休日の愛玩人形たち
今日はメンタルチェックと検査の為にお店はお休み。
施設に行くのは午後だからそれまでは自由時間。
いつもと同じ時間に起きて、顔を洗い、歯を磨き、着替えて髪の毛の寝癖を治す。
まあ柔らかい直毛だから濡らして撫でつければすぐ直るんだけど。
起きてからする事は人間だった時と変わらない。
備え付けの器具とか、道具とか機械とか、色々あの頃よりもだいぶハイテクだけど…
本日1回目の食事を摂りに行くため部屋を出る。
私はお店の管理職扱いになってるから居住区が結構上の方。
ハイテクエレベーターに乗って食事配給エリア、所謂食堂に向かう。
いやほんと語彙力なくて申し訳ないんだけど本当にハイテク。
階をボタンで押すとかじゃないのに行きたい階に止まるし、箱型じゃなくて印のある中に入ると勝手に個人識別して、許可が下りてる人だけが使えるようになってる。
つまりお客様も無断侵入者も使えない。
あと許可されてないエリアには愛玩人形たちも行けない。
移動の仕方も瞬きする位の一瞬の間に行きたかった階に着いてる。
ホントに不思議。
配給エリア。
ここでは誰が食事を摂りに来てる来てないとかも管理職には直ぐに分かるようになってる。
わざと取らない子はいないけどたまに忘れちゃう子はいるから一定時間を過ぎても来ない子にはリボン無線機に自動的に連絡が飛ぶようになってるし。
配給は手渡しとかじゃなくて配給ボックスに認証システムがついてて、目の認証と手首のリボンを翳すと取り出し口から出てくる。
もし2回摂ってるのにまた貰おうとしても出てこないようにロックがかかるようになってて、個数管理が徹底されてる。
発情しちゃっても動かなくなっても大変だからね。
出てきたカプセル2つを口に放り込んで空き時間に何をしようか考える。
お休みの今日は非売品の私はお客様から見えるエリアには行けない。
だからプライベートエリア内で過ごすんだけど…
運動するのは好きじゃないし大人しく図書エリアで読書かな。
検査が午前中だったら帰ってきてから温室エリアの四阿かプライベート庭園エリアの木陰でお昼寝も良かったんだけど…
起きたばかりだからまたすぐ寝るのはちょっと、ねぇ?
温室エリアも植物の数や蝶が舞っていたりと綺麗なんだけど、庭園エリアはもっとすごくて室内なのに太陽光や風も感じられてほんとに気持ちいいんだよね。
建物内は全て常に春の過ごしやすい気温で一定管理されてて、庭園エリアもそう。ずっと麗らかな陽気が続いてる。
庭園、となってるけど庭園の他にも林になってる所や小さな湖なんかもあって、足元には柔らかな草花が生えていたり、芝生になってる所があったり、大きな木にハンモックの付いてる所もある。
小鳥などの小動物もたまに見れる。
実は夜には星空も見れるようになってて、たまに寝る前見に行くんだよね。太陽系ではないけれど。
今日は読書と決めてまたハイテクエレベーターに乗ろうと思ったら後ろから勢いよく抱きつかれた。
衝撃で少しよろめく。
びっくりして振り返ると緩やかに波打った赤毛が見えた。
「 type М 205 危ないでしょ!」
コラ!と怒ると本気で怒ってるわけじゃないのが分かるのか、悪びれない笑顔を返された。
「マナ! 今日はお休みでしょ? ボクと一緒に遊ぼう!」
「……よく知ってるね。」
少し目を見開くと " type М 205 ” は金色の瞳をイタズラっ子のように細めてふふっと笑った。
「マナの予定は毎日把握してるんだ!検査までの時間でいいんだ。
ボクと一緒にいよう?」
この子は私がここに来た数日後に生まれた子。
生まれた時から私が管理して見てたからかすごく懐いてくれてる。
それは嬉しいんだけど…
私と離れるのが嫌だから、とどんなに相性のいいご主人様候補と引き合わせてもうんと言わないんだよね…。
購入されるのをさりげなく避けてる。
「一緒にいるのは構わないけど、私今日は本を読みに行くよ?」
「うん、いいよ!マナと一緒ならどこでもいいんだ!」
一緒にいていいと言ったらとても嬉しそうにニコニコ上機嫌。
他にも慕ってくれる子は多いけど、この子のはなんだか過剰な気がする。すごく甘えてくる。
仕事に不真面目な訳じゃないし、接客もマナーもちゃんとしてる。
当番もきちんと守ってる。むしろすごく真面目!
ただ購入されるのを避けるだけ。
うーん、一度オーナーに相談した方がいいのかな…。
離れないとばかりに指を絡めて手を繋がれ、仕方ないと並んで図書エリアに向かった。
図書エリアの布張りの3人掛けソファーに座りサイドテーブルに本を数冊置いてから読んでいると、いつの間にか " type М 205 " が私の太腿を枕にして気持ちよさそうに寝ていた。
元々体を動かす方が好きだからこうなるだろうなとは思ってたけど、思ってたよりも早い。
そういえば昨日も他の子と数人一緒にご主人様候補に引き合わせたけど、上手く他の子が選ばれるようにして自分が選ばれるのを避けてたな。
あれはあれで神経使いそうだしそれで疲れてたのかも。
額から目元にかかる長い髪を梳きながら後に流してやると気持ちよさそうにこちらに向くように寝返りをうち、私のお腹におでこを擦り付けてくる。
猫みたいだな、と気持ちが少し和む。
私はそのまましばらく、この困ったちゃんの柔らかな赤毛を撫で続けた。