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ヤージュの定期健診とオーナーの提案

しばらく更新がまばらになりそうです(/. .\)




結局施設に向かわないといけない時間ギリギリまで赤毛の甘えっ子に膝を貸して、寂しそうにする type М 205 に手を振り車に乗って施設に向かう。

この世界の車は運転手なしで目的地に自動で着くようになってる。

これももちろん自動認証システムで使用権限をチェックされる。

お店と施設の往復以外にも敷地内の設定してあるところなら行けるらしいけど、私たち愛玩人形はお店と施設との往復しか許可されてない。

この施設への移動はトンネルのような道の中を通るからお店の窓からも外からも見ることは出来ない。

防犯用の道なんだと思う。


車に乗って5分くらい。

トンネル内は目印になるものが一切ないし、乗ってても気圧とか圧迫感とか何も感じないからスピード出てる感じは全然しなけど、お店から施設の距離を考えると結構な速さで走ってる気がする。

ハイテク過ぎると実感沸かなくて凄さもイマイチ分かりずらいんだよね。



そんなこんなで約束の時間のギリギリかなってくらいに着いてちょっと小走りでヤージュの待ってるだろう健診部屋に向かう。

ヤージュは神経質な割にちょっと遅れたくらいで怒る人じゃないけど、私が気になるからとにかく急ぐ。

それでも愛玩人形視点での病院みたいな所だしできて小走り。

ほんとに気持ち急いでるって感じ。



息が乱れてるのを扉の前で整えて、扉の横の認証スキャンに自身をかける。

すると全身を緑の光が包んでから数秒、扉が開いた。




「ヤージュ、時間ギリギリになってしまってすみません!」


部屋に入ると同時に軽く頭を下げ謝り目線を上げると、ヤージュの隣にオーナーもいた。



珍しい。




「やあ、マナ、

まだ時間前なんだから気にしなくていいんだよ?

真面目なところも君の魅力だけど、たまには肩の力抜かなくちゃ」



オーナーが明るく綺麗な金髪を揺らしながら今にもウインクしそうな勢で小首を傾げてくる。

30代も後半に差し掛かろうかと言ういい大人過ぎる年齢のはずなのにいやに可愛く思える。

美形は歳とっても得だなと呆れてしまう。

…ヤージュが凄い眉間にしわ寄せ…鼻にも皺寄せてる。

すんごく嫌そうな顔。この2人ほんと仲いいな。



「いえ、私が気になる質なんです。

オーナーはなぜこちらに?」

「そう、それならいいけど無理はダメだよ?

僕もたまにはマナとのおしゃべりに参加させてってヤージュに頼んだんだ。お店だとキミの前の世界の話は聞けないからね」

「おい、マナは検査に来たんだ。邪魔をするなら追い出すぞ」

「ヤージュ、そんなにカリカリしてたら眉間のシワ取れなくなるよ?」

「マナ、コイツは無視してこっちに座れ」



ヤージュの方が歳上だからって凄く雑な扱いだな、と思いながら素直に指定されたベッドに座る。部屋の中央より少し右手にある検査用のベッド。器具や配線なんかと繋がってて横にはモニターがいくつか空中に映し出されている。



「まずは検査だ。いつものように服脱いで横になれ。」



ヤージュはこちらも見ずにパネル操作しながら指示を出す。

私もいつもの事なので気にせず服を脱いで下に置いてあった籠に皺にならないように入れ、ベッドに横たわる。

初めは全裸で検査というのに抵抗ありすぎて脱ぐのにもかなり時間がかかったけど服を着たまま検査はできないし、元々生まれた時は全裸。

この身体は見慣れてるとヤージュににべも無く言われ、実際ヤージュよ態度にも目線にも性的なものは感じなかったのでだんだんと全裸というのにも慣れてしまった。

今日はオーナーもいるけど、まあ彼も同じようなものだ。

人形達が生まれるときには立ち合うし、常に人形と過ごしている。今更こちらも意識なんてしない。



横になってしばらく、体の表面を薄い黄色に発色した膜が包んでいくのが見え、そこで私の意識は薄れていった。








目が覚めた時には脱いだ服は着せられてて、ベッドとは反対側に備え付けられたソファーセットにオーナーとヤージュが寛いでお茶を飲んでた。

ヤージュもオーナーと同じ血筋で親戚らしいから貴族なんだろう。自分の格好に無頓着な野暮ったい姿なのに、お茶を飲む様は優雅だ。生まれってこーゆー何気ない所で出るんだなあ。検査の時に下から覗き込んで見える彼の茶色の目はとても凛々しく顔立ちも整ってる。

ちゃんとすればとても貴族らしいのだろう。


起きた私に気が付きオーナーが手招きする。普段から貴族然とした彼はお茶を飲む姿も貴族オーラが凄い。まさに貴人様、だ。

きっと服を着せてくれたのもオーナー。

ヤージュはいつも上に自分の白衣を掛けるだけで起きるのを待ってるから。



「マナも飲むかい?ヤージュと違って私はお茶を入れるのも上手いよ。

これくらいならエネルギー変換にもなんの支障も出ない」

「ヤージュはコーヒーの入れるのはお上手ですよ。というかお茶は入れてるの見たことありません。

オーナーのお茶、有り難く頂きます」

「そう。ヤージュは君にコーヒー入れてくれるんだね。ふふ。

ヤージュのお茶はそのまま飲まない方がいいよ」




オーナーは目を細め楽しそうに笑いながらお茶を入れてくれる。

ヤージュは何だか苦いもの口に含んだみたいな顔してる。

どうしたんだ。




「あ、そう言えばオーナー、シーザー様に私の了承があれば販売してもいいって言ったんですか?この間そのせいでレンタルからでいいから試してくれって大変だったんですよ!」



オーナーにずっと聞こうと思ってた事を思い出しふくれっ面で不満全開に抗議するとオーナーは途端困ったような笑顔でお茶を私に渡し、宥めはじめた。



「それなんだけどね、マナ。

マナのレンタルの話は前から要望が多かったんだ。

だから最大1週間まで、という期限とレンタル料の一部をマナへの手当として渡すことにして、貸し出ししようかと思ってる。」


「え!!??」


「もちろん貸し出し中の規則(ルール)は購入する時よりも厳しくするし、貸し出し先もかなり厳選させてもらう。マナが拒否する相手には貸さないし、マナのしたくない事をお客達はさせることはできない。」

「えっでも手当としてお金貰っても私には使う先が…」

「これからはマナに店の外でも私の代理や付き添いで仕事をしてもらおうと思ってる。その時に使うといいよ。自分で稼いだお金を自分のために使う。マナの前の世界と一緒だよ。」




オーナーの提案にビックリしすぎて見開きすぎた目から目玉落ちるんじゃと思いながらもなかなか瞬きも出来ないまま凝視してしまう。

ヤージュは隣でため息をついてる。

貸し出しは嫌だがお金を稼いで自分の好きにできるのも外に出れるのも自分の自由が増えるという点でとても魅力的…いや、自分の理想に近い形の生活なのではないだろうか…。


愛玩人形の私はご主人様を得ない限り外には出れないと思っていた。

それなのにそれ以外での選択肢で外に出れる。

もちろん私ひとりで出ることはないだろう。愛玩人形が単独で出たりしたらすぐに誰かに攫われて裏ルートで売り飛ばされるかどこかで監禁…どんな扱いをされるか分からない。

他の愛玩人形でもそうなのに私は出産もできる希少型(レアタイプ)

想像するのも怖い。

だからここを抜け出すとか、外で1人で生活するなんて夢は早々に捨てたけどそれでも誰に所持されるでもなく外に出れるようになれたら…とは思っていた。

まあお店、ひいてはオーナーの所持物、ということにはなるだろうけど希少な私たちに強力な保護者は必須。

貸し出しというマイナスとそれさえ我慢すれば得られる自由。


私はあっさりと自由を取る事に決めたのだった。














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