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乙女と魔法と現代日本  作者: センチメンタルアスパラガス
天狗の仮面に燃え上がる正義の心
9/22

理想と違っても恐れはしない


今日も今日とて、借金返済のために絵のモデルのバイトをする私。


1時間ポーズを取り、一旦休憩。


休憩中に渡された平べったい茶封筒を、そのまま夢野さんに渡す。


凝り固まった身体をほぐしていたら、茶封筒を鞄になおした夢野さんが話しかけてきた。



「知り合いからもらった服でコスチュームを作ったわ。終わったら着てみましょう」


「コスチューム?本当?やったー!後1時間頑張れそうだよ!」



○○○



2時間の絵画教室のモデルのバイトを終えた帰り道、図書館のトイレを借りて、夢野さんが作ってくれた魔法少女コスチュームに着替えてみた。



が。



「これ、近くの中学校の制服じゃない?」


着替えた服は、まさにセーラー服であった。


「家族にバレないように、ちまちまチクチク作ったわよ。サイズ直しもだけれど、服の真ん中の刺繍が特に大変だったわ」と苦労を語ってくる。



「刺繍?......えっ。天狗じゃない」


見ると、見事な天狗の刺繍があった。


「本当はネコのマスクに合わせて、ネコの刺繍にしようと思ったけど、もう今更よね」


「今更って、えっ」

「加賀美さん。ここはお手洗いよ?うるさくするのは如何かしら」



○○○



ウキウキしながら着替えて披露したその格好は、近所の中学校の制服だった。



全体的に紺色で、白いラインが目立ち、胸の校章がトレードマークのセーラー服だったが

哀れ、夢野さんの魔改造により、山の神の怒りを買いかねないような天狗のあしらいを施された物にと変貌していた。



「可愛いのが良いわ、夢野さん」と遠回しにチェンジを要求する。もちろんせっかく作ってくれたのだから、文句は言えないし、言いたくない。


だが、これはなぁ。


「大丈夫よ。加賀美さんが着れば、だいたい可愛くなるわ」


雑に褒められた。

自分でも分かるくらいちょろい奴だが、流石に騙されないぞ?


「でも天狗だよ?」



「加賀美さんの気持ちは分かるわ。でも、そちらの方が都合が良いのよ」

「都合?」

「そう。都合よ」


夢野さんの言い分では、制服が目立ち、正体の鑑別にその中学校の女子生徒の可能性が挙げられるので、私まで疑いの目が来るのに時間を稼げる、というのだ。



「一般人に蹴りを入れたり、子どもを誘拐したりしていたら、間違いなくお縄で豚箱入りの臭い飯生活よ」



ーーー絶対嫌だ。



存在しない子どもを返さなくてはいけなくなる時点で詰んでいる。


ならば、存在しない中学生を偽って、罪から逃れられる方を選択する。


大人しく、この服を着ることに決めたのだ。



○○○



帰宅後、魔法少女変身グッズの入ったリュックを片付けながらテレビの音声に耳を傾けていた。



なんでも、天狗のお面を被ってゴミ拾いをしたり、通学路の交通整備をする人が出てきたらしい。



顔を隠して行う善行、という部分だけにスポットライトが当たった結果らしく、ちょっと前にあったアニメのキャラクター名でランドセルを贈るものの亜種のような扱いを受けていた。



「なんか、あんたみたいな奴がいっぱいいるわね」と母が言う。


どういう意味だろうか。


「ネットだと、天狗のお面を被って海岸のゴミ拾いをするオフ会みたいなのもあるらしいわ」

「偉いじゃん」

「ずっとやってくれれば、ね」



母的には、一時的なブームで、大変熱し易く冷め易い日本人的だと言う。



「その場その場のブームに乗るっていいたいの。あんたも一つのヒーローにずっとハマってくれていれば、お金もかからないのにね」


「着地点はそこか」



分からないでもない。


特撮ヒーローの使う変身アイテムのメモリーやメダルを欲しがってねだった記憶があるが、考えてみたら高いことこの上ない。



毎回毎回番組変更のたびに購入していたら、たまったものではないだろう。



自分でお金を扱うようになり、やっとわかった。



「大丈夫。しばらくは一つのヒーローに絞るから」

「そうしてちょうだいな」


その絞ったヒーローが、今流行りの天狗で、他のに手が出せない理由が“夢野さんへの借金”と“自分が天狗だから”とは口が裂けても言えなかった。



○○○



「天狗ブームなんていい事じゃない。コンテンツの寿命を縮めてくれるし、ダミー天狗が増えてくれるから、より正体がバレにくくなるわ」


いつもの如く、夜寝る前に夢野さんから電話が来た。


昨今の天狗ブームについて、彼女の考えを聞いてみたのだ。



「コンテンツの寿命に関しては、長い方が良いんじゃないの?」


正体がバレにくいことに関しては願ったりだが、もう一つの方は理解が出来なかった。



「ブームが廃れた頃合いを見て、あなたが天狗魔法少女を卒業できれば、ピリオドが打てるじゃない。2度目の魔法少女のチャレンジの時は、もっとしっかりと設定とか身の程を弁えてやればいいわ」


「なるほど」



「私としては、魔法なんて非現実的な物への関わりをやめてほしいのだけれども」


「出来ることは多い方が良くないかしら?」


「履歴書に残せないようなことはするべきではないわ」


「おっしゃる通りでございます」



○○○



これで少しだけ目処がついた。


未来予知で夢野さんと作戦を練って人助けをする空飛ぶ天狗系魔法少女は、天狗ブームが下火になったタイミングをタイムリミットに、番組を終了することにする。



だいたいの路線は良いのだが、“天狗系”と言うところだけは早く変えたい。


魔法少女らしさがない。



夢野さん的には、魔法少女自体をやめて欲しそうだが、私1人だと立ち行き行かなそうなので、出来れば継続して頭脳を貸してほしい。



2度目の魔法少女の時は1人でやりなさいな、と言われたが「2人で1人の魔法少女だよ」と返す。


しばらく無言の後、「おやすみ」と言われて電話を切られてしまった。



割と本気だったのだが......。


明日以降は別のアプローチをかけていこうと思いながら布団に入ったのだった。



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