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ショートショート集

???クエスチョン

作者: 菅原やくも

 ある日の出勤途中、目の前に宇宙人が現れた。いわゆるグレイタイプといやつの、絵に描いたような宇宙人だった。


「あの~、少しよろしいですか?」

 そいつは、やや遠慮がちなふうに少し間延びした、それでもどこか陽気な感じで声をかけてきた。

「人類に関して調査をしてるんですけど、いくつか質問に答えていただけますか?」


 こりゃ、ヤバい感じがする。俺はそう思ったから無視することに決めた。それに時間もない。


「ああ、ちょっとちょっと! お兄さん、お待ちください」

 俺はそのまま素通りしようとすると、宇宙人は慌てた様子でスーツの袖をつかんできた。

「なんですか! あんた、いきなり!」

「あー。失礼しました。ワタクシ、人類について調査してるんですけど」

「それはさっき聞いた」

「よかった。ご質問に答えていただけますか?」

「なんで? というか、会社に行かないといけなんで、他の人にしてください」

「分かります。サラリーって奴ですね。貴方は」


 こいつ、何なんだ? 丁寧な口調のようで、なんだかスゲー失礼な奴だ。俺は強い口調で続けた。


「質問に答える時間とかないから。仕事に行かないといけないので」

「お邪魔はいたしません! では、その会社について行ってもよろしいですか? 質問がダメなら、見学させて下さい」

「迷惑です。やめてください」


 なんでそうなるんだ。俺はもうきっぱりと無視して、早足で会社の方へ向かった。 


 会社の正門前まで来ると、同僚とちょうど出くわした。

「おう、おはようさん」

 彼はそれから俺の後ろの方へ視線をずらした。

「なんだ、そいつ。宇宙人じゃねぇか? なんで、どうした?」

「ああ、うん」


 俺はどう話していいか分からなった。が、宇宙人の方が先に答えた。


「あの~ワタクシ、調査をしてるんですよ。それで、会社の見学とかさせてもらえると非常にありがたいんです」


 だが、それを聞いた同僚は明らかに事態を面白がっている様子だった。

「はあ? 調査? なんか缶コーヒーのCMみたいだなwww」

 

 いやフツーにおかしいだろ。なんかもっと、別のツッコミがあるだろうが! だが、宇宙人の方はどのみち、こちらの事情など意に介していない様子だった。


「それで、貴方たちの仕事を拝見したいのですけど、よろしいですか?」

「それはダメだろう」

 だが、同僚は俺の言葉を打ち消すように口をはさんだ。

「まあまあ、とりあえず上司に相談でもしたらどうだ? 人手不足だしさ、案外、新入社員として」

「いやいや、さすがに無理でしょ」


 結局、宇宙人はそのまま俺たちについてきてオフィスにまで入ってきた。案の定、俺は上司に呼び出された。


「ちょっと君。この、この人? その、というか宇宙人か? ともかく、なんのつもりだ」

 その声は怒っているというよりも困惑している様子だった。当然だろう。

 俺が事情を話そうとすると、またしても、宇宙人の方が先に口を開いた。

「ワタクシの身勝手でございます。実はワタクシは地球の調査をしていまして、ぜひとも様々な現場を見てまわろうとしているのです。しかし、どこもかしこも門前払いばかりで、困っていたのです。失礼を承知でこうして強引にうかがってしまいました」

「はあ」上司はため息をついた。

「それで、ワタクシのこの調査も任された仕事でして、ノルマを達成しないと上司にまた怒られてしまうんですよ。なんとかご協力をお願いできないでしょうか? もちろん、そちらの仕事はお邪魔いたしません。それで……」


 しばらく、宇宙人はまるで懇願するかのようにくどくどと身の上話をした。


「あー、分かったよ。分かった」

「よろしいのですか」

「今日一日だけだ。それと、絶対に社員の仕事の邪魔はしないように」

 それから上司は俺の方を向いて言った。「じゃあ、君。一日この宇宙人の担当も頼んだよ。よろしく」

「え、自分が……ですか?」

「そりゃ、君が連れてきてしまったんじゃないか」

「ですが、宇宙人ですよ」

「そう言っても……しょうがないじゃないか。人間相手なら警察を呼べば済むだろうが、そうはいかんだろう。なにかアイデアがあるのか?」

「え、いいえ……」

「じゃ、一日頼んだぞ」


 俺は上司の言葉にそのまま引き下がるしかなかった。

 それでも、この宇宙人は俺の仕事中はずっと黙ったまま、横に立って様子を見ているだけだった。何とも仕事がやりにくかったが、まあ質問攻めにされたりするよりはマシかもしれなかった。


 昼食、宇宙人は食堂に行くのにもついてきた。

「食事というやつですね?」

 食堂に入るなりそう聞いてきた。

「ああ、」


 社食はバイキング形式で、社員なら誰でも利用可能だ。俺はいつものようにプレートに食事を盛りながら、ふと思った。それから宇宙人に小声で聞いた。


「なあ、その、君は食事はどうするんだ?」

「必要ありません」

 即答だった。

「そうなの……」

「正確には、活動エネルギーは必要ですので摂取は行います。ただ、人間のように手間のか、失礼。とにかく、人間の行うようなスタイルの食事はしません」

「ふーん」

 それからテーブルの席に腰を落ち着けると、ちょうど今朝の同僚も隣にやってきた。

「ははあ、なんだ。結局宇宙人の相手の担当か?」

「そうだよ。上司の命令」

 俺は肩をすくめてみせた。

「いやはや、部署が違うからさ。どうなってるか気になってたんだ」

「まあ、なんてことはないよ」


 宇宙人は、僕と同僚の食事やあたりの様子を静かにゆっくりと見回していた。


「あれは何でしょう?」

 そう言って宇宙人が指さしたのはテレビだった。いつも昼のニュース番組にチャンネルが合わせてあったが、注意を払ってみる人は少なかった。

「テレビだよ」

「ええ、それは存じています。映っているのは何でしょうか?」


 映っていたのはニュース番組で、どうやら外国のデモだか暴動だのの映像が流れていた。質問に答えるのは同僚の方がはやかった。


「ありゃ、どこぞの国のデモだな。というか暴動だ。他所の国はえらいことするもんだよ。まったく」

「見ると、あの映像の地球人たちは破壊行為をしているようですが、なぜでしょう?」

「さあね。意思表示の一つってやつだな。まあ、うちの国じゃ滅多に見るもんじゃないね」

「ですが地球人の感覚でいわゆる、してはいけないこと、ではありませんか? 地球人は善悪という概念をお持ちのようですが、区別はついているのでしょうか?」

 同僚と僕は顔を見合わせた。なんだかバツが悪いような感じだった。先に口を開いたのは同僚だった。

「まあまあ、向こうはいろいろと理由はあるんだろうよ。ただ、俺たちにゃ難しいことだ。ただの会社員だし。な?」

「うん、僕らは普段の仕事や生活のことでいっぱいなんだ。正直言って他所の国の問題にまで関心を払っていられないね」

「そう言うものでしょうか?」

 僕と同僚は肩をすくめてみせるしかなかった。

「それもそうだが、人間同士争いも多いのさ。地球に調査で来てるのに知らないのかい?」

 同僚は不思議に思ったのか、そう聞き返した。

「私の担当外の範囲です」

「へぇ、じゃあやっぱり大人数で地球に調査に来てたりするの?」

「それは、お答えできません」

 それを聞いて同僚は笑った。

「いやはや、企業秘密かなんかだな、言うならば」

「そうですね。例えるならそうかもしれません」


 午後も宇宙人は黙ってオフィスの様子を眺めているだけで、特に問題が起こることなく時間は過ぎていった。

 今日は残業も少なかったので、さっさと片付けて早めに切り上げることにした。


「お疲れ様でした」


 帰るころにはなんとなくこの宇宙人に若干の親しみを覚えるようになっていた。この宇宙人も会社員のように色々と苦労があるのだろう、そんな風に思った。


 今朝、出くわしたあたりの場所に来ると宇宙人の方から声をかけてきた。

「それでは、ワタクシはここで失礼いたします」

「そうなの? これでお別れかい?」

「そうなります。ワタクシは次の仕事に向かいますので」


 すると上空に突如、まぶしく輝く光体が現れた。


「うわ! 宇宙船?!」

「はい、そうです」

 それから宇宙人の身体がゆっくりと持ち上がった。

「ご協力、ありがとうございました~」


 それから宇宙人の姿が見えなくなると光体は急激に小さくなり、消えてしまった。


「ああ、行ってしまった」

 俺はなんとなく名残惜しさを感じた。ただ、また明日も仕事だなと思って家路を急いだ。

 宇宙船に戻った宇宙人はわざとらしく、大きなため息をついた。

「やれやれ、毎度の演技もつかれるなぁ。それに人類ってのは、どうしてどいつもこいつも面倒くさいのばかりだ」

 疲れた様子でつぶやくと、それから端末に向かった。モニターの明かりが点くと簡便な報告書を打ちはじめた。


現場より報告:


 依然として、これまでの種々の現地調査によると人類は、自身の興味ある分野、あるいは関心のある分野以外の興味関心がほぼ消失していると考えてよい。無関心の強化は順調。また、全体として自己破壊的性質の強化も進んでいる。人類自身のなかで、そうした性向を不思議に思う人はごく稀。人間の本質的性質であるという思い込みが大多数に見られる。彼らの環境問題、各地における主義主張および思想の衝突という問題も、まったく解決の兆しが見られない。本質を見誤る性格は徐々に拡大している傾向が確認できる。加えて、我々と無関係のところで拝金主義なるものが拡大したのは非常に興味深い。これに関する専門の分析班での研究を望む。

 ただ、人類の持つ活力というものには、相変わらず目をみはるところがある。これが外へ向かった場合、我々にとって脅威となる事実に変わりはないとみてよいと思われる。今後もそれらが彼らの内に向くよう続けなければならない。


 人類は誰一人として、彼らの抱える諸問題の根源が我々の工作に起因するものとは考えていない模様。ましてや外部からの要因だとは思っていないようすである。実験も現状のまま継続して問題ないと思われる。今のところ “地球人封じ込め作戦” は順調と考えられる。


以上。

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