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乙女と魔法と現代日本  作者: センチメンタルアスパラガス
私、魔法少女になっちゃった!
1/22

交わした契約は忘れられない

ふとお話が降りてきたので文章化しました。

お付き合いいただければ幸いです。


日曜の朝は素敵だ。


戦隊モノ、変身ヒーローモノ、巨大ヒーローと怪獣の乱闘など、テレビ局が映える特撮技術と見るだけで高まるイケメン俳優を無料で提供してくれるからだ。



母も私の隣でテレビに齧り付いて見ている。

同じ番組を、だ。


だが母は主に前半の俳優の人間ドラマパート、私は後半のスーツアクターの殺陣や演技パートと、違いはある。



それらの番組群のトリを飾るのは、所謂“魔法少女モノ”だ。


女の子の憧れ、舌を噛みそうになる魔法の呪文と、光り輝く華やかな変身シーン。

お決まりのシーンに、決め台詞だ。


そして、どう見てもまるバレのようがバレない不思議を横に置いて、正体がバレそうになりながらも他人の幸せのために精一杯の努力をする彼女たち。


私はそこに胸がときめくのだ。



○○○



「あんた、小さい頃からそういうの好きね」と隣で見ていた母が私に言う。


魔法少女モノはアニメなので、母が見るようなイケメン俳優はいない。



幼稚っぽいから卒業しろ、とでも言いたいのだろうが、私の心の支えだ。


大黒柱に卒業はない。



「お母さんだって、“月に変わって〜”とかやってたんでしょ。アレと一緒よ」

「あんたよりも小さい頃にね。6年生にもなっては見ていないわ。それ、見終わったら布団干しなさいよ」

「はいはーい」



イケメン俳優が登場しない魔法少女アニメに、母は興味を示しておらず、腰をあげてリビングからいなくなった。


私は1人、牛乳を飲みながら、彼女たちの活躍を眺めるのだ。



○○○



魔法少女たちの活躍に燃えた後、一呼吸おき、母に言われていた布団を干した。


その後、図書館に向かう。


夏休みの自由研究のための資料となる本を借りに行くのだ。



そして、帰りに駄菓子屋に寄って、小さな4つ入りのドーナツを買う。

牛乳によくあうソイツを食べながら、宿題を進めていくという魂胆だ。



そんなことを考えながら、図書館に向かっていると、公園のベンチに人が座っているのが見えた。



帽子も被らず、真っ黒なスーツ。

たぶんにサラリーマンなんだろうが、夏、炎天下の公園のベンチに動きもせず、俯いて座っている。



......もしかして、熱中症ではないだろうか?



ニュースでやっていたが、重度の熱中症になると、体温調節が出来なくなり、意識がなくなり、多臓器不全で死ぬのだそうだ。


昨日もお年寄りが亡くなったとニュースでやっていた。



そんなニュースが頭によぎったせいもあり、ここで見過ごした後、夕方のニュースで“サラリーマン、公園で変死”なんて報道されるのは、後味が悪い。



出来れば、私が近寄りきるまでに動いて欲しかったが、動かなかったので意を決し「大丈夫ですか?」と声をかけた。



○○○



バッと頭を上げるサラリーマンの男性。


「あ、あぁ。ありがとうございます」

その男性は吃りながら答えた。



顔色は悪くない。


気分が悪いようならば、救急車を呼ぼうかとも聞いたが、それには及ばない、と返された。


なら立ち去っても大丈夫だろう、そんな風に考えた。



「優しい子ですね、あなたは」としみじみと私に声をかけてきた。品定めするような目で。


人に親切にしよう、と同時に学校の先生から言われていたことを思い出す。



『良いですか皆さん。知らない人に話しかけられたらーーー



咄嗟にポケットの中の防犯ブザーを見せる。



「変なことするようなら“コレ”鳴らしますからね。すぐに警察来ますよ!公園の前が派出所ですから!」

人質でも取ったかのように言う。



ふふっと笑われると

「私は君に危害を加えたりはしないよ。信用して欲しい。親切に声をかけてくれた君に感動していただけだよ」


そう言われると、少し嬉しくもなる。

なるほど、と。だから見ていたのか、と。


我ながらちょろいのかも知れない。



「今のこの国は病んでいるね。互いが互いに無関心だ。私を遠巻きに見ながら去って行った人は大勢いたけれど、声をかけてくれたのは君だけだよ」

「そうですか」

「それに、すぐに防犯ブザーを鳴らそうとする判断力も素晴らしいね。ああ、良い子に逢えた」


男性がにっこり笑い、私の手を握る。



「君にしよう」



○○○



「アイドルプロデュース“のようなこと”をしてるって言って、アレでしょ。エッチなビデオ撮るんでしょ!」

「ませてるなぁ、最近の子は」


炎天下のベンチから涼しい木陰に移動し、サラリーマンの男性......もとい、“おっさん”の戯言を聞くことにしたが......


アイドルプロデュースなんてのは、2次元の話だ。こんな田舎にいるハズがない。



「名刺だって無いし」

「プロデューサー=名刺と言うのは、どういう思考回路なんだい?」

「でもいきなりのアイドルプロデュースみたいなこと、っていうのは胡散臭いわ」

「うーん。猜疑心は立派なんだけれど、それだと話が進まないんだよねー」


自称プロデューサーのおっさんが困った声を出す。



「......簡単なものだったらお試しもあり、かな。うん」と、よく分からないことを言い出した。


更にポケットから100円玉を取り出す。



懐柔か?

私はそんなに安っぽくないぞ!



「空を飛ぶイメージをしてごらん」

「なーに言ってんだか」


100円を握らされた。


反論するも話がどうどう周りするので、仕方なくおっさんの空想癖全開の妄言を実行することにした。


私は優しいのだ。



まぁ、空を飛ぶというより、おっさんとは別の方向の“地に足がつかない”、“周りから浮いている”イメージだ。



適当に終わらせて、逃げようと思っていた。


だが



「私、浮いてない?」



○○○



浮いた。


更にいうと、手の中の100円玉も消えた。



もう頭の処理が追いつかない。



「もっと派手に飛んでもらってもよかったのに。謙虚だね。日本人の美徳とも言えるが」

「いや、そういうこと、今は考えられないわ。さっきの何?」


さっきまで逃げる気まんまんだったが、今はそれどころじゃない。

返事を求めて真剣な顔でおっさんを見る。



すると、おっさんはしたり顔になり、スーツを正し、ネクタイを整えて私に向き直る。



「改めて自己紹介を。私、魔法少女育成機構の営業1課のメフィストと申します。この度は、将来有望な魔法少女の原石を探し、魔法少女スキルの売買契約を結んでいただきたく存じます」


「」


「要は“私と契約して魔法少女になってよ”という奴です」


「ハズレ案件では!?」

思わず声が出てしまった。



その台詞で契約して魔法少女になった場合の行き着く先のドス黒さを、私は知っている。

後輩が出来た時に、敵に食べられるなんて結末(オチ)は望んでいない。



「ああ。ご安心ください。弊社の魔法少女プランはあくまでスキルの売買契約に留まっております。運命とか命とか魂とか、そういう“よく分からないもの”は絡みません。極めて物質世界的な契約を行なっております」



魔法というのは、よく分からないもの、には含まれないのだろうか。



「先程のサンプルで体験していただきましたのは、ほんの一例。弊社は様々な魔法を取り揃えております」


そういうとおっさんがカバンからパンフレットを取り出した。わかりやすい図解入りだ。



「“雷を落とす魔法”......1回当たりが25万円」


「はい。ただそれは通常値段になっておりまして、現在サービス期間中ですので、17万円まで最大値引きができます。アニメの魔法少女のように、手に雷を落としての必殺技などもプラン次第では可能です」


「......あのね、おじさん」


「はい。何でしょう」



「私、小学生だよ。こんなお金ないよ」



○○○



「適正がない人間ばかりの世界で、ようやく見つけたと思えば、お金がない......世知辛い。世知辛い......」


おっさんが血涙を流しながらブツブツ言っている。



この人、なんとなく人間じゃないんだろうなぁ、とは思っていたが、人間じゃないにしても中身は社畜のサラリーマンだ。



「このまま契約出来ずに帰ったら、また地獄で強制労働させられる......あぁ......」


悲痛な響きこの上ない。

可哀想になってきた。



「......おじさん。私ね、お小遣いが月3000円なんだ」


「......」


「それでも魔法少女になれると思う?」


「!?」



ガバッと頭を上げる。


「やはり、あなたは善人です。適正ありです。選んで良かった。

なれます!なれますとも!魔法少女に!まぁ、多少やれることが少なく厳しいかもですが......しかし、その清い心があれば、乗り越えられます。そして、20歳、30歳になりお金を溜めて、是非派手な魔法をお使いください!」


「30歳で魔法少女名乗るのは、勇者だよ」



手をブンブン振られる中、おっさんと契約書を交わしたのだった。



○○○



中身をよく読んだ。

小さな文字も見逃さない。

クーリング期間とかいうのも説明を受けた。


「3000円......1日100円分の魔法しか使えませんね。良く考えて魔法はご利用ください。こちら、魔法のカタログになります。検索用のアプリもありますので、このQRコードを撮影してみてくださいね」


「100円の魔法って何かあるの?それくらいで充分なんだけど」


「決まり文句みたいなもんです。全部説明受けましたよ、って書類も後でサインしていただかないといけませんので。100円の魔法ですか。2つしかないです。“飛行”と“翻訳”だけです」


「それで頑張るよ」


「ええ。ええ。頑張ってください。応援しています。あっ、そこは手書きのサインで大丈夫ですよ。実印とかないでしょうし」


おっさんはとにかく、懇切丁寧に説明をしてくれた。



○○○



「後、こちらがサービス期間中のプレゼントになります。メルマガなんですが、契約者特典でお試し版を無料で配布しております」


「何これ」


「“明日の”ニュースです」


明日のニュース......。

頭の中に、某ホラー漫画がよぎる。



「......無料版と有料版の差は?」

「有料版は内容が濃密ですね。支払いが寿命100日分になりますが」



やっぱりか!


時代の流れ的に、新聞からメルマガに移行していてもおかしくはないけれども。



「......お試し版でいいよ」

「ですよね。他部署の商品なんで、私としても積極的に宣伝したり、塩を送ったりはいたしません。長期的に私の部署にいていただいた方がありがたいです。早死にされては困ります」


あっさりと言いきったな。いいのか?



私に出来るのは“明日のことがちょっと分かるニュースが読める”“100円払ったら1時間対象物(自分の身体も含む)を飛ばせる”“100円払ったらどんな言葉でも1時間は理解出来る(聞き取れるだけで喋れない)”の3つだ。



こうして、名もないお金もない、やれることも少ない魔法少女が誕生したのだった。



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