を出た。


 ……ニヤニヤとこちらを見て来る大河に心の中でデコピンをしておく。


「昨日は遅くまで勉強していたみたいですけど、眠たくはないんですか?」


 斎藤さんが回してくれたリムジン乗り込んですぐ、七星さんが気遣わし気に訊ねてくる。


「若干眠気があるかもしれないけど、バイトがなかったぶん体は軽いな。あと、朝食のお陰もあるかも」

「ふふっ、では明日も楽しみにしておいてください」

「そうするよ」


 今朝この生活を続けることへの危機感を抱いたばかりなのに、七星さんの甘い誘惑に頷いてしまう。

 ……まあ、試験が終わるまでだから。


「折角でしたら屋敷に着くまでお眠りになられますか? わたしの膝でよければお貸ししますけど」


 ポンポンと、スカートの上から太ももを叩く七星さん。

 その仕草に引き寄せられるように一瞬視線が下がってしまうが、慌てて彼女の顔へと引き上げた。


「斎藤さんは運転しててこっちを見る余裕なんてないし、ここでまで頑張らなくてもいいぞ」

「頑張る、ですか?」

「カップルを演じなくていいってこと。まあ人目がないところでも演じないとボロが出るっていう話なら俺も頑張るけど、そこまで厳格にしてると疲れるだろ?」

「……赤坂さんはわたしのことがお嫌いなんですか?」

「どうしてそうなるんだ」


 青い目を悲しみの色に染めて見上げて来る。

 七星さんのことを気遣っての言葉だったんだが、いらぬ誤解を招いたようだ。


「俺は七星さんのこと嫌いじゃない。むしろ好きだと言ってもいい。というか七星さんのことを嫌う人なんていないんじゃないか」


 例えば彼女が財閥の令嬢だから、そのことに嫉妬する人はいるかもしれない。

 だが、彼女と関わりを持てばそんな嫉妬なんてくだらないと気付くはずだ。

 七星さんは一度だって金持ちであることを自慢したりしないし、気にもしていない。

 ……まあ、金銭感覚のズレみたいなものはあるけど。


「すっ……す、すき、すき……っ、えへへ……」


 両手で両頬を押さえて何事か呟いている。

 俺が「おーい」と声をかけても反応がないのでそのままにしておくことにした。


 やがて門を抜けて屋敷の前まで辿り着く。

 そこで、昨日との違いにふと気付いた。


「凄い車だな……」


 屋敷の前に俺たちが乗っているリムジンの他に、数台の高級車が停まっている。

 俺のその声に、七星さんは自分の世界から帰って来たらしく、窓の外を覗き見た。


「……っ、あの車はまさか」


 息を呑む七星さん。

 少し慌てた様子で俺の方を見てきた。


「あ、赤坂さん。少しこの車の中で待っていてください」

「わ、わかった」


 リムジンを降りる七星さん。

 その背中を見送ろうとして、突然屋敷の方から声が飛んできた。


「あら、アリスちゃん。お帰りなさい」

「お帰り、アリス」


 屋敷から笹峰さんと共に二人の人影が現れた。

 一人は仕立ての良いスーツに身を包んだ壮年の男性。

 そしてもう一人は七星さんと同じ白髪が特徴的な、年の割に可愛らしいという印象を与えてくる女性。


 誰だろうと俺が思っていると、その答えを七星さんが口にした。


「お母様、お父様……っ」

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