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乙女と魔法と現代日本  作者: センチメンタルアスパラガス
天狗の仮面に燃え上がる正義の心
4/22

believe in you


“天狗”


それは、防災、鎮火の守り神として信仰されている山の中に住んでおり、鼻は高く、空を飛ぶという想像上の神霊。

神通力を持ち、怒れば天災をおこすといわれ、恐れられている。



○○○



「調べれば調べる程に、魔法少女とは、かけ離れた存在よね、天狗って」と私は1人、部屋で呟く。


手元には図書館の本、もとい郷土の伝承誌がある。


だいたい怖い描写がされるが、時々コミカルな笑い話もある。

そっち方面で何かアプローチ出来ないか、と考えて図書館から借りてきた。



ご覧の有様だ。


私の住んでいる地域の天狗の伝承には、コミカルさは無かった。



本から目を離し、携帯の画面に目を移すとネットの地方ニュースの一面は、『天狗現わる』だった。


昨日助けた親子のインタビューやたまたま撮られたであろう天狗が飛ぶ映像。



昨日着ていた服がファッションセンター ムラシマの服であることから、天狗は人間に化けて潜伏しているのかもしれない、なんて考察まであった。



違う、そうじゃない!



声には出せないが、そう叫ぶ。


自分のした人助けが、思っていたのと違う方向に進展しているのを、ただ眺めることしか出来なかった。



○○○



メフィストのおっさんからメールが来た。


中身はまさにビジネス定型文であったが、郷土誌もニュースも見飽きた私は、その長ったらしい文章を読むことにした。



『先だっては、魔法少女育成機関(以下弊社)の魔法購入プランにご契約いただき、誠に有難うございました。

その後の目を見張るようなご活躍を拝見させていただき、弊社といたしましても、嬉しい限りでございます。またこれからのーーー



「......長いな。おっさん、人間のサラリーマンでもやっていけそうだな」



ーーー古来より魔法使いは、支配階級とともにありました。アーサー王の横に魔法使いマーリンがいたように、お金と魔法は切っても切り離せません。錬金術師たちも貴族というパトロンを手に入れ、弊社のような魔法商社を立ち上げております。


現在、加賀美様に至りましては、初期プランでの魔法少女活動を弊社では応援させていただいております。

従来の魔法使いや先達の錬金術師のように、先立つものを揃えられ、プランの変更希望がありましたらば、いつでもご連絡下さい。

これからの加賀美様の益々のご活躍を心よりお祈り申し上げます』



へっ!どうせ微課金勢ですよ、と悪態をつきたくなる。


微課金というよりも悪い。


ほぼ無課金で、たまに100円払うか払わないか、だ。



もっと金を払え、と言っているのだろうけれども、無いものは無い。



こんなメール、精神衛生保持のため即座に消し去ってくれるわ!と思った。


だが、追伸に『天狗で活動するとは、思ってもいませんでした。畏怖と神秘性の象徴ですし、あなたの魔法である“飛行”や“翻訳”と大変相性がよろしいです。お見それいたしました。これを機に、“風の魔法”などの購入もご検討ください。最も低ランクのものでしたらば1500円で御用意させていただきます』と書かれていたのだ。



明らかにおっさんの個人的な意見の付け足しだ。


私のニュースを見てのアドバイスだろう。



うーん。



天狗っぽさを出すだけに1500円は高いな、と思う。

思うのだけれども。



「風の魔法か。塩辛好きの風魔法騎士、カッコ良かったもんなー。天狗でやっていくつもりは無いけれど、天狗をやらざるを得なくなった時に1500円払うのってありなのかなー」


無い頭を回転させる。


現在財布には1200円と、助けた親子を脅して手に入れた500円玉がある。


この500円玉に手を出すつもりはない。



なのでどのみち足りないのだが


「今度、夢野さんに聞こう」と結論を先延ばしする結論を出す。


冷静な判断が出来る人に委ねることにした。自分で決定するリスクの方が遥かに高いと見たからだ。



○○○



「新しい魔法を勧められた?うん。手を出したらダメよ。加賀美さん」



翌日、夢野さんに相談すると、すぐさまに否定された。


早い。

鋭い。


カミソリカーブかな。



「その風の魔法がどの程度なのか分からないでしょう?考えてみて、加賀美さん。100円で空が飛べるのよ?1500円払えば、どんなことが起きると思う?」


「oh......」

単純計算15倍すごいことが起きそうではある。



「それにね。魔法の万能感に引っ張られてお金を払うようになってしまったら大変よ?返すアテもないのに借金をして、次はもっとすごい魔法、次はもっとすごい魔法とのめり込んでいくようになる。“依存”よ」



魔法を薬物みたいにいう。



「そりゃあ、魔法に魅せられてお金を払う人はいると思うわ。私の知り合いの人も、浦安にある“夢と魔法の国”に重課金しているもの。でも、あれは現実があっての課金。加賀美さんのは、現実を捻じ曲げるための課金ものなの。その違いを理解しないといけないと思うわ」


うん。


一度上がった水準って下げられないって言うし。おいそれと手を出すべきではないのだな。



「やっぱり相談してよかったよ。ありがとう夢野さん」



万能感への課金。

依存するのが目に見えている。


闇堕ちする結末(オチ)しか思い浮かばない。



その点でいうと私の夢野(ブレーキ)さんは優秀この上ない。


安心して、財布を預けられる。



「もう!魔法少女はいいのよ、今日は。たまには買い物に付き合ってよ。駄菓子屋に量販店と、私、あなたの買い物に付き合わされてばかりだわ。私の買い物に付き合って欲しいわ!」

「そだね。了解」


そう答えると夢野さんはニッコリ笑う。

「じゃあ行くわよ。まずは駅前のアニメートに行くわよ!」



○○○



アニメートで色々物色した後、夢野さんは別のそういう種類のお店にも行こうと言い出した。


夢野さんは、ビニール袋いっぱいの本を購入したが、指の肉が食い込んで色が悪くなっている。


「ふふっ。ファンが買い支えないといけないの。これは明日への必要経費。だから大丈夫......」



私の、天狗のお面と小銭の入ったがま口だけが入っているカバン。


夢野さんに、それらの本を入れるよう伝えると、「ありがとう。これでまだ買える」と言い歩き出した。



圧倒的な経済格差を見せられた。



○○○



次の目的地に歩いていたところ


「夢野さん?あー、夢野さんだ!」


と、私たちの後ろから黄色い声で、夢野さんが呼ばれる。



振り返るとそこには数名の女子、いつも夢野さんの近くでだべっている子たちがいた。


カエルの卵、もといタピオカの入ったドリンクを飲んでいる。



「あ、私、少し離れてるね。......なんか用、みたいだし」

そう言い、彼女たちがスムーズに合流できるよう、通りの端に向かい、気配を絶った。



離れ行く際に、夢野さんがなんだか少し悲しげな顔をするが、私は自分のクラスの中のカーストを知らないわけじゃない。


よく夢野さんが付き合ってくれるから勘違いしてしまいがちだが、彼女は掃き溜めの鶴だ。私みたいな掃き溜めのゲロとは違う。



少し距離を取り、夢野さんがいつもいる子たちと話をしているのを眺めていた。


私も輪に入れたらなぁ、なんて思うが、アニメや特撮の話しかできない。


時々聞こえてくるキリシタンみたいな化粧品の話なんか分からないし、ついていけない。急に始まった東京都の区分の話もさっぱりだ。

唯一分かったのは、日焼け止めクリームだけだ。これも夢野さんが勧めてくれたからなのだけれども。



○○○



ーーーじゃあ行こうよ、夢野さん!」


長らく話しているのを見ていたら、何やら方針が決まったらしい。

お洒落な雑貨屋さんに行くらしい。


夢野さんが私の方を見る。


これは「来い。そして混ざれ」という目だ。



だが

「じゃ......じゃあ、私、別の用があるから、じゃあね。夢野さんも今日は、ありがとう。あ、本、後で返しに、行くね」

と夢野さんと彼女の取り巻きさんたちに早口で告げる。



夢野さんがじっと私を見た後、近寄って来て「......わかった。また電話するね」と言った。



これはちょっと怒っているトーンだ。



夢野さんたちが離して行く背中を見ながら、少しだけ耳を傾けると「夢野さん、加賀美さんに声かけてあげるなんて優しい」とか言ってる声が聞こえてきた。



そう。彼女は優しいのだ。


だから、私なんかに付き合ってくれる。



「......加賀美さんとは少し趣味があうのよ」と優しい声で夢野さんが返事をしているのが最後に聞こえた。



○○○



夜。


「逃げるな」と電話の一言に言われた。



いやぁ、だって。



「あんな陽イオンの中にいたら、対消滅しちゃうよ?」


石の下のダンゴムシなのだ、私は。

日向に出たら干からびてしまう。


同じように陰イオンを醸し出している私は、陽イオンを醸し出す連中の中にはいられない。



「するわけないでしょ。だいたい、その理論なら結合するだけよ」


きちんと返してくる夢野さん。


「いやぁ......」

「......嫌なことから避けてばかりいたら、本当に出来ることも出来なくなるわよ」

「」


「......落ちてくる子どもだって助けられるくらい勇気があるんだから、日常的にも少しは振るいなさいよ」


「......話す話題がない」


「だから、たまにタピろうとか、お洒落の話してるのに。もう!」



夢野さんがお説教モードになってしまう。



「......お説教はまた今度、聞くからさ。明日のニュースで気になるのがあったからお知恵を拝借したいです」


「......どんなのよ?」



「えーっとね......恋愛絡みの傷害事件」


そう伝えると、電話の先から深い深いため息が聞こえた。



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