常連さま
お店の中はいくつかのエリアに分かれている。
上の階に行くほど愛玩人形達のプライベートエリアだ。
もちろんオーナーの居住区は最上階。
誰も行ったことがないのでどんな風になってるかは分からない。
1階はエントランスの吹き抜けエリアになっていて奥側の裏通路は従業用なのでお客様は立ち入り禁止。
ここで危険物の持ち込みのチェックやお客様の経歴、紹介筋の確認、問診などをして愛玩人形達に引き合わせても大丈夫かのチェックをされる。
聞いた話だとこの国は王制なのだがここのチェックは王宮に入るよりも遥かに厳しいと評判らしい。
私たち愛玩人形にとっては嬉しい事だが。
その厳しいチェックを通りようやく2階に上がれる。
2階にはバーカウンターも併設されているラウンジのようなフリーホールエリアとガラス越しに愛玩人形達のプライベートが見れるリラクゼーションエリアがある。
フリーホールエリアとリラクゼーションエリアは壁の切り替えで繋がっており、どちらも飲食は可能。
給仕も愛玩人形達がするのでその様子を見て購入する子を決める、というのが元々からある購入までの流れだ。
更に3階にVIPな方用の応接室と個別に相談や気に入った子とのふれ合いができるテーブルセットが周りからは見えないように組んでエリアがある。
さっきミティルバ様を接客してたのもこのエリアだ。
最近のこのエリアはほとんど私が接客する用になっている。
応接室のVIPというのは、まあ、簡単に言うと王族とか。他国の王族とか。とにかく王族だ。
こちらはオーナーが対応する事になっている。
…なっているのにたまに話し相手として呼ばれる。
本当に雑談に付き合うだけなので正直なんで呼ばれるのか分からないんだけど…。
そこから上の階は、食堂や運動ができる施設や図書エリアなどの階を挟んで愛玩人形達の居住区エリア。
お客様のいるエリアには当番制で決められてなければ行くかどうかは自由に決めていい事になってる。
今は私がマッチング作業をしているから、愛玩人形達に信頼されてるのか競争的に下に降りる子は少ないけれど…
それでも定期的にリラクゼーションエリアには行くようにはお願いしてる。
誰もいなくなったらこのエリアの意味なくなっちゃうし、あくまでプライベートが見れるっていうのが良いみたいだしね。
今向かってるのはそのリラクゼーションエリアに繋がるフリーホールエリアだ。
ここは会費を払えばチャージなしでずっといられる。
飲食代は別だけどね。
それでも結構な人数の方が途切れることなくいらっしゃる。
どうも自然体の愛玩人形達を見るだけで癒されるらしいのだ。
…確かに天使かと思うような美少年達の給仕やプライベートが見れるのだ。そりゃあ目にも心にも癒しだろう。
私もその気持ちは大いに分かる!
うんうん、と納得しながらフリーホールエリアの扉をくぐった。
「 type Р 127 今日のお客様達はどお?
お酒や料理の在庫は大丈夫そう?手は足りてる?」
「マナさん! お疲れ様です!
今日は新しい方が数組いらっしゃいますがゆったり見てらっしゃるので在庫切れの心配はなさそうです。給仕もこの人数で大丈夫ですよ。」
「それなら良かった!
もし急な変更とか足りないものが出たら遠慮しないで連絡飛ばしてね。 type Р 127 はいつも無理しがちだから、休憩もしっかり取って!
あとこの間キミの作ったお酒をとても褒めて下さった方がいたの。真面目に勉強してるのが伝わったのね。」
この子はこのお店でも古株の方でとても努力家な子。
偉い偉いとふわふわの水色の髪を撫でてあげると嬉しそうに目を細めて頭をこちらに傾けてくる。
ここの子達には私もとても癒される。
名前を付けるのはご主人様の特権だから識別番号で呼ばないといけないのがいつまで経っても複雑な気持ちになるけど、そういうものなんだと割り切ることにしてる。
「あ、マナさん。シーザー様がいつものお席で待ってるから、マナさんが来たら少しでもいいから話し相手になって欲しいって伝えてって…」
「…分かった、ありがと。じゃあこのあともよろしくね。」
少し申し訳なさそうに伝えてくる type Р 127 に安心させるよう心掛けて頭をもうひと撫でしてから伝えられた席に向かう。
お店の敷地にある庭園を見下ろせる窓際寄りの席に座っているのは2週間ほど前に会員であるご友人に誘われて一緒に来られたシーザー様。
そのご友人の勧めで愛玩人形を購入に来ていたのを私が接客したのだけど、私のことを気に入ったからと他の愛玩人形は購入せず2日に1度のペースでこのエリアのこの席に座って私の空いた時間に話に来られる。
ある意味常連様だけどわたし的にはちょっと変わった人。
購入も出来ない私に会うためにここに通ってびっくりするくらい高額らしいここの入会金を払って会員になって。
男性的な美形だし優しいけど、やっぱりちょっと変わった人だと思う。
「シーザー様、ご来店ありがとうございます。」
「マナ! 待ってたんだ。今日はどのくらい話せそうかな?」
「ゆっくり話せるのは15分程ですかね。」
「そうか。あ、座って座って」
ソファーの隣をてしてしと叩かれる。
いい人なんだけどちょくちょく大型犬に見えるんだよね…
尻尾の幻覚が見える…
男前がもったいないな、と思うけど可愛いな、とも思う。
犬、好きだったんだよね
指定された場所に少し浅めに腰掛けると、腰をグイッと引かれて近くに引き寄せられた。
「今日もマナは綺麗だね。
可愛いのに綺麗で、ずっと見てても飽きないよ。」
「ありがとうございます。でも他の子達の方が私よりも可愛いと思いますよ。私は負けん気も強いですし、考え方が男性的なので、可愛げもないと思います。顔の作りは…まあ、綺麗な方かとは思いますが…作られたもの、ですしね。」
皮肉と揶揄を込めて返事をしてもシーザー様の笑顔は崩れない。
「マナのそうゆう所も好きなんだよ。
マナはいつになったら僕のものにできるのかな…
マナになら幾らかかってもいいのに…」
少し拗ねたように言うシーザー様に少し困った笑顔を向ける。
「シーザー様、お気持ちは嬉しいですが、私は自分を売りに出す気がありません。それはオーナーにも伝えてますし…それにシーザー様にはもっと相性の合う子が絶対いますよ。」
「………僕はマナがいいんだよ…見た目だけじゃないんだ……」
いつものやり取りだがその度に私がいいと言ってくれる。
正直毎回真剣に乞うてくれるから嬉しい気持ちはあるが誰かの持ち物になって相手に自分を委ねるつもりも、ましてや妊娠機能を使うつもりもない。
「ねえマナ、お試しで貸し出しだけでも出来ないかな…?
マナが嫌がることは絶対しないから。
マナが僕のものになってもいいって気持ちになったらオーナーも販売許可をくれるって言ってたんだ。」
オーナーの許可とかいつの間に…
「シーザー様、お試しはぜひ他のもっと見た目も中身も可愛い子と…」
「僕はマナ以外とはお試しする気もないよ。
だから僕は諦めないよ。
マナに僕の所に来たいって思ってもらえるように頑張る」
至近距離で顔を覗き込みながら熱の篭った目で囁かれた。
その彼の色気に少し遠い目になってしまったが、どうしたらこの男前は諦めてくれるのだろうか。
結局時間ギリギリまでシーザー様の話し相手をしたが諦めて貰えるいい方法は思いつかなかった。
ブクマ、評価ありがとうございます!