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財閥のお嬢様と始める偽装交際~「これは契約だ」と思っていたはずが、何故か財閥の総力をかけて甘やかしてくる~  作者: 戸津 秋太
一章

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二十七話 注意書き

 食事をすませ、ショーが始まる十分前に会場に入る。

 まだ人は疎らで席は選び放題だった。


「折角ですから前の方に行きましょうっ」


 俄然テンションが上がっている七星さんに付き従うようにして、水槽を180度囲う席の一番前へ移動する。

 目の前には二メートルほどの高さのガラスの壁があって、物凄く迫力がありそうだ。


「……ん?」


 ふと通路わきに貼られている注意書きが目に留まる。


「『ショーの演技中、水が座席へと跳ねることがあります。予めご了承ください』……か。まあこれだけ近ければそういうこともあるよな」


「ここにしましょう、ここに!」とはしゃいでる七星さんを見る。

 今日の七星さんの服はワンピースだ。

 濡れていいという服ではない。


 ……だが、あれだけはしゃいでいる七星さんを止めるのはどうにも気が引けた。


「ま、大丈夫か」


 遊園地のアトラクションじゃあるまいし、そんなに濡れないだろう。

 俺はそう高を括って七星さんの隣に腰を下ろした。


「今日はたくさんのはじめてを経験出来てとても楽しいです」


 ……ちょっと危ない言い方だな。


 俺は周りをチラリと見回してまだ近くに人がいないことを確認する。

 それから七星さんに視線を戻せば、彼女は両手を合わせてこちらを見上げていた。


「……そんなに楽しんでくれるなら、七星さんがやったことがなくてやりたいことを言ってくれたらもっといい場所を選べたかもしれないのに」

「ふふっ、いいんです~」


 ご機嫌だな。


 そうこうしているうちに周りに人が増え始め、開園時間になった。

 陽気な音楽が流れ始め、奥のゲートが開いた。


 直後、歓声が上がる。


 水面すれすれを泳ぐイルカの頭にまたがって、女性のトレーナーが現れた。

 まるで水上バイクに乗っていると錯覚するかのような勢いでプールの中を動き回っている。


 それが相当な難易度であることは誰の目から見ても明らかだった。


 隣で「わー」と歓声を上げながら両手をパチパチと叩いている七星さんは勿論のこと、俺も目の前の光景に釘付けになる。

 プールの外周付近を三周ほどすると、そのままの勢いでトレーナーは水上からステージへ滑るようにして上がった。

 そこでまた大きな歓声が上がる。

 その歓声が収まるよりも早く、大きな水しぶきと共にイルカが数メートル上空へ跳躍した。


「と、飛んでいますっ、飛んでいますよ、赤坂さん!」


 目を輝かせる七星さん。

 余程興奮したのか、俺の服の袖を掴んでぐいぐいとしている。


 ここがカメラ撮影禁止でなければレストランでの意趣返しに今の七星さんをカメラにおさめたかった。


 ショーはその後もつつがなく進行する。

 イルカが五頭に増え、竿で上空に吊るされたボールに触れたり、鼻先でトレーナを高くまで飛ばしたり、用意された輪っかをくぐったりと、見ていて全く飽きることのない演技が続く。


 そして時間的に終盤に差し掛かったころ、トレーナーの女性が一際大きな声を上げた。


「さぁ、いよいよこのショーも終わりが近付いてきました! 最後は、スーパーハイジャンプで締めくくりたいと思います! どうぞ!」


 一層盛り上げるBGMと共に、イルカたちが水中でグルグルと旋回を始めた。

 ステージ上部に設置されている巨大ディスプレイでカウントダウンが始まる。


 5、4、3、2……、


 数字が小さくなるにつれて期待が高まる。

 その事態を予測できたのは、事前に注意書きを目にしていたからだったと思う。


 慌ててジャケットを脱ぐ。


 プール内を泳ぎ回っていたイルカたちが、壁際へ寄ってくる。


 1……、


 パサリと、七星さんにジャケットをかける。

 直後――、イルカたちが壁際すれすれを飛んだ。


 観客たちの歓声が収まるよりも先にイルカたちが着水を決め、その衝撃で今回のショーで一番の巨大な水しぶきが立つ。

 それはプールを囲うガラスの壁を悠々と越えて、前の方に座る俺たちへかかった。


 サーカスの座長のように、ステージ上でトレーナーの女性が両手を広げてから恭しく頭を下げる。

 観客席から拍手が沸き上がり、運動会で退場の時に流れるようなBGMへ切り替わる。


 続々と周囲の人たちが席を立ち始めた。


「凄かったね、イルカショー。っと、大丈夫だった?」

「……っ、あ、ありがとうございました」

「こっちこそ急に悪かった。でもまあ、間に合ったみたいでよかった」


 七星さんからジャケットを受け取る。

 結構がっつり濡れてしまったが、七星さんの服が濡れる大惨事と比べれば大したことはない。

 ハンカチを取り出して軽く拭いながら立ち上がる。


「七星さん、俺たちも行こうか」

「……………………」

「七星さん?」

「ひゃ、ひゃい!」


 俺のジャケットを見つめてボーッとしている七星さんに再度声をかけると、七星さんは弾かれたように立ち上がった。

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