マイファミリー
マロンの朝は早い。
まず、係のメイドが朝起こしに来て、マロン着替えさせる。
そして、そのまま手を繋いで食堂に向かう。食堂は、この屋敷の中央にあり、かなり広い。その上、この地域は少し寒いため、朝は暖炉をつけていることもある。
両親と兄が揃うと、食事が始まる。すでに三歳児に成長した俺は、二足歩行が可能なのだ。
「みんな、集まったね。では、いただこう」
父、エドワードがそう切り出す。
「今日の朝食はマロンの好きな、ホワイトシチューよ」
母、マリアが木製スプーンでスープを食べさせてくれる。
そんな和気藹々とした時間に突如として、爆弾が落とされる。
「父さん、やっぱり俺、中央で役人になる」
兄、ロキウスが父に向かってそう言った。
父は、いつの間にか、顔に皺を作り、兄を鋭い眼光で射貫いていた。
「・・・その話はしただろう。お前は長子、次期当主なのだ。そんなことに現を抜かすな」
兄は以前から、中央、つまりこの国の首都で役人として働きがっていた。
すでに十三を超え、もう少しで領内の政務にかかわろうという頃に、兄はそう言った。理由は、もっと広い世界で、家にとらわれない働き方をしたいから、だそうだ。
「父さん、何故そんなに反対なんだ。当主にはマロンがいるじゃないか」
兄が、マロンを指して言う。
「だめだ。それは、お前が長子だからだ。代々、長子がそのような役割をするのは、理解しているはずだ」
「・・・お願いだ父さん。でなかったら、俺はこの家を出て行く」
おいおいおい、それは穏やかじゃないな。
日和見をしていたら、かなりまずい空気になってきた。
「ロキウス!正気か!何故そこまで中央にこだわる!」
父が席を立ち、兄に詰め寄る。
その顔は、まさに鬼気迫る迫力があった。
「この家は長い間沈黙を保ちすぎた。おかげで目先のたんこぶだ。分家もそのまま、教育現場もほとんど放置、こんなんじゃ、いてもいなくても同じようなもんだろ!」
兄が、クラウディア家の内情について不満を垂らす。
そう言えば、首都とか中央の話はよく出るが、両親が中央に行ったところをみたことがない。
偏見かもしれ荷が、貴族は首都、都会に住むものなんじゃないだろうか。
「なんだと貴様!」
父が兄に手を振り上げようとした。
「まって!」
母が止めに入った。
寸前のところで父は兄を殴らなかった。
「エドワード、ロキウスがそこまで言うならいいじゃない。やらせてあげなさいよ」
母が、兄の話を後押しする。
「だが、マロンはどうする!すでに教育を受けるべき時期は過ぎた!この子に、その教養も、忍耐も身に付かないまま貴族社会に投げ出すのか!」
父の訴えは、本当に、身の叫びのように聞こえた。
「・・・ええ、分かっているわ。それでも、ロキウスが家を捨てなくてもいいようにしたいの」
母の聖母の如き微笑と優しい声。
父は、難しい顔をし、ため息をついた。
「はぁ、ならばロキウス、マロンに言わなければならんことがあるはずだ」
母は、兄の方を向いて、厳しく言い渡す。
「そうね、ロキウス。そこまで言うのなら、やりたい様にやりなさい。ただし、その前にマロンに言う事があるでしょう?」
兄は、そう言われた途端に、顔に影を落とす。
そう、もし、兄がクラウディア家を継がなかった場合、家を継ぐのは、次男のマロンだ。
本来その責に立たされることがなかったはずの人物が、その責を負う。それは、兄と同じ教育を意味し、それはとても過酷な物、だろうと言われている。
兄は、シチューを食べるマロンの前まで来て、頭を下げる。
「すまない。申し訳なく思っている。どうか、許してくれ」
「あたな、ロキウスがそこまで言うなら、いいんじゃないですか?」
母の一声で父が頷く。
「ふん!好きにしろ!ただし!マロンへの感謝は忘れるな。いいな!」
「ああ、分かってる」
こうして兄の就職先は、中央の役人に決まった。勿論、その七年後、無事就職できたのは言うまでもない。
そして、この年から両親も急に忙しくなり、やがて屋敷にいるのはマロンだけとなってしまった。
十年後
今年で10歳になった。
この七年間、勉強もしたが、基本怠惰に暮らしてきた。
前世で疲れてしまった俺は、ほとんど気力を失っているため、土魔法を鍛えつつ眠るなどをしていた。
おかげさまで、子供にしてはヒョロヒョロの感じになった。
さて、そろそろここで自己紹介をしておこう。
俺はとある国の公爵家の息子、マロン・マリス・クラディウスだ。
このクラディウス家は、海と陸に面した広大な領地を持つ、国の最後の門番と言われている。
はてさて、そんな俺だが、七年前以来両親に会ったことがない。
今俺がいるのは、公爵領の屋敷だ。
公爵なだけあって、かなり大きな屋敷だった。
まるで宮殿だ。
辺りは森林と活気のある町に大きな湖、近くの山では牧場で家畜を飼っている。
穏やかでいい場所だ。。
だが、結構曇りの方が多い。
そんな自然の中に、一際大きな屋敷が建っている。
白、を基調とした黒い屋根の屋敷。
最初見たときは、てっきり一階建てかと思ったが、これが四階まである。
窓を覗いたとき、ちょっと怖かった。
最初、転生したと分かった時は、中世の生活に怯えていたが、インフラは整備され暖房も存在するし、何なら汽車だってある。
でも、大量生産技術はあまり発達していない。
ちぐはぐな技術を持つ変な世界だ。
家には全ての魔道具や最新器具が存在するが、冷蔵庫とコンロはあるのに、洗濯機がない。
馬車や荷車はあるのに、車がない。
通貨があるのに財布がない。活版印刷はあるのに、レジ計算機がない。
旧世代型だけど、コンクリートが存在するが、頑張って三階建て。
とまあ、こんな感じです。はい。
そして、砂糖や塩、コショウと言った調味料から、醤油や鰹節、味噌まで存在する。と言うか、領で生産している。
なんというか、ありそうでない物が多い異世界なのだ。
そして、肝心の武力なのだが、なんと戦車がある。飛行船もある。でも、銃が存在しない。
早速、八歳児の我儘で作ってもらった銃が、ベレッタと言う銃。
この一つしか知らなかったため、構造に部品、機能を説明し二年の時を経て、ようやく完成。
元々、大砲が存在したが、拳銃は無かった。
二年の間に技術者が頑張って、火縄銃のあたりから、急激な進化をさせたらしい。高価な金属を使っての完成だ。
そして俺の親族の紹介だ。
まず、父はエドワード・マリス・クラディウスと母のマリアだ。そして、中央に働きに行ったロキウス。
両親が幼少期からつけてくれた専属の執事エリー、なぜか女性だ。
執事のエリーはいつも俺のそばにいる。
以上が俺の家族だ。
そして、マロンは今日も惰性をむさぼる。