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はじめてのレンタル

短めです




レンタルの話をオーナーからされてから2週間。

ついに今日私は初レンタルされる。

はじめてだから様子見も兼ねて、という事でしばらくは最大でも1泊まで、翌日の昼にはお店に送り届ける、という事になった。

私のはじめてのレンタルに誰が候補に上がってたのかは教えて貰えなかったが希望者が予想より多くてより抜くのが大変だったと疲れた笑みで言われた。

ヤージュはレンタルにあまりいい気持ちを持っていないのかその話になると途端に口数が少なくなる。

少ししかめっ面なのは元々だけれど。




そんな今までと違う今日の私は特に変わることなく、いつもと同じ起床、身支度、朝のカプセル摂取、それからお店にいない間の事を考えての点検、補充指示、あとは嫌だとごねる今日も柔らかい赤毛がいい触り心地の type М 205 を宥めてオーナーの元に向かった。





「オーナーおはようございます」


オーナーの仕事部屋に個体認証を済ませて入室する。

オーナーは手にしていた書類を机に置いて笑顔で顔を上げた。


「おはようマナ、今日も可愛いね。

時間もまだ余裕があるから少しそっちで座っててくれるかい?」


指さされた応接用ソファーに言われた通り腰掛け、オーナーの様子を見る。今日も優雅に貴族だ。でも心做し少し疲れて見える。

心配で様子を伺っているとあからさまに見すぎていたせいか目線を上げたオーナーが「ん?」と小首を傾げてきた。


「あ、いえ、何だか疲れて見えたので大丈夫かなと…」


素直に理由を告げると、オーナーはああ、といって少し困ったように笑った。

「大したことじゃないんだが、昨日ヤージュとちょっとね。

でももう大丈夫だからマナは気にしなくて大丈夫だ。

はじめてのレンタルに行く日に心配かけてごめんね」


力なく笑うオーナーは大丈夫そうには見えなかったがそれ以上聞いて欲しくなさそうな雰囲気に口を噤んで頷きだけで返事をした。

それから数分待つとオーナーが1枚の資料を持って向かいに座った。

手に持っていた資料を私に渡して今日のことを教えてくれる。


「今日のマナのご主人様を誰にするか悩んだんだけどね、1番はじめから希望してくれてたシーザー様にしたよ。」

正直高確率でそうなると思っていたので特に驚きはなかった。特に口も挟まず目を見て頷く事で是と伝える。


「今日は初日だから泊まりはなし。20時までに返してもらう。大丈夫だとは思うがマナも時間には気をつけてあげて。タイムオーバーもお客様にペナルティがあるからね。」

「分かりました」

「うん、まあしっかり者のマナだ。大丈夫だと思ってるよ。

貸し出し中の規約はそこに書いてあるとおり。マナのリボンに読み込んでおいて。レンタル時は情報制限の関係でパネル操作は使えなくなるからね、読み込んでおけば規約違反の時にリボンから自動で違反アラームが鳴るよ。

マナが嫌だと思う事をさせられそうになった時はリボンにそう伝えて。」

「分かりました」

その辺は1番大事な所だと思うので返事をしたあとしっかり目を通し、リボンに読み込ませてからオーナーに返却した。


「もし体感で規約を増やした方が良さそうならリボンから随時でもいいし帰ってきた時でもいい、直ぐに教えてね。」

「はい」

オーナーの気遣いが嬉しくて笑顔で返事をする。

私がさほど緊張していないのが分かったのか、少し力を抜いたオーナーが、それじゃあ行こうか、と立ち上がり手を引いて1階の正面入口まで連れていってくれる。



初めての1階。




初めての外の世界。




さっきまでは平常心だった私の核が人間の心臓のように大きく鼓動しているような錯覚に陥る。

事実大きく鼓動しているんだろう。手を当てると普段よりも数倍早い振動が手に伝わってくる。本当に心臓みたいだ。いや、核を中心にこうしてエネルギーを巡らせているんだから心臓と言っても間違いではないのかもしれない。




正面入口の大きな扉が開くとそこには落ち着かない様子のシーザー様がいた。

扉から出てきた私たちに気がつくと私に目を止めて満面の笑顔を向けてくれる。耳の上部と眦が少し赤く見える。動きも心持ちギクシャクして見えるからもしかしたら彼も緊張しているのかもしれない。



「シーザー様、お待たせ致しました。

本日はマナをくれぐれも宜しくお願い致します」

「もちろんです。私を今日選んで頂いたことに感謝致します。」



オーナーが少し凄みも感じる完璧な笑顔で挨拶をすると、シーザー様もオーナーに体ごと向き直り、真剣に返事を返す。

その様子を確認してからこちらに顔を向けたオーナーが柔らかい笑顔で「頑張っておいで」と背中に手を当てシーザー様の方に促し送り出してくれた。

「シーザー様、今日はレンタル頂きありがとうございます!

本日は時間まで宜しくお願いします」

私は目の前の美丈夫に精一杯の笑顔を向けた。







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