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   ([後]編-35)

 俺は、思わず少しばかり顔を顰めそうになりながらも根性で堪えて、にこやかな笑顔を浮かべながら彼女たちを見る。

 おお、俺も成長したな。などと自画自賛しながら、頭を捻って大慌てで直近の記憶を探る。

 安堵の表情を浮かべる美少女と綺麗なお姉さん侍女の二人組を視界に捉えながら、自身最速で愚鈍な(おの)が頭脳をフル回転させる。


 えっと、確か...。


 意気揚々と、少々渋い顔をした面々に見送られながらローズベリー伯爵領にある辺境の砦から荒野にでて、特記すべき事項もなく坦々と出会う小物の魔物を駆除しながら荒野を進み、隣国との国境からそれなりに離れた地点でラトランド公国への侵入を図り、特段の妨害も阻害も受けることなく呆気ない入国を果たした、んだったと思う。

 そう、呆気なく荒野からラトランド公国へ。

 それは即ち、ラトランド公国では荒野への警戒体制が機能していない、という事実を示す。

 つまりは、荒野からラトランド公国には魔物の侵入も自由自在、という状況を意味するのだ。

 そして。当然の帰結として、ラトランド公国の辺境近辺に魔物が彷徨(うろつ)く事態となっていた。


 勿論、魔物の方も、無闇矢鱈(むやみやたら)と人里に近寄って来る訳ではない。

 魔物には魔物の行動原理があり、縄張りもあれば住処に対する趣味嗜好もある、らしい。

 らしいのだが、直近の出来事を振り返ってみると...。

 ローズベリー伯爵領にある辺境の砦への魔物大襲来があり、それを俺たちが派手に蹴散らしたのがほんの少し前で、その後は少しばかり魔物の行動範囲や生態系にイレギュラーが発生していた。

 うん。その影響は、当然、同じ荒野に面しているこの地にもある、よな。


 俺が、能天気に、空も晴れてて長閑(のどか)だなぁ、などと呆けながらラトランド公国の田舎道を歩いていた際に、そんな因果応報を体現したかのような場面へと出会ったのは、運命の巡り合わせか神の意思だったのかもしれない。

 そう。不自然な程に殺気立って個体数が異様に膨れ上がっている魔物の群れが、まさに人里へと襲い掛かろうとしている場面に、出会(でくわ)したのだ。


 呑気に呆けて周囲への警戒を怠っていたが為にその事態に気付くのが遅れたものの、俺は、即座に臨戦態勢へと入った。

 あまり人里で目立ちたくはなかったのだが、この状況では、そうも言ってられない、と腹を括る。

 俺は、腰に提げた小さな革鞄(ポーチ)から、にゅっと愛用の大剣を取り出し、左手で鞘を持って右手に抜いた剣を持ち、風の魔法で走る速度をブーストして、少し距離のある今まさに開かれようとしている戦端へと向かってひた走る。

 小高い丘を越えた途端に目に入ってきた、大量の魔物と数人の防衛側戦力と(おぼ)しき人々が対峙している場所までは、少し距離がある。

 ので、俺が戦闘の場へと辿り着いた頃には既に、乱戦状態だった。

 戦場の端っこである群れの最後尾側から手近な魔物を豪快に(ほふ)りながら、俺は、防衛側の人員配置をザっと確認する。


 主力は、光沢のあるストレートのさらさらな水色の髪をショートヘアにした少女、だった。


 ええ~、マジかぁー。


 と、思わず心の中で叫んでしまう。

 少女に、防具の装備はなく、少し仕立ての良さそうなワンピースを着て、薙刀のような武器を縦横無尽に振り回している。

 舞うように、ヒット・アンド・アウェイで確実に、魔物へとダメージを与える。

 ただ。如何ともし難いことに、多勢に無勢であり、少女には攻撃の威力にも体力にも限界があることが見て取れた。

 大人びては見えるが、たぶん、俺と同年代の、十四歳か十五歳。

 そんな少女が中心となって、というか少女が前面に出て魔物を駆除し、村人らしき大人の男たち数人がその後ろで少女が討ち漏らした魔物を根性で倒す。

 そんな無理のある状況は、長持ちしない。

 つまりは、不味い。

 と読み取った俺は、一気に形勢逆転とするため、大技を一発かます覚悟を決める。

 魔物の群れを強引に割りそのド真ん中へと更にスピードアップしてひた走り、右手の剣に魔力を纏わしながらも、往生際悪く何とかどさくさに紛れて目立たない方法はないかと探してみた。が、諦める。


 はぁ~、仕方ない。


 魔物の群れと少女たちの位置関係を把握し、衝撃波を飛ばす方向を慎重に計算。

 魔物の群れの外縁から回り込みながら、最前線の少女よりも少し魔物の群れ寄りの位置に到達。

 うん。ここからなら、一発だけ特大の奴を繰り出せば、粗方は方が付きそうだ。

 であれば、さっさと、いってしまうぞ。

 うりゃあ~。


 ズ、どぉ~ん。


 と、盛大に魔物が吹っ飛ぶ。

 が、予告なく俺が技を繰り出したので、想定外の衝撃に少女の動きが一瞬止まる。

 わわわ、拙い。

 そんな少女の隙を突き、すぐ傍にいたサイに似た体型の巨大な角持ち魔物が、少女に急接近。

 俺は大慌てで、少女と魔物の間に、魔法で急造の圧縮空気の壁を構築。

 更に、大剣を両手で構えて一直線に突っ走り、サイ体型の魔物に斬りかかった。


 のだが、何故か。

 俺は、巨大な角に脇腹を抉られながらぶっ飛ばされて、運悪くぶっ飛んだ先にあった巨岩に背中から激突し、気を失ったのだった。


 うん。思い出したよ。

 何だか、居た堪れない。

 人間、慌てると碌なことが無い、という良い例だよね。うん。


 彼女にすれば、いきなり、殺気を纏って剣を振りかぶった男が急接近して来た訳だから、咄嗟に自衛行動をとってしまうのも当然だろう。

 俺の方も、仮設とはいえ対物理の防御壁が間に合っていたのだから、慌てて魔物を仕留めに行く必要はない、と気付くべきだった。というか、慌て過ぎだろ、俺。


 薄っすらと記憶に残っている光景を思い返してみると、たぶん、こんな感じ。

 圧縮空気の見えない壁に弾かれて、進行方向が逸れた魔物。

 急な殺気の出現に驚き攻撃を繰り出しかけたけど、咄嗟に峰打ちへと切り替えた彼女。

 焦っていて一時的に視野狭窄状態だったため、彼女の不発となった殺気に気付いて避けようとしたが完全には避けきれなかった俺。

 中途半端に体勢を崩してガラ空きとなってしまった俺の脇腹に、運悪く、突撃途中で強制的に方向転換させられた魔物の角が突き刺さる。

 そして。俺は、巨大な角に脇腹を抉られながらぶっ飛ばされた。

 更に、運が悪いことに、俺のぶっ飛んだ先には巨岩があり、俺は背中からその巨岩に激突。


 うん。

 何と言うか、最後は本当に残念な人となっているよな。俺。

 そんなことを考えて、思わず視線が泳いでしまった俺を見て、少女が再び動揺した。


「すいません、ごめんなさい、ご迷惑お掛けして、っていうかお怪我をさせてしまい、申し訳ありません!」

「あ...」

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。本当に、ごめんなさい!」


 あはははは。

 心配そうに、半泣き状態で俺の顔を覗き込む美少女が、至近距離にいた。

 何かが違う気もするが、これが役得、って奴だろうか...。


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