愛玩人形と出会える『トリニトゥリテ』というお店
衝撃の目覚めから1週間が経った。
私は事故にあって意識がなくなり、目が覚めたら愛玩人形になっていた。
目が覚めたのは愛玩人形を生み出している施設で、最初に声をかけてきた黒髪の男の人はヤージュ。
愛玩人形たちの生みの親だ。
つまり私のこの体を作ったのも彼ということだ。
愛玩人形は部品を繋げたりして作るのではなくて、私が最初に目覚めたときに入っていた真っ白の入れ物…卵型の育成機なのだが、その中で元になる核から育てていく。
その過程はまさに胎児から幼児に、そしてタイプ毎の成体にまで、文字通り育てるのだと言う。
その核が何なのかは、企業秘密なのだそうだ。
つまりこの愛玩人形を生めるのはこの施設だけ。
その後に話しかけてきた金髪の美形はルディスという名前で
この育成施設と、生まれた愛玩人形達を主人となる貴人と引き合せるための紹介所のようなお店のオーナー。
彼自身も高貴な身分らしいけど詳しくは教えてくれなかった。
お店の名前は『トリニトゥリテ』。
紹介所と言っても怪しいものではなくて、きちんとこのお店のある国の認可を取って営業している。
店内は小さなお城のようでとても綺麗で豪華。
人形達にも個室が与えられ、そこで知識や教養を身につけご主人様に見初めてもらう為の努力をしている。
最初は言葉が最初から理解出来て話せるだけで、なんの知識もない状態だから、そうやって自由も与える事で個性や各々の意思を芽生えさせてるらしい。
施設も同様で、国からの支援もあるらしい。
施設内はカプセル育成機か簡素な部屋しかないから、人形達は生まれた時とメンタルチェックや何かのトラブルでのメンテナンスの時以外はずっとお店の中。
それ以外の場所に行けるのはご主人様に見初められた子だけ。
ああ、あとこれは勘違いしたらダメな事だが
生み出される愛玩人形達は名前のような如何わしい雰囲気の為のものではなく、所謂嗜好品。
ここの愛玩人形を持っているということ自体が貴人達の一種のステータスになるらしい。
タイプによって取引額もピンキリらしいし、用途も少しずつ違うらしいが愛玩人形達はみな例外なく天使のように美しい少年の容貌で、
その美しいものを更に美しく飾り、愛で、連れ歩くというのが本来の目的。
その事は法律でもきちんと定められているらしく、粗雑や非道な扱いをすれば裁判によって裁かれ、店にも多額の賠償金を支払う事になる。
沢山の規律と契約があって、愛玩人形は国の法の元守られている。
人形とは呼ばれているがそれぞれに人格も意思も存在するので扱いは人間と同様、場合によってはその価値から人間以上の存在として周知されている。
中には愛でているうちに愛情が芽生えて恋人となる人達もいるらしいが、愛玩人形も同意している中での関係なら問題はないらしい。
愛でる為のものだから、愛が大きくなるのは構わない、という解釈らしい。
…私にはよく分からない理屈だが、結婚も認められてる。
正直そんな人形になったのは今でも信じられないが、体の構造が元の自分の姿はおろか人間とも違いすぎて認めざるをえなかった。
どんなに認めたくなくても。
「マナ、食事の時間だよ」
「はい。」
まずこの体は排泄をしない。
体内に取り込んだエネルギーを自分の中だけで使い切ってしまうからだ。構造とか説明されたけどよく分からなかった。
分かったことといえばひたすら不思議構造ってことだけ。
だからこの体には男性器も女性器もない。
排泄するための構造自体がない。
なのにお尻には穴がある。
排泄することはないけれど。
どうしてあるのか、とかは察して欲しい。
私の口からは言いたくない。
そんな事を思い起こしていたら差し出していた右手の平にカプセルが2つ。
白と赤がセパレート配色になっているものと、全面水色のもの。
このカプセル2つが日に2回の今の食事。
日に2つ×2回これを飲めば体は十分保たれる。
あっ最低限の摂取と言うだけで、普通の人間の食べ物も食べられる。
ただ排泄、という構造がないから必要分のエネルギーからはみ出した分は余剰エネルギーとなって、まあ予備充電みたいな感じになるんだけど…
その余剰キャパも超えると困ったことになる。
過剰分のエネルギーは体内から排出することも出来ないから体温や刺激感知能力などの色々な機能を高め過ぎてしまい、
所謂、媚薬を投与されたような症状を引き起こしてしまう。
症状名としては、『発情』だ。
もちろん購入時に注意されるし、この施設やお店の中でカプセル以上の投与はない。
あるとしたらご主人様候補とのマッチングの時のふれあいで少し食べさせて貰う程度。
お店でのふれ合いで発情なんてさせたら即出禁。
それでも購入後にもしこの症状が出たらご主人様が発散させてあげるか、施設に連れていって抑制処置で3日ほど預ける事になる。
うん、絶対にそうはなりたくない。
あと、私の新たな体、 " type Я ” はこの愛玩人形の中で最も稀少なタイプ。
自我の発達や自己知能などが他より群を抜いており、より人間に近い感覚を持っている、というのも1つの特徴なのだが(まあこれは元々自我のある私には関係ない事だけど)
もうひとつ。
このタイプにだけ付いている機能。
…なんと人間との交配で妊娠、出産できるのだ。
意味不明すぎるーーーーー!!!
その話を一通り聞いて私は必死に頼んだ。
もちろん自分がこことは違う所から来たと言うのも必死に、必死過ぎて引かれるくらい説明した。
そしてなんとか!
なんとか私の人格が入り込んだことの解明にも協力する事を餌に説得して、私は愛玩人形として提供される側ではなく提供する側のお手伝いをするという立場を得ることに成功した!!!!
私はここで安心安全な、誰にも左右されない揺るぎない自分の場所を築いてみせる!
もう誰かに人生預ける事も!
誰かに裏切られるような思いも!
絶っっっっっ対に し な い ! ! ! !