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50.([前]編-50)

 ベッドフォード公国では二番目の規模を誇り交通の要所としても栄える街、シェフィールド。

 俺たちは、そんな街の中でもそこそこ高級な宿屋に、三部屋へと分かれて宿泊した。


 ジョージ氏から最初の真面目な提案となった某宿屋は、残念ながら、宿にも近所にも風呂がなかったので、俺が渋った。

 しかし。この規模の街であっても安価な宿に風呂はなく、温泉町でもないこの街に公衆浴場が潤沢にある訳もないため、条件に合う宿屋がなかなか見つからなかった。

 それなりに格のある宿でなければ風呂付きでないと最終的には分かったので、紆余曲折の末、この宿への宿泊と相成ったのだった。


 単純に俺が風呂に入りたかった、といった事情もあるのだが、女の子たちを少しばかり磨きたい、といった俺なりの深謀遠慮もあったりする。

 この街で買い物をして、彼女たちの外套や靴などの旅装を新調してから衣類や櫛など小物類も揃えようと考えていたので、その前にサッパリとさせてあげたい、と考えての行動なのだ。


 ちなみに。部屋割りは、当然、男女別になるのだが、俺がジョージ氏との同室を回避したので、三室となった。同部屋の相手を警戒しながら寝るのは、非常に疲れるので...いや、ホントに。

 我が儘だと思われるかもしれないが、ここは俺にとって切実に譲れないポイントなのだ。


 という訳で。

 俺と三人娘は、風呂でサッパリして美味しい食事をした後にふかふかのベッドで安眠した上に健康的な朝食もしっかり取ったので、元気一杯、街の散策へと出掛ける事になった。

 のだが。何故か、オッサンこと自称ジョージ氏も、付いて来ていた。


「ジョージさんは、もう、別行動で良いんじゃないですか?」

「いやいや。アル殿は、この街に不慣れだろ?」

「大丈夫ですよ。これでも、冒険者としての生活は長いので、見知らぬ街でも要領よく対応が出来る方ですから」

「まあまあ、遠慮は要らないよ。良い宿に、タダで泊めて貰ったからなぁ」

「あれは、ジョージさんが、ごねるからでしょうが!」

「いやぁ、風呂付きでないと駄目だなんて、アル殿は御育ちが良いんだねぇ」

「だ、か、ら。理由は、説明しましたよね?」

「あっれぇ~、そうだったっけかなぁ」


 ワザとらしく惚ける、ジョージ氏。

 少しムキになってしまった感のある俺は、ドウドウと自分で自分を宥める。

 そんな俺とジョージ氏の様子を横で見ていた女の子三人は、半笑いの困惑した表情で、お互いに顔を見合わせている。


 しかし。食えないオッサン、だ。

 相手をすると、俺が大変疲れる。のだが、使える人材であるのは確かなので、割り切って活用するのも一つの選択肢、なんだよなぁ。

 俺には色々と秘密はあるが、疚しいところがある訳ではない、ので...うん、大丈夫。たぶん。


 ニヤニヤ笑うジョージ氏と、眉間に皺寄せ少しばかり考え込んだ俺。

 そんな膠着状態を見たシャロンちゃんが、仕方ないなと言わんばかりの表情で、口を開いた。


「アル様。この後の予定は?」

「ああ。君たちの旅に必要な物品を購入して、この街を少しばかり見学しておきたい、と考えている」

「あの、私たちは、このままで十分ですよ。ねえ、みんな?」

「うん、問題ないよね」

「...問題ないです」

「いやいや。この先、それなりに遠くまで旅をするなら、色々と必要になるよ」

「そうなんですか?」

「そう、そう。それに、旅しない場合でも、ある程度は自分の物を揃えておかないとね」

「えっと...旅をしない場合、ですか?」


 シャロンちゃんが、不審そうな表情になって考え込む。

 俺の視界の隅では、オッサンが、興味深そうな顔をして見ている。が、そちらは無視。

 俺は、三人の少女たちに笑顔を向けてから、シャロンちゃんの問いに答える。


「そう。それも、選択肢の一つ」

「選択肢、ですか...」

「そうだよ。自分の人生は、自分で出来るだけ納得できるよう選ぶべきだ、と俺は思うんだ」

「ま、まあ。選べるに越したことはない、ですけど...」

「大人が子供にしてあげられるのは、選択肢を用意するまで、だからねぇ」

「大人って...」

「ん?」


 俺は、胸を張り、立派な大人を主張してみる。

 いや、まあ、一応、成人しているからね、俺。それに、中身は...。

 シャロンちゃんが、残念な子を見るような目で、俺を見る。


「まあ、いいですけど。そうですね、この街での選択肢、となると...」

「...」

「この街の人の養女になるか、この街の孤児院でお世話になるか、くらいでしょうか」

「ま、まあ、そうなるね」

「だから、この街の見学、ですか?」

「あ、ああ」

「そして、その前に、自分をよりよく見せるため身嗜みを整える、ですね?」

「う、うん、まあ」

「よく分かりました。色々と考えてくれて、ありがとうございます」

「いや、まあ」

「確かに。生まれ育ったあの村にいつでも戻れる場所が選択肢の中にあったら、メリッサとナタリアも、色々と考えられて良いかもしれませんね」

「ま、まあ...」

「では、お買い物に行きましょうか」

「そ、そうだね。それじゃあ、準備は...」

「ただし」

「ん?」

「私は、旅に必要な物だけ、で良いです。アル様と、一緒に行きますから」

「え、えっと」

「問題ないですよね?」

「い、いや。三人でお揃い、とかしない?」

「しませんよ。私たち、そんなにお子様じゃないもの」

「そ、そうなの?」

「あっ、でも、そうですね。何か小物一つくらいは、お揃いにしても良いかも...」


 ニコニコとご機嫌になった、シャロンちゃん。

 メリッサちゃんとナタリアちゃんも、ホッとしたような表情となっている。


 シャロンちゃんが、ニコリと微笑んで、何故だかジョージ氏の方を見る。


「では、ジョージ様。案内をお願いしますね」

「おう。任せなさい!」


 あれれ?


 結局、今日もまた、昨日までと同様に、ジョージ氏を先頭に横並びの三人娘が続いて最後尾が俺という定型の形態の集団となって、シェフィールドの街を歩くことになるのだった。


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