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   ([後]編-32)

 (うれ)い顔の爽やか系イケメン紳士である高位貴族の男性と俺とのツーショット。

 いったい誰得なのかは不明だが、そんなカオスな状況を、重い沈黙が支配する。

 話題の選択に失敗した俺の責任ではあるが、この沈滞した空気を吹き飛ばせるような明るい次の話題も契機も掴みかねていた。


「そうですね。私には、アーチボルド閣下やアシュバートン男爵殿の深謀遠慮までは推し量れませんが」

「...」

「ローズベリー伯爵殿が、あの偉大なお二方に期待されておられる、という事だけは分ります」

「...」

「羨ましい限りです」


 遠回しにさりげなく褒められ、思わず照れてしまい、咄嗟に返す言葉が思い浮かばなかった。

 いかん、いかん。気を使わせてしまったかな。


「アランデル子爵殿、お気遣いありがとうございます」

「いえ。そういうつもりでは、なかったのですが...」

「ははははは。ああ、そうだ。今更ではありますが、私のことはアルフレッドとお呼び下さい」

「承知致しました、アルフレッド殿。では、私のこともバーナードと気軽にお呼び下さい」

「恐縮です。若輩者ではありますが、今後ともよろしくお願いします、バーナード殿」


 大人びた清楚系の美少女と、元気溌剌な正統派の美少女と、大和撫子にも見えるボクっ子な美少女。

 ラヴィニアさんとキャサリンちゃんとシャルロットちゃんの三人は、パッと見はお嬢様らしく、漏れ聞こえてくる声はきゃぴきゃぴと、和気あいあいに意気投合して盛り上がっている。

 この三人は、もう、このまま放置しておいても問題なし。

 バーナード氏とも、最終的には何とか穏便な会話に持ち込めたので、(うれ)いなし。

 という事で。今度こそ、王宮にあるこの国一番の豪華なホールから撤退を...。


「ところで、アルフレッド殿」

「...はい、何でしょうか?」

「ラヴィニアとは、今後、どのような関係をお望みでしょうか?」

「は?」

「...」

「し、失礼。予想外なことを急に(おっしゃ)ったので...」

「いえ。私の方こそ、少し不躾な質問でしたね」

「...」

「ただ、やはり、どうしても気になりますので...」


 えっと。何が?

 俺は、まじまじとバーナード氏の顔を見てしまう。

 バーナード氏は、大人な余裕の表情に少し苦笑を混ぜて、静かに俺を見返す。


「ラヴィニアが当家の養女となった経緯は、私も詳細を聞いております」

「はあ...」

「彼女にとって良い選択だったと思いますし、当家としても彼女は得難い人材であり迎え入れる事によるメリットも大きい」

「...」

「両親ともに大歓迎ですが、特に母は大喜びで彼女を構い倒していますしね」

「それは、まあ...」

「ですから、当家としては彼女を得られて大変幸運だったと考えております」

「...」

「私個人としても、彼女に出会えて良かったと思っておりますよ」


 何やら意味深な笑顔を浮かべて俺を見る、バーナード氏。

 何となく、あまり良い気分はしない、な。

 ハッキリとは分からないが、どうも上から目線で挑発されているような...。


「ですから、一度お聞きしたかったのです」

「...」

「アルフレッド殿が、ラヴィニアと今後、どのような関係をお望みなのか」


 うん。明らかに、挑発というよりは挑戦的な感じで、煽ってきている。

 思わず喧嘩を買ってしまうそうになるが、グッと我慢。

 ローズベリー伯爵家として、ノーフォーク公爵家とは事を構える訳にいかない。

 けど、まあ。バーナード氏個人と俺とが仲違(なかたが)いしても問題はない、か?

 いやいや、そんな大人げない事をすると、後からご隠居様にがっつり絞られそうな気がする。

 まあ、今日が初対面でもあるし、ここは穏便に、だな。


「そうですね」

「...」

「私とラヴィニアさんは、仲の良い友人、といった間柄ですかね」

「...」

「辺境の荒野で、困難な任務を果たすべく寝食を共にした仲間、ですから」

「...成る程」

「ええ。お互いの表情から、おおよそ何を考えてるかが分かる程度には、意思疎通も出来ていますし」

「...」

「それなりに、お互いを理解し合えてる、と思いますよ」

「...」

「この先も、良い友人関係を維持していきたい、と考えております」

「そうですか」

「はい」

「友人、なんですね。であれば、遠慮はいらないかな」


 にっこりと微笑む、バーナード氏。

 俺も、そんなバーナード氏に対して、にっこりと微笑む。

 男二人が、にこにこと微笑み合っている、そんなカオスな光景の出来上がりだった。


 だから、イケメンは嫌いだ。


「おお、ローズベリー伯爵殿ではないか!」


 突然、背後から、爽やかな大音響で呼びかけられた。

 この声は...。


「...ハワード・アイザックス騎士伯殿」

「久し振りだな!」

「は、はあ」

「何だ、しけた顔して。それに、他人行儀な。俺の事は、ハワードと呼んでくれ!」

「あ、ああ。ハワード殿」


 翡翠騎士団、第一小隊の隊長であるハワード・アイザックス氏。赤毛のワイルド系イケメンが、親し気に俺の肩を叩いていた。

 あかん、これは。暑苦しい奴に、捕まってしまった。

 がはははは、と唯我独尊の俺様モードを発動してご機嫌なレディング侯爵家の三男坊であるハワード氏に引き摺られながら、ノーフォーク公爵家の嫡男でありアランデル子爵でもあるバーナード氏にお暇の挨拶を目礼で済ませて、俺は、まだまだ帰れないという現実を悟って小さな溜息を吐くのだった。


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