表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
88/109

   ([後]編-46)

 張りつめた空気が漂う村長さん宅の食堂で、俺は、村長さん一家の様子を眺めながら、何を如何すべきかを考える。


 ここが、ローズベリー伯爵領であれば、俺は、悩むことなく問答無用で全力を出し、俺の魔法能力を駆使して力業で原状復帰させた上で、彼らの抱える問題を聞き出すだろう。

 プランタジネット王国の他領であれば、ご隠居様や剛腕執事であるリチャードさんに相談した上で根回しをして貰い、やはり、俺の魔法能力を駆使して力業で原状復帰させた上で、彼らの抱える問題を聞き出すと思う。

 ただ。問題は、ここが俺にとってはアウェイとなるベッドフォード公国の農村である、という現実だ。


 あ~、まどろっこしい、もどかしい、じれったい、焦れったい、はがゆい、歯痒い、イライラする。

 プランタジネット王国の辺境伯となったことに後悔はないが、手の届かない所が痒いのと同じ感じで、現状は座りが悪く落ち着かない。面倒だ。


 という事で。

 俺は、強硬手段を取ることにした。決定した。

 うん。俺が一人でやったと、誰も知らなければ良いんだ。そう、何も見せなきゃ良い。


「シャロンちゃん?」

「はい」

「お兄さんに、任せなさい!」

「へ?」

「君の抱える問題は、全て、俺が解決してあげる」

「...」

「だから。そんな悲壮な顔は、しない」

「...」

「子供は、子供らしく、未来に夢と希望を持ってオメメキラキラでお願いします」

「ええ~」

「うん。まずは、そんな感じで良し!」

「...」

「シャロンちゃんは、十三歳、だったよね?」

「はい」

「子供は大人に頼りなさい!」

「...アル様は、何歳ですか?」

「ん?」

「アル様も、大人ではないのでは?」

「いや、大人。十五歳は、成人済みだから、大人!」

「ええ~」

「ジェイコブさん。この地方も、十五歳で成人ですよね?」

「はい、左様です」

「ほら、問題なし。と、いうことで」

「「...」」

「この後の対応と契約内容について、ご相談しましょうかね」


 俺は、うだうだ悩むのは止めて、正面突破を図ることにした。


 土砂で埋まっている農地は全て、土砂と瓦礫を撤去して土壌を農耕に適した状態まで改善。

 この村にある主要な農地のほぼ中央を突っ切って流れる水量も豊富な河川は、護岸工事を行って今後の氾濫を防止。

 その河川の上流から村の周辺部にある農地へ水を引く簡易的な用水路は、取水部の土砂を撤去し再整備。

 河川が山間部を流れている箇所で見受けられた崖崩れとその周囲にある斜面は、可能な限り原状復帰。


 以上の五項目を実行した上で、村人たちにはこの中の一つめと三つめのみ、完了後に伝える。

 今後は、山の斜面で樹木を伐採する際には禿山が出来ないよう規制して監視体制を構築する、と誓約させる。

 といった対処策を実行する、と決めた。


 課題は、どうやって、俺がこれらを実行する姿を誰にも見せないか、だな。

 う~ん。どうすれば、良いのかな?

 俺は、にっこりと微笑んで、シャロンちゃんの顔を見る。


 そう。シャロンちゃん、だ。

 ジェイコブさんでも問題ない、というか本来は彼と相談すべきだが、俺の勘がそう(ささや)いていた。

 俺の交渉相手は、理知的な面差しが印象的な、シャロンちゃん。

 ジェイコブさんと村長さんには、村人たちへの説明や調整と指導や監督とその他諸々の実働対応をお任せする。のだが、司令塔はシャロンちゃん。

 少ない時間ではあったが、今日一日というか半日、この家族をずっと見ていた俺は、そうするのが一番良いと確信していた。


「シャロンちゃん」

「はい」

「...」

「ジェイコブさんに今日案内して貰った農地や用水路の土砂は、全て撤去しよう」

「「ありがとうございます!」」

「ただし、条件がある」

「「...」」

「ああ、報酬や経費は、心配しなくて良いよ」

「ありがとうございます」

「えっ...」

「具体的な内容は、後で、現状で用意できている範囲内に収める形で調整しよう」

「分かりました」

「それよりも、だ」

「はい」

「俺は、依頼を受けた後に、俺がその準備作業や実際の作業を実行している姿や様子を、見られたくない」

「...」

「企業秘密、という奴だな」

「なるほど」

「それと。いつでもどこでも同じことが出来る、などとは思わないで欲しい」

「はい」

「この村でご要望の作業を実行できるのは、明日一日だけ、だ」

「分かりました」


 力強く頷く、シャロンちゃん。

 そして。即座に、真剣な表情で考え込んだ。俺が述べた条件や村の現状を慎重に精査して整理し、具体的な実現策の検討を始めたようだ。

 ジェイコブさんは、深い思考に沈み込むシャロンちゃんに、頼もしくて可愛らしい姪っ子と慈しむような視線を、唯々黙って向けている。


 どうやら、俺の判断は間違っていなかったようだ。

 俺は、ジェイコブさんと一緒に、シャロンちゃんの思考に結論が出るのを、静かに待つのだった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ