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鴻鵠の娘  作者: 納戸
白虹 日を貫く 【茜國編】
29/50

5.滑落する雛─1

血が出てきますので苦手な人はご遠慮ください。

 相変わらず赤い家具が目を引く邸宅に入ると、侍女たちは芙蓉と鈴扇に微笑んで一番奥の部屋を案内してくれた。

 彼女たちは皆、死体になって見つかった緋鶯の侍女と同じ目と髪の色をしている。皆美しい顔立ちもさながら、美しい刺繍を施した服に袖を通し質素だが銀の簪を挿している。ここまで派手な使用人たちを見たことがなかったが、派手好きの紅鳶ならではなのだろうか。


「紅鳶様、お待たせいたしました」


 芙蓉が客間に足を踏み入れると、いつもより多くの私兵たちが紅鳶を囲んでいるのが見えた。

 中央で紅鳶が足を組んでにこりと微笑んでいる。

 彼の横には莫と姜が、その手を剣に掛けたまま芙蓉を見ていた。

 下手なことを言えばすぐに斬られるのだろう。そんな気がして隣の鈴扇を見ると彼もまた剣に手を置いている。後ろの侍女たちが扉を閉めた音を聞いて思わず振り返ってしまう。


 この部屋からは全てが終わるまで誰も出られないのだろう。


「待っていたよ」


 そう言って微笑む彼は何故か普段よりずっと艶やかな装いをしている。簪を挿して編み込んだ髪はもはやいつもどおりだが、今日は朱を挿したように目の端が赤い。おかげで男なのに妙な色気があった。


「今日はいっそう素晴らしい装いですね」

「暇を持て余した侍女たちが張り切っちゃってね」


 そう言いながら芙蓉の前まで歩いてきた彼が机に着席することを促すが、芙蓉は首を振ってそれを断った。こんなきな臭い場所に長居する気はなかった。それにこんなところに芙蓉一人座ったところで処刑を待つ罪人のような気持ちになるだけだろう。


「私は簡潔な方が好きなので手短に話します」


 そう言うと、彼は佇まいを直して芙蓉の顔を見つめる。それを確認すると芙蓉は静かに話し始めた。


「妓女と犯人の狙いはあなたを殺すこと、それができなくてもあなたを長い間ここに留めることだったと思います」

「さすがに獄中の僕を当主の座にはつけられないもんね」


「ええ、だからあなたに睡眠薬を盛り、あなた共々殺そうとした。彼女たちが取った方法は奇抜なようで単純、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 紅鳶が泊まった妓楼の隣を流れる川は、妓女たちを乗せる舟が通る道である。芙蓉は縄がつたった窓の外を確認した時に舟を止めるための木の杭を確認していたが、どうやら芙蓉が初めに現場についたころには既に修理のために舟は撤去されていたらしい。

 昨日見た舟はいつもはあの場所に置かれているのだと聞いてすぐに合点がいった。


「ほとんどの舟は、舟同士擦りあったので中心部に傷ができていますが一艘だけ船尾に傷ができているものがありました。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 塗装のはがれ方が一艘だけおかしかったのだ。それに隣り合った舟の傷が船頭にあったのを見て、その舟だけが違う長さの縄で繋がれていたのだと分かった。職人たちには悪かったが、派手な塗装の舟で分かりやすくて助かった。


「なるほど、舟で縄を引いたということか」


「昨日は雨脚が強かったんです、上流の堤防が壊れるほどに。水の力は我々の想像をはるかに超えます」


 山が近い蘭國の川は流れが急である。実際ここ数日、数日前の雨で木々が下流にまで流れ着いているのを見た。


「縄をひっかけるだけであれば、例えば厠に立つ時間だけでもできます」


「その時刻の事件現場での不在証明は役に立たないということだ」


 鈴扇の言葉に俄かに私兵たちがざわつき始めた。彼らは皆紅鳶を守るために花街にいたようだったが、全員厠に行くくらいの短い時間であれば持ち場を離れた自覚はあるようだった。

 芙蓉は彼らの前に懐から取り出した縄の一部を見せてなおも話し続ける。その縄には赤黒い血の跡が付いていた。


「おそらく事件の朝凶器の縄を回収した際に、縄で手を切ったのだと思います。首を吊った側と舟に括りつけた側、それを断ち切った時に舟が流されていったのでしょう。首を吊ったほうの縄を回収することはできませんでしたが、舟に紐が付いたままになっていました。職人たちは釉薬が剥がれたのだと言っていましたが、血の匂いがしました」


 そう言いながら芙蓉はゆっくりと歩みを進め、紅鳶の後ろで青い顔をしている姜の前で足を止めた。


「姜さん、その手本当に蛇に噛まれたのですか」


「ぼっ……僕を疑うんですか。僕はずっと紅鳶様の部屋の前にいたんですよ。ねぇ、莫さん!」


 はい、と莫は相変わらず感情の乗らない声で言う。芙蓉は冷静な声でそれに反論する。


「そんなもの役に立たないと証明したはずです」


 そう言ってなお渋るのは、もう答えを言っているようなものだとその場にいた誰もが思ったことだろう。芙蓉は姜さん、と願うように言う。


「蛇に噛まれた人間は抵抗力ができてもう一度咬まれても死なないんだそうです。もう一度試してみてもいいんですよ」

「っ……!」


 勿論嘘だ。逆に二度も咬まれたら死ぬ頻度は上がる。雑な嘘だと思って言ったが、彼は観念して布を取り始める。その手のうちには明らかに縄で擦ったような傷がついていた。


「縄で擦ったあとが付いているな」


 鈴扇は彼の腕を取ってそれを確認する。

 姜は諦めたようにだらりと腕を垂らしながら、それでも芙蓉の方を縋るような目で見た。


「確かに紅鳶様を殺そうとした。だけど変なんだ、確かに清鸞(せいらん)は二人の首に……!」


 そう言ったところで莫が剣を抜いて姜を切り捨てていた。


 彼はたった一度にしか見えなかった剣筋で既に喉笛を潰し、胸に深く切り込んでいる。後ろで鈴扇が剣を抜いた音がしたが、茜の剣士に剣技で適うはずがない。

 芙蓉は思わず彼を受け止めるが、女一人の腕で受け止められるわけもなく彼もろとも床に膝をつく。

 こぽりと口から出た血が芙蓉の顔にまでかかった。


「何をなさるんです!」


 そう叫びながら必死に、服で傷口を塞ぐが流れ出る血は一向に止まらない。芙蓉の衣服に流れ込むように血だまりができ、手が生暖かい血に塗れていく。


「芙蓉さん、お手間を取らせました。これは(せん)家の問題です」


 莫は芙蓉の方に手を伸ばし、あろうことか立ち上がるように促しているようであった。違う、と叫んで莫の手を払う。


「違います!蘭國で起きているんですよ!!これは私たちの……!」


 そう言いながら芙蓉は金魚のように口を動かす姜のその手を取って口の動きを読み取ろうとする。助けてと声にならない音が芙蓉の耳にだけ届く。

 これだけ叫んでいれば聞こえているはずなのに使用人の誰一人として客間に覗きに来ようともしないのが不気味だった。多くの私兵を一つの部屋に集めたのは見せしめのためなのではないかとまで思った。彼らの誰一人として微動だに動かない。


世界が止まってしまったように静かなのに流れ出る血の量だけは変わらない。


 我を忘れて血だまりの中で必死に傷口を抑える芙蓉の倒れそうになる背を鈴扇だけが支える。芙蓉は彼の腕に縋り付くようにして言う。


「鈴扇様……!お医者様を呼んでください!!間に合うはずです!喉を潰されても、心臓が動いていれば……血を止めることさえできれば助かります!」


 そう言いながら自らの服を破いて何重にも巻き付けた。焦って巻き付けたそれはすぐに血の質量で床に落ちていく。

 芙蓉、と鈴扇がその腕を取って止めた。


「早くしてください!!こんなのおかしいって皆さん分かっているんでしょう!!」


 そう叫んでも、周りの兵士の誰一人として動かなかった。誰一人として自分を助けようとはしてくれない。この感覚を芙蓉は味わったことがあった。

 鈴扇は芙蓉を支えながら姜の手首を持って首を振った。


「……芙蓉、だめだ。もう死んでいる」


 先程まで僅かに動いていた口でさえ、彼はもう動かせなくなっていた。熱かった血は既に温度を失って黒く変色していく。支えた身体がどんどん重くなっていく。

 呆然とする芙蓉の目の前に立った紅鳶は珍しそうに灰色の瞳を覗き込んだ。


「蛇に噛まれたって取り乱さないのに人が死んだだけで取り乱すのは意外だったな」


「……紅鳶様、あなた全部分かっていたんですね」


「何のことかな?」


 とぼけたように言う彼の胸ぐらを掴もうとして拳が空を切った。


「とぼけないでください!姜さんは侍女があなたもろとも殺そうとしたのだと言いそこなってあなたの部下に切り捨てられた。あなたは、やはり全て分かっていたのですね……!」


 彼はおそらく全てを知っていたから殺された。勿論彼が罪人であることに変わりはないが、これでは何も分からないまま終わりだ。

 莫は主君に仇なす同僚を討っただけである。事件にはならないだろう。


「何のことかさっぱりわからない。縄など彼女がしくじって抜けたかもしれないだろう。ただこれだけは言っておくよ、ありがとう。僕の無実を証明してくれて」


 にこりと微笑んだ紅鳶は私兵たちに姜の亡骸を処分するよう命じて、芙蓉の前から冷たい身体が運ばれていく。芙蓉の着ていた服はおかげで血だらけなうえに、彼の傷口に使った布のせいでずたぼろだ。

 芙蓉がなおも睨みつけているのをみた紅鳶は煩わしそうに言う。


「人を殺そうとしたんだ、それなりの覚悟はあっただろう」

「だからといってこんな……!!」


 芙蓉がなおも食いかかろうとしたとき、一人の男が静寂を破って転がり込んできた。


「紅鳶様!伝令が参りました!离鴇様が一昨日身罷られたと!」


 その場にいた誰もが息を飲んだのが聞こえた。表情の変わらない鈴扇と、それから紅鳶と李美だけが冷静な顔をしている。芙蓉は呆然とした頭で、()()()()()()()()()()()()とぼんやりと考えていた。


「頃合いだな」


 そう言うと紅鳶は芙蓉の方に向き直って言う。


「芙蓉、君と2人きりで話がしたい」


「何を言っているんです」


 鈴扇がすぐに芙蓉の横に立って彼にしては嫌な顔をして言うが、紅鳶はそんなことは気にせず話を続ける。


「僕は君たちに不当な扱いを受けたんだ。それくらい許してくれてもいいんじゃない?」

「……それを言うなら疑いを晴らした私はそれを拒否する権利があってもいいんじゃないですか」

「参ったね」


 小首をかしげて眉を上げるが、すぐに芙蓉の手を引くと紅鳶はその耳元で囁く。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?」



 その言葉に、目の前が真っ暗になったような気がした。





 ※






 その後、結局芙蓉だけが紅鳶の部屋に通された。


 着替えて湯あみでもしてくればいいと侍女をつけられたが、彼女たちに女性であると言えるわけもなく与えられた上着だけを血の跡を隠すように羽織っている。

 絨毯というのだろうか。獣の毛皮でできた敷物が目立つ異国風の部屋だ。

 莫によって目の前に出された茶を、芙蓉は嫌な顔して押し返した。


「いりません」

「何か飲まないと落ち着きませんよ」


 そう言う彼は芙蓉を気遣っているわけではない。ここまで形だけの気遣いも珍しいだろう。言いはするが飲まないことが分かっているのか、すぐに侍女に下げさせた。


「なんでそんなに落ち着いているんですか?あなたは仲間を切り殺したんですよ」

「仲間?勘違いしないでください、彼は既に裏切り者です」


 なんの感慨もない言葉に芙蓉は虚しくなってこの部屋の主人の帰りを待つ。彼は离鴇の訃報を受けて文を書いているようで、席を外していた。

 この捉えどころのない男と暫く二人きりかと思っていると扉が開いて入ってきた紅鳶が芙蓉を一瞥する。


「服を着替えてくればいいと言ったのに。侍女たちも用意してくれていただろう」


 そう言いながらやっと入ってきた紅鳶に莫は芙蓉から距離を取って壁に背をつける。髪型が崩れかかって煩わしいのか、彼は簪を取って長い髪を背に垂らした。先ほどまでいた兵士たちはもはや誰もいなくなっている。


「そんなことをしている気分にはなれません」

「そんなことをしたら女だってバレるからだろう」


 芙蓉の座った椅子に向かい合って座ると、紅鳶は口端を上げた。


「……いつから知っていたんです?」


 芙蓉が言うと、彼は従者の名を読んだ。


「李美」


 はい、と莫が棚を探って出てきたのは布にくるまれた芙蓉の簪であった。その紅玉の輝きは、皇帝陛下から頂いた唯一無二の品で間違えようがない。


「どうしてあなたが持っているんです!?」


 芙蓉は思わず立ち上がって言う。


「何か面白いものでもないかなと思って探してたら見つけただけ」


 信じられない。まさか部屋に入れたことでこんなことが起こるとは思っていなかった。芙蓉は振り上げそうになる拳をおさめると、椅子に座りなおして彼の目を見据えた。


「要求はなんなんですか」


「話が早い。僕と一緒に茜に来てほしいんだ」


 思った通りの言葉に思わず唸りそうになって口を結んだ。その顔を見て紅鳶は笑っている。芙蓉がけして逆らえないことを知っているからだ。


「……あなたはどこまで知っているんですか」

「君が女であること?それとも月英の娘であること?」

「それもすべて()()()が話したんですね」


 名前を言うのも嫌な彼は芙蓉をまた道具のように使っていたのだ。あの男、と言っただけで紅鳶も理解したらしく、ああと言った。


「息子だって聞いてたんだけどね。僕が君を手籠めにでもしてお持ち帰りされたら困ると思ったんじゃない?」

「私は戸籍上は男なのでそんなことをしたところで意味はありませんよ。紅鳶様は男と男が結婚できないと知っているでしょう」

「なるほどね、僕も君にはまったく食指が動かないからよかったよ」


 随分失礼なことを言われた気がしたが、そう言われるのはむしろ好都合だった。紅鳶の侍女たちだってあのように煌びやかで美しいのだから、茜の貴族令嬢は芙蓉など目ではないだろう。


「そうと分かれば私は必要ないでしょう。早くその簪を返して下さい」

「それで僕が引き下がると思ったの?」


 そう言うとくつくつと、心底面白そうに彼は笑った。


「僕が欲しいのは葵家の姫じゃない。君だよ、芙蓉」


 自分が葵の姫だったならばその言葉はどれだけ嬉しかっただろうか。血筋ではなく自分自身を見てくれる彼がどれだけ魅力的に見えただろうか。

 それでも今の芙蓉にその言葉は全く逆の意味を示している。


 彼が求めているのは鴻鵠の、月英の娘の頭脳だけだ。


「君は実にうまく立ち回ってくれた。僕は賢くて僕の思い通りになる駒が欲しいんだ」

「何をさせたいんですか」


 はっきり駒と言い切る彼の潔さに呆れながらも感心したが、その次の彼の要求は芙蓉の思っていたものと正反対であった。


「葵と茜が同盟を組むのを止めて欲しい」


「止める……?むしろ手を組みたいんじゃないんですか」


「このままだと茜國は葵國の操り人形になる。それを止めて欲しい」


 彼はそう言って初めて芙蓉の前で苦い顔をした。


 芙蓉はこれまで紅鳶が葵と手を組むために動いているのだと思っていた。それが逆なのだとすれば、つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 その事情さえなくなれば二つの國が結託するのを妨げられる。

 それでも一人で赴くには茜は危険すぎるのは先ほどの顛末を見ていれば一目瞭然だ。駒だと言われた以上使い終わったら切って捨てられる未来が見えている。


 芙蓉が悩む素振りを見せていると紅鳶は芙蓉の椅子に近づき、その肘掛けに手をかけて目前に迫ってくる。


「言っておくけど、これはお願いじゃない。君に拒否権なんてないんだよ」


 彼の血のように赤い髪が芙蓉の顔の周りに檻のように覆いかぶさってきた。それだけで逃げられないような錯覚に陥る。身をよじって逃れようとすると肩を椅子の背に押し付けられて身動きが取れなくなった。


「私が葵の間者になるとは思わないんですか」


「君は裏切らない。かわいそうなほど優しい人間だもの」


 そう言って彼は芙蓉の頬を撫でる。彼の赤い瞳の奥の自分はひどく怯えて見えた。いつもなら頭が回るのに、先ほど見た血だまりの光景のせいで思考が鈍い。

 今にも唇が触れ合いそうな距離で二人はしばらく見つめあっていた。彼の目の色は血のように赤く残酷そうなのに、その実助けを求めて震えているようにも見えた。


 その静寂を裂いたのは予想外の人間だった。


「失礼する」


 そう言って下男や侍女たちの手を払いながら入ってきたのは鈴扇であった。彼はそのまま真っすぐ芙蓉と紅鳶のもとに向かうと紅鳶の足を蹴り上げて払おうとする。

 すんでのところで剣の鞘で止めるが、紅鳶も驚いたのか椅子に預けていた体重をかわして後ろに下がる。


「鈴扇様!?」


 あまりのことに驚いているとすぐに椅子を立たされ、手を引いて扉側にかばわれる。芙蓉を逃がすためかもしれないが、壁に張り付いた莫の手が柄に掛けられているのを見るに難しそうだ。

 紅鳶は剣に手を置いたまま、心底面白そうに笑った。


「鈴扇殿、これは國交を揺るがす事態だよ」


「避けられたものをわざとあたっておいてよく言う」


「胡散臭い敬語はやめたんだ、いいよ。その方が腹を割って話せそうだ」


 後ろで莫が剣を抜く音が聞こえた。逆らえば、殺されるのではないかと思ったが菫家直系の鈴扇がいるかぎりそれはないだろう。とにかく感覚を研ぎ澄ませて彼らの話に耳を傾けた。


「僕には欲しいものがある。兄上が王様の国だ。そのための軍師役に芙蓉を借りたい」


「断る、と言いたいところだが……芙蓉、お前はどうだ」


「私、ですか……」


 鈴扇は掴んだままの芙蓉の手を引いてそう聞いた。断ってくれたら嬉しいが、と一瞬思うがすぐに先ほどの考えを思い出して逡巡する。

 紅鳶は葵と手を組まない方法を知りたがっている。


 つまり、今の茜家は芙蓉にとっては葵家(てき)の敵である。


「……行きたくはありません、しかし行かなければもっと悪いことが起きることは確かです」


「だろう、だったら僕の手を取ればいい、心配しなくても死なせはしない」


「では条件を付けてもらおう」


 鈴扇は芙蓉と、紅鳶を互いに見て言った。


「条件?」


 怪訝な声を出しながら、紅鳶は意外にもそれを聞く耳を持っているようであった。


「芙蓉はお前の窮地を救ったんだ、それくらい許されるだろう」




 そう言って鈴扇が言い渡したのは芙蓉にとってはまさに青天の霹靂の提案であった。




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