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49.

 目の前には、久方ぶりの、賑やかな都会の街並みが広がっていた。

 そして。俺の前には、驚きと好奇心で目を見開き周囲を忙しなく見回す、三人の少女たち。


 土砂災害に見舞われ困窮し救済を求めてきた農村を出発してから、約一日半。

 お隣のラトランド公国からこのベッドフォード公国の首都であるランカスターの街へと続く主要街道を、俺たちは、黙々と歩いて来た。

 昨日の夜は、夜遅くに着いた小規模な宿場町で慌ただしく空きのあった適当な宿屋へと滑り込み、遅い晩飯を掻き込んでから、すぐに就寝。

 そして今日は、早朝に起床し軽い朝食を取ると直ぐに出発して、その後は唯ひたすらに黙々と街道を歩いて来た。

 勿論、途中で適宜、ある程度の休憩を何度か挟んでの移動ではあったが、幼い少女たちにとっては結構な重労働だったのだろうと思う。

 実際、一番体力がないシャロンちゃんには相当に厳しかったようで、一時間ほど前からこの街が見える場所に至るまでは、俺が背負って移動して来たのだ。


 そんな疲労困憊から多少復帰したばかりのシャロンちゃんも含めて、長閑な農村育ちの少女たち三人は、初めて見る都会の景色や大きな建物と賑やかな人混みを、おめめキラキラ状態で食い入る様に見ていた。

 ちなみに。先頭を歩く中年オヤジさんは、少女たちのそんな反応には見慣れた様子で、軽く肩を竦めて少し顔を顰めた後は空気と化して静かに路傍に(たたず)んでいる。

 そう。自称ジョージ氏は、何やかんやと実はお人好しで、気遣いの出来る御仁なのだった。



 * * * * *



 職業斡旋を生業(なりわい)とし公国内各地に旅することが多くこの街にも馴染みのあるジョージ氏を先頭に、互いに手を繋ぎ横一列となった幼い少女三人を挟んで、最後尾を俺が歩く。

 すっかり基本フォーメーションとして定着した感のある隊列で一団となり、俺たちは、本日の宿泊を予定している街の中を進んで行く。


 中央を歩くシャロンちゃんは、癖のあるブラウンの髪をショートカットにした、焦げ茶色の澄んだ瞳が印象的な女の子。

 理知的な凛とした雰囲気で大人びて見えるが、後ろ姿だと十歳になるかならず位の幼げな感じがする、小柄で華奢で少し病弱な十三歳の少女だ。


 その右を歩くのは、シャロンちゃんの親友でもあるメリッサちゃん、十三歳。

 くすんだ感じの金髪を後ろで束ねた、明るく元気でグループの中心的な立ち位置にいそうな感じのする緑の瞳がキラキラした女の子。

 両親が二人とも、少し前の災害で村の為にと危険な場所での無理な作業に従事した結果として犠牲となり亡くなっているので、今は天涯孤独となってしまった少女だ。


 そして。もう一人の女の子は、ナタリアちゃん。

 波打つ赤毛を肩まで伸ばした茶色い瞳の、顔に少しそばかすが目立つのと年齢の割りに生育が良いこともあって男の子に弄られ困っていそうな、大人しくて地味な感じの女の子。

 数年前になるがメリッサちゃんと同様に村人だった両親を亡くしている孤児で、まだ十二歳だがもうすぐ十三歳になる少女だ。


 そんな幼い女の子たち三人をスルーして、振り返ったジョージ氏が、俺にニヤリと笑う。


「アル殿。あの宿で、良いかい?」

「...」


 更にニヤニヤ笑いを深めたオッサンが示すのは、高級宿が併設された娼館。

 何と言うかそれらしい風情も十二分に醸し出されていて、見間違えようがない建物だ。

 おい、こらっ。


「あれは、女の子を連れて泊まるような宿じゃないだろうが...」

「ああ、そうだな。女性が待っている宿、だもんな。興味ないのかい?」

「...」

「無理しなくても、良いんだぞ?」

「特に興味はない」

「あっ。もしかして、アル殿、実はあっち系の趣味な人だったのか?」

「あっちって...」

「俺は、ノーマルだから、駄目だぞ?」

「...」

「俺は良い男だけど、女性にしか興味が無いからなぁ。申し訳ない」

「はあ?」

「アル殿は、女性より男が好き、っていう特殊な嗜好の人なんだろ?」

「違うわ!」

「本当かぁ?」

「当たり前だ。俺は、女の子が、大好きなんだ!」

「なんだ、何だ、そうなんだ。じゃあ、遠慮せず、あの宿に行こうぜ」

「違うだろうが!」


 いったい何を考えているのやら、ジョージ氏は。


 女の子三人は皆、微妙な顔して黙っている。

 ...と、そう言えば。

 今回は問答無用で介入してしまったんだけど、実はこの道を希望していた、って子は一人も居なかったんだよな?


「アル様」

「何だい、シャロンちゃん」


 呆れた表情のシャロンちゃんが、俺を見詰める。

 チラリと横目で見ると、ジョージ氏は苦笑し、メリッサちゃんとナタリアちゃんは更に微妙な表情へとなっていた。


「今、変なこと、考えてたでしょ?」

「い、いや」

「私たち三人の中には誰一人、あの手のお店で働きたいなどと思ってた子はいませんからね」

「ま、まあ。そうだよね」

「そうですよ。ちゃんと、みんな、アル様には感謝しているんですから」

「そ、そうなんだ」

「そうなんです。だから、しっかりと、自覚して下さいね?」

「お、おう。分かったよ」


 両手を腰にあて胸を反らし、お説教ポーズをとったシャロンちゃんが、ニコリと笑う。

 メリッサちゃんはニコニコと、ナタリアちゃんは真面目な顔で、何度も頷いている。

 ジョージ氏は、相変わらずニヤニヤ笑いを浮かべながら、そんな俺たちを眺めていた。


「で、アル殿」

「ん?」

「今日の宿は、どうするね?」

「う~ん、そうだなぁ。食事の美味しい宿、が良いかなぁ」

「そうよね、ご飯は大事」

「美味しい御飯かぁ」

「お腹空いた...」

「そりゃ、まあ、大きな街だから費用に糸目を付けなけりゃ、いくらでもあるんだが...」

「いやいや。豪商の豪遊じゃないんだから、節度ある金額に決まっているでしょうが」

「「「...」」」

「そりゃ、残念。アル殿の奢りで、久し振りに贅沢が出来るかと思ったのだがなぁ」

「んな訳、ないでしょうが。自分の分は、自分で払って下さい」

「チッ。駄目か」

「当たり前でしょうが。ああ、君たちの分は、俺が負担するから心配いらないよ」

「「「ありがとうございます!」」」

「酷いな、アル殿。差別はいけないよ」

「差別じゃなくて、区別です」

「へいへい、仕方がないねぇ。じゃ、いつもの宿にするかな...」


 先頭のジョージ氏と三人娘と俺との並びは同じだが距離が少し縮まった一団となって、俺たちは、夕暮れの街中を、のんびりと歩いて行くのだった。


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