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   ([中]編-33)

 濡れた子犬のように、シュンとしてしまったラトランド公国の公子様。

 その様子を一瞥したアレクは、もう一つの方の巻物を、軽く持ち上げる。


「こちらは、ラトランド公国の地図のようですが?」

「はい」

「かなり詳しく、細かな箇所まで記載されていますね」

「ええ。大公家のみが保有する、門外不出とされている公国内の詳細な地図です」

「...成る程」

「こちらは、私が、ラトランド大公の後継者として所有している物になります」

「...」

「譲渡は出来ないので、あくまでも一時的な貸与となりますが、お役に立つと思います」


 ぶんぶんと尻尾を振っている子犬のように、急に元気になった美少年。

 それを冷たい視線で見下ろす、美青年?

 そう。よくよく見ると、アレクも結構、容姿が整っていたりするのだ。


「まあ、この地図も、不正に入手したという疑いを掛けられると碌な目にあわない気もしますが、無いよりはマシでしょう」

「そ、そうですか...」

「ええ。確かに、この二点については、私、アレクサンダー・ベアリングがお預かり致します」

「...」

「良いですね?」

「はい」

「決して、ローズベリー伯爵が受け取った訳ではありませんので、お間違えのない様に」

「...」

「ご理解頂けましたか?」

「はい、勿論です」


 エルズワース公子は、真面目な表情(かお)をすると優雅に一礼して、元来た場所へと戻って行った。

 それを見送り、俺たちも、何事も無かったかのように振る舞い、再び歩みを進める。

 そして。通りかかった際にチラリと見ると、エルズワース公子が消えたその先には、脇道というか細い通路が続いていた。

 もうエルズワース公子の姿は見えないが、ここから何処か別の場所へと立ち去ったのだろう。

 そう認識してから数歩進んだところで、辺りの雰囲気が微妙に変わり、喧騒と人の気配が戻って来たのだった。




 王宮の建物の中を、馬車を待機させてある乗降場所のある出入口へと向かって、静々とひたすらに歩く。

 歩いて移動するには少し規模が大きすぎると何度も感じている王宮も、漸く周辺部にまで辿り着き、あと少しと自身にカツを入れたところで...。

 また、再び、(わざわい)が降って来たのだった。


 廊下のど真ん中に、侍女さんが一人、デンと構えて立っていた。


 青髪でクール系の長身キラキラ美女が、一部の隙も無く、優雅な姿勢で待ち構えている。

 只者じゃない、とヒシヒシと感じる。

 見た目は侍女さんだけど、纏う雰囲気は騎士か一流の護衛、だった。


 自然と、足も止まる。

 アレクも、緊張した様子で、立ち止まっていた。


 鋭い目つきで無表情にこちらを見ていた侍女さんが、目つきは鋭いままで微笑んだ。

 そして。強烈な武人の気配を纏ったままに柔らかい仕種で、俺たちに右側の脇道へと進むよう促した。


 どうやら、俺たちに拒否権はないようだ。


 周囲を行き交う人々は、俺たちには憐みの視線を、侍女さんには畏怖の眼差(まなざ)しを向け、俺たちと侍女さんを器用に避けて何事も無かったかのように通り過ぎて行く。

 王宮では、この侍女さんは有名人らしい。

 しかも。ある意味、関わりたくない迷惑で強烈な人物として、認識されている模様。


「アレク。あちら、だそうだ」

「ああ、仕方がないな。アル、今度は何をしたんだ?」

「さあ?」


 青い髪をキッチリと纏めたクール系のキラキラした美女が、俺たちを先導するかのように歩きだした。

 その後ろ姿を見送りながら、このまま見なかった事にして直進しようか、などと一瞬考えた。

 が、振り返りもせずに軽く威嚇されたので、素直について行くこととする。


 うん。戦闘になったとして、俺とアレクの二人掛かりで負けるとは思わないが、美女を怒らすと後々が怖そうなので、冒険はしないことにした。

 まあ。王宮内で、そんな無茶をする人も居ないとは思うけど...。


 姿勢正しく隙も無く整然と流れる様に前へ進む侍女さんに続いて歩くこと、十数歩。

 廊下の突き当りに、立派な扉があった。

 侍女や侍従などの控室ではなく、明かにそれなりの身分の貴人が使うことを想定された部屋のようだ。

 その部屋の扉を、侍女さんが、(うやうや)しくノックした後、(おもむろ)に開けた。

 そして。優雅に素早くこちらを振り返って、鋭い視線で無表情に、中へ入るようにと促すのだった。


 思わず、俺とアレクが顔を見合わせていると...。


「やあやあ、すまないね」

「「...」」

「アルフレッド様。少々強引なご招待となってしまった点については、ボクから謝るよ」

「...」

「取り敢えず、中に入って座ってくれないかな?」


 部屋の中では、ボクことタウンゼンド侯爵令嬢のシャルロットちゃんが、にこやかに微笑みながら待ち構えていたのだった。


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