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44.([前]編-44)

 現在は諸事情により少し寂れている、ラトランド公国とベッドフォード公国の首都を最短距離で結ぶ主要街道。

 その街道沿いの、ラトランド公国との国境の町から首都であるランカスターの街へと向かう際に最初の宿場町となる、中規模な農村。

 そんな村で一番立派な宿屋の一番豪華な部屋の贅沢なベッドで、俺は、目を覚ました。


 ただし。もう、昼前だったが...。


 うん。流石の俺も、夜通しの宴会に最後まで付き合うと、朝はいつも通りには起きられない。

 けど、まあ、何故だか、あれだけお酒を飲んだのに二日酔いにはならなかった。という点については、生まれ持ったものかどうかは不明ながらも今の俺が保有する有難い体質に、現在進行形で感謝している最中だ。


 俺は、冷たい水で顔を洗って身繕いをしてから、遅い朝食を取るために、宿の食堂へと降りて行く。

 宿屋の二階の奥まった部屋から、廊下を通って階段を下り、昨晩に大宴会が催された食堂に入る。と、ど派手に飲んで食べて大騒ぎした痕跡は綺麗に片付けられて消え去り、物静かな昼食時を控えた普通の食堂の光景が、そこにあった。

 思わず完璧な玄人仕事に感心している俺を目敏く見つけた宿の女将が、ニコニコしながら此方へと近付いて来て、お辞儀する。


「おはようございます。アル様」

「おはようございます、女将さん」

「お部屋では、よくお休みになられましたでしょうか?」

「はい。お陰様で」

「それは、よう御座いました。では、ご朝食を用意させて頂いても、よろしいでしょうか?」

「はい。そうですね、この後、この近辺を散策しようかと考えていますので、朝昼兼用でシッカリ食べさせて頂きたいと思います」

「承知致しました。それでは、お好きな席について、暫くお待ち下さい」


 貫禄十分だが愛嬌のある美人さんでもある宿の女将が、一礼するとテキパキとした所作で厨房の方へと向かうのを見送り、俺は、手近な席へと座った。

 テーブル席の一つを選んで椅子に座り寛ぎながらも見るともなしに周囲を眺めると、まだお昼のランチタイムには早いからか、それとも旅人が少ない今は昼食を食堂で取る人も少ないからなのか、人影は疎らだ。

 昨日聞いた話だと、俺以外の旅人である親子連れも荷馬車の商人も既に宿を発っている筈なので、ここに居るのはこの村の人間だけなんだろうが、やはり、少し寂しい感じがした。


 どうやら、街道が寂れた事でこの近辺の農村が困窮気味だという話は、決して大袈裟な表現という訳ではなく、実際にもそれなりに差し迫った事態ではあるようだ。

 ただ。何となくではあるが、一時的に街道の物流が止まった事だけが原因であれば強引に費用や人手を掛けて復旧させてしまうようにも思えたので、街道の随所に見られた保守が長らく滞っている形跡を窺わせるあの路面の傷み具合と同様に、この状況は少しばかり長期的なスパンでの衰退が疑われる。

 俺の気のせいである可能性もあるのだが、残念ながら、この手の感覚はあまり外れた事がない。


 という事で、俺は、一連の騒動における諸悪の根源が待ち構えているであろうランカスターの街への道行きを急ぐのではなく、折角のご縁を得たこの村で少しばかりこの国の様子を探ってみようか、などと考えていた。

 夜更かしの所為で寝過ごして少し出遅れたが、腹ごしらえを済ませたら、この後、周辺の家々や農地を見て回ろうと思っているのだ。

 既に公開してしまった土木作業に有用な魔法を使って何かお役に立てることはないか、などと冒険者稼業の軽い売り込みも兼ねたように装い、昨日の歓待へのお礼の挨拶回りをしながら...。


「アル様、お待たせしました」

「あ。ありがとうございます」


 俺が今日の予定について彼是と物思いに耽っていると、いつの間にか、宿の女将さんが食事を給仕してくれていた。

 うん。美味しそうだ。

 ホカホカと湯気の立つ、ボリュームたっぷりの朝ごはん。


「いただきます」

「どうぞ、お召し上がり下さい」


 ニッコリと微笑む女将さんの、笑顔が眩しい。

 何と言うか、みんなのお母さん、といった感じの暖かな笑顔だ。

 王妃様が腕白なキャサリン王女様の様子を傍で見ている感じ、に近いかなぁ。

 良いよね、この感じ。

 などと、脳内お花畑状態になりながらも女将さんを見ていた俺は、その手元に何やら包みがある事に気が付いた。


「?」

「こちらに、携帯用の軽食と飲み物を用意しておきました」

「えっと...」

「朝昼兼用のお食事との事でしたので、量は多めにご用意致しました」

「...」

「ですが、これだけでは夕食までに小腹が空くかと思われますので、宜しければこちらをお持ち下さい」

「わあ。お気遣い、ありがとうございます」

「いえいえ。これくらい、当然ですわ」

「ははははは。流石、ですね」


 お日様の様な笑顔が素敵で仕事の出来る美人な女将さんが、ニッコリと微笑んで、お出かけお弁当セットを渡してくれる。

 いや~、ホント、今日も良い一日になりそうだ。



 * * * * *



 天候に恵まれた穏やかで暖かな日差しの中、俺は、この村の村長さんであるハロルド氏の案内で、宿の周りの家々や農地の様子など見学していた。


 楽しく美味しい食事を堪能した後、俺が、女将さんに見送られて宿屋の建物から外に出ると、何故かそこにはハロルド氏が待ち構えていたのだ。

 う~ん。昨日の宴会で、俺は今日の行動予定を話していたのだろうか...記憶に無い。

 特に根拠はなく何となくにではあるが、宿の女将さんが、気をまわして事前に手配し段取りを組んでおいてくれた、ような気がする。


 本当に至れり尽くせりでお世話してくれる素晴らしいサービス精神と実行力だ、と思う。

 脱帽、だった。

 宿代も村側の負担なので申し訳ないから、何か、女将さんと宿の方々にお礼を考えないといけない、よなぁ。

 何が喜ばれるのか全く想像もつかないが、まずは、宿に戻ったら感謝の気持ちを伝えようと思う。

 それに、今晩も宿泊する旨は伝えてあるので、まだ時間はある。

 まあ、取り敢えず、この村の様子を見せて貰いながら、何が良いのか考えてみようと思う。


「はあ。やはり、山林の伐採が、原因でしょうか...」

「そうですね。ここもそうですが、街道が埋まっていた近辺の山の斜面も、樹木が集中的に伐採されて地面が剥き出しになった個所が多かったですよね?」

「まあ、確かに、ご指摘を受けてみれば、その通りだと分かるのですが...」


 困惑顔の、村長さん。

 そして。俺たちの目の前には、村の外れの崩れた山肌。

 そう。この村の農地は大多数が豊作という程ではないがそれなりに収穫が出来ているのだが一部には困窮している箇所がある、といった話があったのでその場所まで案内して貰うと、このような状況に遭遇したのだった。


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