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43.([前]編-43)

 ラトランド公国から、その隣国であり同じ連合公国の一翼を担っているベッドフォード公国へと入る。


 マナーズの街から連合公国とベッドフォード公国の首都を兼ねるランカスターの街へと続く両国の主要街道の一つで一人、俺は、徒歩の旅を堪能していた。

 ただし。本来であれば、大型の荷馬車が数多く行き交う賑やかな街道、である筈の道幅も広く立派なこの道の現状は、人も荷馬車も滅多に擦れ違うことのない寂れた旧街道のように閑散とした有様、ではあったが...。


 厭世的な官僚の生き見本のようにヤル気を全く感じさせない外観や態度とは裏腹に過重労働にて倒れる寸前の状態でギリギリ踏ん張っていた勤勉なランドルフ氏に、生真面目な次期ウォートン騎士伯であるレジーナさんとその補佐役としての面目を賭けて全力投球する腹黒イケメンなクリフォード氏の二人を、引き合わせガッツリと押し付けてしまった俺は、その目論見通り、諸悪の根源である隣国のベッドフォード公国を探索するという名目を獲得し、ラトランド公国を後にした。

 どちらも一筋縄ではいかない頭脳派であるランドルフ氏とクリフォード氏の二人から、あれやこれやと突っ込みやら横槍やら邪推やらを受け、なんだかんだと監視やら手綱やらお荷物やらを押し付けられかけたものの、何とか全ての干渉を排除して、気ままな一人旅を勝ち取ったのだ。

 まあ、そもそもからして俺は、フリーの冒険者の一人旅と自己申告していた訳だから、元の状態に戻ったというか維持しただけではある。

 それをあの二人は、恩着せがましくあれやこれやとブツブツ色々と文句を言いまくるので、すっぱりキッパリと断ち切ってきた。

 うん。自国の事は、自国の人員でどうにかして欲しい、と思う。

 そう。幸いにも、優秀な人材が沢山いるのだから、自力で善処すべきだろう。頑張れ。


 それに。

 激烈に甘々で周囲無視なバカップルと、姉さん女房とダメ亭主的なツーカーで仲睦まじい円熟カップル。

 そんなピンク色の世界になど、俺は、絶対に、紛れ込みたくない。と、早々に脱出してきた、という側面もあったりする。

 うん。こっちの方が、本音かも...。


 閑話休題。


 しかし、まあ、何と言うか、この街道は閑散として盛大に(すた)れていた。先程から全く、擦れ違う人がいない。

 ラトランド公国とベッドフォード公国との関係に問題がある状況とはいえ、いくら何でも、主要街道がこの状態っていうのは、どういう事なんだろう。

 しかも。何だか、街道の状態もそうなんだが、周囲の畑や村落も、寂れていると言うよりは寧ろ荒れ果て荒廃しかけている、といった感じがするのだ。

 攻められていたラトランド公国の方が意外と元気だったので余計に、ベッドフォード公国の側の疲弊度合いが目立つというか際立ち、異様だった。

 マナーズの街でも少し感じた事なのだが、今回の一連の騒動は支離滅裂で、何やら表面には出て来ていない別の要因が大きな影響を与えている、ようにも思える。


 ただ、まあ、現時点では何も分からない。まだ、この国に入ったばかり、だからなぁ。

 首都であるランカスターの街まで行けば、何かは、たぶん、分かるだろう。

 そう思うことにして、俺は、一人寂しく、物悲しい感すら漂い始めた広い道を、黙々と歩く。


 ベッドフォード公国は、険しい山脈に囲まれるという程ではないが平野部よりも山岳地帯が多い、と話には聞いていた。

 実際、ラトランド公国との国境を流れる大河を渡ってから暫くは平野が続く長閑な農村地帯だったのだが、いつの間にか、街道の左右は緑豊かな山の斜面へと変わっている。


 そんな断崖絶壁という程ではないがそれなりに険しい山々に鬱蒼と茂る山林で囲まれた、荷馬車の隊商や騎馬の隊列が余裕で擦れ違える程度には十分な道幅のある街道。

 この国の主要街道である事に間違いはない筈なのだが、何だか、歴史や伝統よりも無理矢理に造った感が醸し出されている道、だった。

 元からあった集落と集落を繋ぐ山道の往来が増えて拡充された、と言うよりは寧ろ、力業(ちからわざ)で山を切り開いて通路を使った、といった表現がピッタリくる感じなのだ。

 しかも。造ったは良いが、その後のメンテナンスが容易でないため徐々に傷んできている、といった雰囲気が濃厚に漂っていた。

 そう。道の両脇に時たま大きめの石がゴロゴロしていたり、路面の凸凹が少し激しい場所があったり、稀にだが道の真ん中に深くはないもののそれなりに面積のある穴があったり。

 特に先程から、街道の両脇に樹木が鬱蒼と茂る山が迫る物寂しい山中を進むようになってからは、徐々にその傾向が顕著になって来ている、ような気がする。

 うん。この、道路を左から右へと斜めに横切って出来ている溝というか亀裂は、馬車だと通行の妨げになるレベルだと思う。

 まあ。少し前から、馬車は一台も通っていないのだが...。


 そもそも、当初の俺の予定では、ずっと徒歩ではなく、ランカスターの街へと向かう辻馬車に乗るか荷馬車に便乗させて貰うつもりだったのだが、その目論見は脆くも崩れ去っていた。

 ベッドフォード公国に入れば辻馬車もあるだろうという予想は空振りし、進行方向が同じ荷馬車は数が少なかった上に見かけた際も偶々(たまたま)なのかピリピリした雰囲気で気軽に同乗をお願い出来るような感じではなかった。

 余所者が嫌われる土地柄なのか、他人を警戒せざるを得ないような何らかの事情があるのか、などなど。俺がそんな状況を見極めきれる前に、気が付くと、周囲から人通りも馬車の往来も絶えてしまっていたのだ。


 それに。

 少し前から、気になっていたのだが、両側にはどちらも鬱蒼と樹木が茂る山が迫っていて谷底にあたるような場所を通っている道、というのは拙くないのだろうか?

 この位置関係だと、大雨が降ったら道が川になってしまいそうなんだが...。


 その上に、何だか少し前から、禿山っぽい感じの場所が徐々に増えてきている、ような気もするのだ。

 街道の左右が緑豊かな山の斜面へと変わってからもう大分歩いたので、そろそろ人里に近付いて来ており、近隣住民によって木々が伐採された跡が顕著になってきた、という事だろうか?

 ただ、まあ、この規模で伐採するのは、相当に大規模な集落があるのか、伐採した樹木を大量に使用する産業が盛んな地域がある、といった事情でもないと辻褄が合わないレベルではあるが...。


 と、まあ、何となく。少し前から、この道を歩いていると我が身に危険を感じる、といった状況が続いていた。

 気持ち的に多少は早歩きになりながら、先を急ぐ。

 こんな場所で、大雨にでも降られたら、かなり酷い目に遭いそうだ。

 まだ、日が暮れるまでは十分に時間はあるが、兎に角、速やかに人里へと辿り着きたい。

 そう、切実に感じながらも、黙々と足を進めている、と。


 土砂崩れで、山の斜面が盛大に崩壊して、街道が塞がっていた。


 え~、マジですかぁ。

 と、俺は、心の中で盛大に叫んだ。


 山の斜面が崩れている場所まで、ここからまだ結構な距離があったのだが、しばらく道が真っ直ぐに続いているお陰で、その状況がよく見えた。

 うん。これは、ダメな奴だ。

 右側の斜面が、かなり高い所からそれなりの距離の区間で、ガッツリと崩れている。

 ただし。土砂もあるが大小様々な岩が多い箇所だったのか、頑張れば、人がよじ登って通る分には問題は無いようで、実際に、徒歩の通行人はえっちらこっちらと少し足元の悪い山道でも歩くかのように乗り越えて恐る恐る通行している様子が見えた。

 が。荷馬車の方は、どうしようもない。土砂と岩で埋まった個所の手前で、何台かの荷馬車が立ち往生していた。

 これは、別の道に迂回するしかないんじゃないかなぁ、などと考えながら、俺は、斜面の崩落現場へと近付いて行くのだった。



 * * * * *



 立ち往生したままの荷馬車は、二台。どちらも、中型の、個人経営的な行商人の馬車のようだ。

 片方の馬車の御者台では、二人の青年が、行くか戻るかで揉めている。

 もう片方の馬車の御者台では、親子連れだと思われる中年男性と女の子が、二人で途方に暮れていた。


 馬車であれば、今からでも少し急げば、街道を戻って最寄りの街まで今日中に辿り着く筈だ。

 だから、ここから速やかに引き返すのが順当な判断になると思うのだが、ここまで寂れてしまった街道を敢えて進んで来た上に更に先へ進もうとしている彼らには、何らかの事情があるのだろう。

 他の荷馬車は、街道の悲惨な状態を確認するやいなや、とっとと元来た道へと引き返していったようだった。


 はてさて、如何したものだろうか。


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