type Я
次に気がついて真っ先に飛び込んできたのはグレーの天井。
体を起こすと簡素なベッドの上だった。
1枚布の7部丈袖のワンピースを着せられていた。
体を触ると意識を失う前に確認した女性の凸凹のない薄く細い体だった。
部屋にはベッドの近くに木製の丸テーブルと、それと同じ素材の小さめの椅子があるだけで、あとは壁に埋まるようにある重そうな扉しか見当たらなかった。
ベッドを降りたら数歩で扉まで行けそうな小さな部屋で飾り気も鏡すらなくて自分を客観的に映して見れるものは無さそうだ。
現状がいまだに理解もできずため息が出た。
意識を失う前よりは気持ちは落ち着いているが…。
そしてなにもできず何もないと分かるとこうなった現状までの事を遡るように考え出してしまい、家を飛び出した原因にまで考えが戻ってしまって、酷く暗く重い気持ちになった。
自分にはやはり男性と愛を育むと言った普通の女性のようなことは無理なのだと
突きつけられたようだった。
鬱屈した気持ちのまま俯いていると、扉がプシュッという音と共に開いたのが分かった。
暗い気持ちのままそちらを見やると先程声をかけてきた方ではなく、もう少し奥にいた金髪碧眼の男性が入ってきた所だった。
「やあ、目が覚めたかい?
すまないね、君がショートしそうになっていたから強制的に回路を一度止めたんだ。
ここがどこで、自分が誰だか分かるかい?」
「………私は真名 佳織…です。ここがどこかは…分かりません。
日本…ですよね?それとも海外の病院に運ばれたんですか?」
日本語ではない時点で日本以外の病院の可能性は高い。
体が自分のものではないと言うことはもしかして移植、とか…
そこまで考えて恐ろしくて体に悪寒が走り大きく震えてしまった。
そんな佳織を目の前の男は少し険しい顔をしながら見つめている。
少し長めの金髪を後ろに綺麗に撫で付けた清潔感のある服装の男だ。
シルクのような柔らかく光沢のある素材の袖感がゆったりとしたクリーム色のシャツに、体のラインに沿った黒とグレーが切り替え部で色味を分けているベストと同色のタイトなスラックスを履いている。
顔も男性的な色気の滲む整った顔で、服装も相まってとても小洒落た感じだ。
佳織は男の様子を伺い見て、思わずそのまま少し見とれてしまった。
紳士用雑誌のモデルだと言われても疑わない位の要望だ。
「…マナ。ここは日本という所じゃない。
ここは貴人用の、俗称で言うなら愛玩用の人形を作っている施設で、
僕はその人形達を主人となる貴人と出会わせる場所を管理している。
君は " type Я ” というその中でも特別な仕様ので、他のタイプとは違って自由意志で成長できるタイプなんだ。
それでも最初は自分が " type Я ” だと言うこと、ここが君たちの生まれた場所だということしか認識してないし、初めから名前を持っていたり自我を持っていたりは…しない、はずなんだが…。
君は一体誰なんだい?」
「…わ…私は…日本で生まれ育って…一般家庭の育ちの…普通の…女、で…真名 佳織も生まれた時からずっとこの名前で…両親が…付けて…くれた…
あの時台風の中外に飛び出して…事故に………
…愛玩…?
ここは日本ではないんですか…?
私…もしかして死んだの……?」
言われた事が全く分からなくて、理解するのを頭も心も拒んでて、
心、辛いとも苦しいとも思うのに、人形だと言われる。
これが人形の感じるものなんだろうか。
騙そうと言っているだけなのでは…?
でも実際にこれは自分の体には到底見えなくて…
何が現実なのか分からなくて視界が回っている気がする。
そんな私にゆっくりと近づいてきた金髪の美形が私の目を手で多い首の後ろに何かを当てた。
その途端急激に意識が落ちていく。
「マナ、今日はここまでだ。また明日話そう。」
その一言が聞き取れるかどうかの所で
私の意識はまた真っ暗な中に落ちていった。