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33.([前]編-33)

 豪華な馬車で寛ぎながら、ポクポクという規則正しく長閑(のどか)な音を伴い、王都の街並みの中を優雅に進む。

 既に見慣れてきた感のある景色を見るともなく眺めながら、俺とアレクは、王宮へと向かっていた。


 王宮の門を通り抜けると、広大な庭園の中に整備された道をゆったりと進み、王宮の建物の前に着いたところで馬車を降りる。

 王宮の建物へと入り、静々(しずしず)とひたすらに歩いて歩いて、歩き続けてやっと着いた豪華な控室で、暫く待たされる。

 そんな手順を踏んだ後で、漸く、国王陛下への謁見となるのだった。


 国王陛下と王国の重鎮の皆さまの前で、アレクに叩き込まれた作法の通りに澄まし笑顔を顔面に張り付けたまま、儀式的な受け答えを恙無くこなす。

 そうした面倒な手続きを経て、やっとの事で、本日の本題となる。

 それ程には格式ばった方でないと言われている我が国でこれだと、気位と格式がお高くガチガチの大国ともなると想像を絶する面倒臭さなのだろう。

 そんな国に仕えることにならなくて良かった、と心底思う。

 俺には、このレベルで、もうお腹いっぱいだった。お貴族様には向いていない、と改めて実感する。


「では。本日の議題である、ラトランド公国への対応についての検討を始める」



 * * * * *



 王宮の中、中心部から周辺部へと向かう数多くある廊下の中の一つ。それが、俺とアレクの、現在位置。

 国王陛下と我が国重鎮による会議の場を辞した俺は、優雅さを損なわないギリギリの早足で、王宮の門へと向かって一心不乱に突き進む。

 俺の前を同じく、かなりの速度でかつ優雅に歩くアレク。

 その背中を無意識に見詰めながら、俺は、高速回転で思考を巡らしていた。

 さて、どうしたものか、と。


 ラトランド公国の内情を探る。これは、確定。


 その使命を、辺境伯というよりはローズベリー伯爵の立場にて、陛下より承った。

 本来、辺境伯は、魔物の跋扈する荒野に面した辺境を守護するのが職務だ。

 勿論、荒野を介して隣接する隣国に対する警戒や防衛もその職務範囲の内だが、対ラトランド公国という意味では微妙だ。

 通常であれば、このような役目は、外交関係の役職を任じられている重鎮や連合公国との国境を所領としている領主などが担うべき役割なのだから。

 しかし。今回は、ラトランド公国の公女二人と公子一人を救出したのが辺境伯であるローズベリー伯爵だったという経緯やその責任を追及されそうになった事情もあり、その任を受けざるを得なかった。


 一方で。その具体的な手法については、何とか一任して頂くことが出来た。

 ラトランド公国への訪問方法や人員選抜は当家の判断で行うことに承認を得て、ラトランド大公にも無理に会う必要なしとの陛下のお言葉も得ている。

 つまりは、如何様にでも遣り様はある、という事だ。

 ただし。速やかに領地に戻り具体策の検討と準備を行うべし、との意見でも一致した。

 だから、俺とアレクは、急ぎ辺境の屋敷まで戻るべく、徒歩で歩き回るには(いささ)か広過ぎる王宮の中を急いでいた訳だが...。


 唐突に、進行方向、少し離れた位置に、エルズワース公子が現れた。


 効果音を付けるとすれば、ぽてっ、といった感じで。

 物陰から女の子の両手で強引に押し出されて現れ、俺とアレクの進路を塞いでいる。

 これは、明らかに、俺が目当ての行動だろう。


 俺とアレクは、仕方なく立ち止まった。エルズワース公子と少し距離を開けて。


 困惑した表情で、押し出された方向を振り返るラトランド公国の公子様。

 その両手には、何やら書状か書類らしき巻物を二個、抱えている。

 そして。俺とアレクの視線に気付き、申し訳なさそうに苦笑いを浮かべた。


「申し訳ありませんが、アルフレッド様。少し、お時間を頂けませんか?」

「「...」」


 俺は、数歩前に進んでアレクの横に並び、視線は前に向けたままで周囲の状況を確認する。

 謀ったかのように、周囲には人の気配が全くなかった。

 こちらに近付いて来る人の気配もなく物音もしない。

 うん。十中八九、人為的なものだな、これは。

 その手段については、明確な根拠はないものの、魔法と人海戦術の複合技のような気がする。

 たぶん。


「ご迷惑をお掛けしたくないので、手短に済ませるように致します」

「「...」」

「ですから、少しお話しできませんか?」


 俺は、アレクと顔を見合わせた。勿論、エルズワース公子を視界に捉えたままで。

 アイコンタクトと僅かな身振り手振りのみで、素早く意見交換。

 話は聞くけど応対はアレクに任せる、で合意。

 まあ、後々のことを考えると、俺がこのタイミングでラトランド公国の者と直接接触するのは、好ましくない。というか、拙い。

 では、アレクだったら良いのか、といった疑念は残るが、俺が対応するよりは余程良い、と判断したのだった。

 そもそも、このような状況に陥っている時点で、ある意味ではもう既に手遅れなのだが...。


 アレクが、一歩前に出て、この後の応対は自分が行う、と意思表示する。


「私が、お話を聞かせて頂きます」

「ありがとうございます」


 エルズワース公子が、ニッコリと笑って、両手に抱えていた二個の巻物を差し出した。

 アレクが、俺の顔を一瞥した後、肩を(すく)めて巻物を受け取る。

 そして、素早く、ざっと中身を改めた。


 エルズワース公子は、じっと待つ。

 そして。

 アレクが確認し終わったのを見届けてると、口を開いた。


「一つは、姉上の、ベアトリス公女の署名が入った、許可証です」

「こちらの書状ですね」

「はい。ラトランド公国内の公の場であれば、絶大な効力があります」

「確かに、この書状は、ある意味でフリーパスになりますね」

「その筈です」

「公女殿下の権限の及ぶ範囲内であればこれを所持する者の行動を無条件に許可する、といった旨が記載されておりますから」

「はい」

「ただ、ラトランド公国内の状況や場所によっては、逆効果となる可能性もありますね」

「...」

「取り扱いが難しそうだ」


 アレクの冷たい物言いに、エルズワース公子が項垂(うなだ)れた。


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