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   ([後]編-50)

 交易都市として栄えているこの街は、やはり、行き交う人も多く活気があって賑やかだ。


 ただし。よくよく見ると、ベッドフォード公国に入ってから常に感じてきた、行政機関や役人たちの影が薄い、という印象はこの街でも健在だった。

 民間には確かに活気があると感じられるのだが、何処となく危うい、統制が取れず規制のタガが外れて崩壊する寸前の異様で妙な緊張感が漂っている、ような気がする。


 そんなシェフィールドの街並みを、俺は、楽しそうな笑みがこぼれる少女三人と連れ立って歩いていた。


 賑やかな少女たち三人のそれぞれの装いは、朝に宿をでた時から全員が様変わりし、当初の村娘そのものな感じから間違いなく旅行中の町娘に見える衣装へと変化していた。

 ここまでに立ち寄った何軒かの庶民向けの服飾店などで、購入した(きわ)から次々とお着替えをしていった、その成果が存分に発揮されているのだ。


 ちなみに。現在進行形での彼女たちの関心は、旅でも使える生活用品へと移っており、庶民向けの日用雑貨を取り扱う店舗を往来から覗き込んでは興味を引く物品があれば店内に雪崩れ込む、といった行動を先程から繰り返していたりする。

 まあ、当初よりは買い物に慣れてきたが微妙に遠慮はしてたりするので、彼女たちの様子を適度に窺って欲しいが多少高額で躊躇している様子の物があれば強引に会計を済ませてしまうなど、何やかやで俺も関与している訳だが...。


「アル様。買い物を兼ねた街の見学は、もう、この程度で良いんじゃないですか?」

「ええ~、まだまだこの先にも、お店はあるよ」

「...」

「まあ、そろそろお昼だから、日用品の買い物は一旦ここまでとしようか」

「「「はぁ~い」」」


 シャロンちゃんは冷静に、当初の目的をキチンと念頭に置いた言動をとる。

 う~ん、ブレないねぇ。


「よし!」

「ん?」

「じゃあ、その先を右に曲がって、だな...」

「おいおい、ジョージさん。勝手に決めない」

「まあまあ、良いじゃないか。旨い店を、紹介するぜ?」


 うん。この人も、ブレないね。

 当然、俺も、ジョージ氏への扱いは不変を貫く所存だ。


「あ~、はいはい。ジョージさんの分は自腹ですから、身の丈に合ったお店を選んで下さいね」

「ちぇっ。ケチ臭い事を言うもんじゃねえよ」

「そうですね。じゃあ、全てジョージさんの奢りで!」

「いやいや、いや。ここは、若者が可愛い女の子たちに格好良いところを見せる、って場面じゃないか?」

「そうですね。人生経験が無駄に積み上がって年老いた男性が、精一杯に頑張るべきポイントですね」

「おいおい。俺は、そんな歳じゃないぞ?」

「はいはい。そう思っているのは、本人だけですって」

「なんだとぉ、こら若造!」

「無理しない方が良いですよ、おじさん」


 ジョージ氏のこめかみに、ピキッと筋が入る。

 ありゃ、何か地雷踏んだか。と焦りつつも、俺は、不敵な笑いを維持。


 三人娘は、楽しげに苦笑している。


「はぁ~い。仲が良いのは分かりましたから、人通りのど真ん中で立ち止まってないで、先に進みましょうね?」

「「...」」


 ニコニコ笑顔のシャロンちゃんに軽くあしらわれ、俺とジョージ氏は、言葉でのじゃれ合いを中断。お互いに、軽く肩を竦める。

 シャロンちゃんは、そんな男二人の反応をスルーし、真面目な顔になって場を仕切る。


「アル様。食事の後は、この街の孤児院を訪問するのですよね?」

「ああ」

「ジョージ様。そちらの食堂に行っても、遠回りにならないですか?」

「おお、勿論、バッチリだぜ」

「そうですか。では、ジョージ様、先導をお願いします」

「よっしゃ、任せておけ!」

「...」


 いや、まあ、確かに。俺は、この街は初めてだけど、ねえ。

 シャロンちゃんの俺に対する扱いが、何気に酷い、ような気がしてきたのだが...。



 * * * * *



 商店や飲食店が並ぶ街の繁華街とは様相が異なる、生活感溢れる下町風情が濃厚な地区。


 そんな場所に、この街で唯一の公的な孤児院があった、らしい。

 そう。過去形で、伝聞。

 俺たちの目の前には、焼け落ちて原形を留めていない家屋の残骸と、一部は焼失したが大部分が焼け残ったらしい隣接する教会があった。


「ありゃ、まあ」

「これは、酷いですね」

「う~ん。この感じだと、火事が起きたのはだいぶ前だと思うんだけど...」


 ここまで先導してきたジョージ氏が、スタスタと、焼けた元孤児院らしい建物の横に建つ一部が煤けた教会の方へと向かう。

 女の子三人もその後に続き、俺も、焼け跡を少し観察してからその後へと続いた。


「こんにちわ~」

「「「お邪魔しま~す」」」

「...」


 一応は声を掛けたものの遠慮なくズンズンと教会の建屋の中に入って行く、ジョージ氏。

 俺も、遠慮がちな態度で恐る恐る入る三人娘に続いて、薄暗くて控えめな雰囲気が漂う教会の建物の中へと入る。


 そこには、少し怯えの混じった暗い表情でこちらを眺める、かなり痩せ衰えて元気の欠片もない、五歳くらいの幼い男の子一人と十歳前後の女の子二人がいたのだった。


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