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おしごと。




愛玩人形になった日からさらに3ヶ月が経った。



最初の3日程は体やメンタルのチェックと愛玩人形や施設とお店の説明。

そのあとの1週間はトリニトゥリテの仕事内容の説明と研修。

そこから少しずつ仕事をはじめて

今では他の愛玩人形達の管理やご主人様候補のお客様達へのご案内、合いそうな愛玩人形をお薦めしたりするマッチングや、各エリアの状況確認をしたりとフロアチーフのような事をしている。

人間だった頃はウエディングプランナーをしていたから接客は慣れてるし、要望を聞いて提案するのも得意だ。


その甲斐あってか仕事にはすぐ馴染めたし、他の愛玩人形達も生まれてからすぐ自我を持っていた私を特別に見てくれてるのか、いきなり管理なんかをされ始めたのに反抗も抵抗もなかった。

それどころか慕ってくれる子も割と多い。



私の自我がこの type Я に入ったことへの研究も、週に1度施設に行って真名 佳織だった時の話を聞かれたりメンタルチェックや身体への負担、異常がないかの検査があるくらい。

施設はお店の敷地内(って言っても敷地がすんごく広いんだけど)だから週1でも負担に思わないし、研究者兼生みの親のヤージュも研究者気質で神経質な所もあるけど無茶な要求もなければ嫌なことは答えなくていいってスタンスで話しててとても楽。



オーナーのルディスも人当たり良くて、私も含め愛玩人形達へのケアもマメだし経営者としてはやり手でシビアな面もあるんだろうけど、私たちには決してそういった所は出さない。

お客様主体ではなく、愛玩人形達の事を考えてお店をしているしお客様もマナーの守れる優しい方たちばかりだ。


まあ、愛玩人形を粗雑に扱うような人はお店の敷地にすら入れないんだけど。

法で守られてる上にオーナーからの守りも完璧で、客質はものすごくいい。

中には変わった方や、難しい気質の方もいるけど優しいのには変わりないし愛玩人形を大切にしようと思ってくれてるのも伝わってくる。



お客様からの無茶な注文やクレーム、利己的な上司や不満しか口にせず向上心のない部下や表と裏での顔を平然と使い分ける同僚達に苦労させられていた前職場から考えると、ここは天国かと思うくらい働きやすい!

前の職場でしか社会経験のなかった私にはそこがヤバかったのか、どこもそんなものなのかは分からないが、ここで働き出してからは自分が妊娠可能な愛玩人形だというのさえなければここに来れた事を全力で感謝したいと思っているくらいだ。








そして今日も私はお客様の要望に合う愛玩人形をお薦めしている。


「失礼致します。

ミティルバ様、お久しぶりでございます。

本日はどのような子をお探しですか?」


声をかけてからアーチ型の大きいソファーとその前にあるテーブルの横で一礼してソファーの端に腰を浅くかける。


相性のいい子とのマッチング率が高いとお客様方にも好評で、私の手が空くのを待ってまで相談してくる方も多い。

頑張っただけ評価も返ってくるし、何より大事にした分愛玩人形達からもお客様達からも大事にしてもらえる。

とてもやり甲斐を感じる。



「マナ! やっと私の番だね。

君はいつも人気だからなかなか順番が回ってこない。

それでもマナに相談するととてもいい子に出会えるから仕方ないね。

本当は君を連れ帰りたい位だが…非売なのが残念だよ。

ああ! 前に紹介してくれた子!すごく良かったよ!

私の希望通りだった。さすがマナだ!

だから今回もマナに薦めて欲しいんだが…

今日はね、あの子が私がいない間も寂しくないように、私ともあの子とも相性のいい子が欲しいんだよ。

タイプは問わないけどノーマルの中で頼むよ。」


私はにこやかに要望を聞きながらタッチ型のパネル画像から条件に合う子をリストアップし、その子たちの画像と詳細の載った画面を浮き上がらせお客様の前に提示する。


「ご満足頂けたようで光栄です。

かしこまりました、前回の子は " タイプ О(オー) ” の187でしたね。

あの子は空いた時間はよく読書をしてましたし、この子か、この子…、ああ、この子もいいと思います。

ミティルバ様とも相性はいいかと。呼んでまいりますので少しお待ちください。

また1時間ほど致しましたら、お伺いに参ります。」


「ああ、ありがとう、よろしく頼むよ。」




私は笑顔で優雅に見えるように深く一礼すると、次の仕事に向かいながら手首に付いたリボン型の連絡機から薦めた子達に連絡を入れる。



これは私が佳織だった時の仕事の様子を話した時にヤージュが興味を持って試作したのを仕事に取り入れたいとオーナーに進言して採用されたものだ。

所謂無線機のようなもので、ヤージュはそれにメンタル状態が数値で判る機能も取り付けた。愛玩人形達が嫌だと思うことが続いたら、その精神負担が数値として出て、管理側にすぐ分かるようになっている。

これによって接客効率も上がり、ヤージュやオーナーも定期検査以外でも愛玩人形達の状態を容易く把握できるようになった。

何より買い取られてからの子達の状態も手元の操作で見られるようになり安全面も向上。

オーナーからはとても感謝された。



在籍する子達を全員覚えるのは大変だったけど1度覚えてしまえばあとは楽だった。

ここから出たことがないからこの世界基準で凄いのかどうなのかは知らないが、この施設とお店では前の世界で見ていたSF映画のような技術や機械、設備がそこかしこにある。


先程操作していたタッチ型パネルも私用にと支給されているものだが、画面の映像を平面でも立体でもホログラム映像として空中に映し出すことができる。

また、この中に施設の管理資料の一部が反映されるようになっているので全愛玩人形の詳細や状態情報などもリアルタイムの確認ができるようになっている。

その中に私が管理しながら各愛玩人形たちの個性や特徴を細かく入れていけるようにもなっていて(ヤージュにお願いしたら機能を追加してくれた)管理していくのにも負担はない。




まあとにかく、これは天職なのでは?と思えるほどに楽しく仕事させてもらっている。



ミティルバ様がお試しされている間にフリーホールエリアの様子を見に行こうと思い、歩みを進めていると通路の壁に掛かった全身を映しても余りある大きな鏡の前に差し掛かった。



つい、未だ見慣れない今の自分を眺めてしまう。




白磁の肌の輪郭にかかる艶やかな黒髪は、秀でた形の額が見えるように分けられた前髪を長めに切り揃えられていて、動く度にその真っ直ぐな毛先が サラサラと揺れている。

手足はスラリと長く腰位置も高い。柔らかくふんわりとした形のブラウスシャツの首元にはお店のマークの入った繊細なチョーカー型の黒の首輪。

細いのに程よい肉付きの身体に、腰のくびれが判るハイウエストのショートパンツと白い太腿が少しだけ覗くニーハイソックス。足元は5cmヒールの足首までのレースアップショートブーツ、編み上げられたふんわりと大きめのシルクのリボンがポイントになっていて可愛い。

小さい顔には少し切れ長にも見える大きく潤んだ碧の瞳が、黒の長い睫毛に縁どられ影を作っていて、繊細な線の鼻筋の下にさくらんぼ色の小さくも柔らかそうな唇が存在を主張している。

頬も薄らと朱が差していて15歳の少年の姿に危うい色気を加えていた。

他の愛玩人形達と同じく、天使のような美しさだ。




私はつい複雑な表情を浮かべながら鏡の前から逃げるように、目的の場所に早足で向かった。





ブクマありがとうございます!

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