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   ([後]編-51)

 思慮に思慮を重ねる、シャロンちゃん。その眉間には、徐々に皺が寄って来ている。

 そんなシャロンちゃんの様子に、思わず、俺は苦笑してしまった。


「ごめん、ごめん」

「?」


 キョトン、とした顔になるシャロンちゃん。

 なかなかに年相応で、可愛らしい表情と仕種になっている。

 そんなシャロンちゃんに微笑みかけながら、俺は、話の意図を伝える事にする。


「あの子たちが同行することになった場合の移動方法は考えてあるから、大丈夫」

「そうなんですか?」

「うん。ただ、まあ、これまた大っぴらには言えない、という事を言いたかっただけだから」

「ああ...成る程。冒険者としての隠し技、ですか」

「まあ、そんなところ、かな」

「そうですか...では」

「うん。君たちと一緒にあの子たちも入植者として移住する、という選択肢はあり」

「ただし、行き先や移動方法は公に出来ない、という事ですね?」

「その通り」

「分かりました。であれば...」


 シャロンちゃんの、灰色の頭脳が唸る。といった感じの雰囲気に、なった。


 頼もしくて可愛らしい我らが参謀さんの黙考を邪魔しないよう、俺は、口を噤み自身の気配を抑える。

 そして。少し離れた場所で、和やかにお菓子というよりは軽食といった趣が強い腹持ちの良さそうな食べ物を堪能している子供たちへと、そっと視線を向けた。

 メリッサちゃんとナタリアちゃんが、それぞれに幼い男の子と小さい女の子の世話を焼いていて、その傍にいる一番年長でいつもは世話を焼く側であったであろう女の子も、人心地付いたのか笑顔が垣間見える。

 ただ、やはり、疲れが溜まっているのか、最年長の女の子は顔色も良くなく食もあまり進んでいないようだった。

 大丈夫だろうか...少し、心配だな。


 ちらりとシャロンちゃんを見る、と目があった。


「考えは、纏まったかい?」

「はい。私に、任せてもらえますか?」


 何やら決意を(たた)えた瞳で、ニッコリと微笑むシャロンちゃん。

 うん。いい顔だ。


「そうだね。選択肢と条件は、理解しているね?」

「はい。バッチリです」

「ははははは。そうか」

「はい。もう少し、色々な人とお話をして、意見交換したり理解を得たりする必要はありますけど、何とかなると思います」

「ほお、流石だね」

「も~、茶化さないで下さい」

「いやいや。頼りにしてるよ、参謀殿」

「...」

「まあ、冗談はさておき。シャロンちゃんが思う通りに、進めてくれれば良いよ」

「はい」

「決まった後のことは、俺に任せれば大丈夫」

「そうですね。アル様より、年齢も近くて境遇が似ている私の方が、たぶん、警戒もされないでしょうから...」

「...」

「ありがとうございます、アル様」


 眩しい程の笑顔でお礼を言ってから、シャロンちゃんは、そそくさと子供たちの輪の中へと戻って行った。

 元気そうで何より、だ。

 さて。シャロンちゃんが結論をだすまで、まだ少し時間が必要なようだが、俺は今何をすべきだろうか...。



 * * * * *



 日が傾いて辺りが少し薄暗くなり始める時間帯になると、シェフィールドの街でも生活感溢れる下町風情が濃厚なこの地区では、少し(せわ)しない雰囲気となる。

 そんな周囲の喧騒以上に、ここ、元は孤児院があった場所の横にある教会の中は、(にわか)に慌ただしくなっていた。


「リネットちゃん、大丈夫?」

「は、はい...」

「アル様。リネットちゃんを、お願いできますか?」

「ああ、任せておけ」

「メリッサとナタリアは、リネットちゃんと一緒に居てあげて」

「分かった」

「わ、私は...」

「ジョージ様は、用事があるんですよね?」

「おう、すまないな。明日の朝、また、ここに来るよ」

「分かりました。差し入れを、期待しておきます!」

「おう、任せてくれ」

「シャ、シャロンちゃん!」

「ん?」

「シャロンちゃん、私も、こっちで手伝う」

「ナタリア、宿の方が良くない?」

「こっちで、手伝う」

「そう...分かった。じゃあ、お願い」

「うん」

「シャロン、私も残ろうか?」

「いいえ。メリッサは、リネットちゃんに付いていてあげて欲しいの」

「分かった。任せて!」

「よろしく」


 シャロンちゃんが、テキパキと、役割分担を決めていく。


 孤児院の子供たちの中では一番年長の女の子であるリネットちゃんは、疲労が溜まっていたのか少し具合が悪くなったので、俺が宿まで連れて行き、メリッサちゃんが付き添って快適な宿屋で静養して貰う。

 幼い子供たち二人は、本人たちの希望もあり、今晩は住環境を整えた教会で過ごす事となったので、シャロンちゃんとナタリアちゃんが残ってその世話をする。


 そして。

 シャロンちゃんは、夕方になると教会に顔を出すことが多いらしい此処の関係者、ご近所の奥様方を筆頭とした支援者の人たちや最近まで孤児院で生活していた男の子たち、などなどと今後についての話し合いと調整を行うのだ、と張り切っている。


 俺は、体調不良で少し朦朧としているが遠慮気味なリネットちゃんをおんぶして、立ち上がる。

 よっこらせ、っと。


「じゃあ、シャロンちゃん。最終の調整は、任せたよ」

「はい。明日の朝には、良い知らせを伝えられるように、頑張ります」


 ショートカットにした癖のあるブラウンの髪を揺らしながら焦げ茶色の澄んだ瞳をキラキラさせたシャロンちゃんに、俺は、ニカッと笑って軽く片手で敬礼してから、宿屋へと向かって歩きだすのだった。


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