([中]編-30)
俺は、ぎゃんぎゃんと超ハイテンションな弾丸トークを繰り出す王女様を、何とか宥めてテーブル席の豪華なソファーにお座り頂いた。
王家主催の夜会で、王女様と同じテーブルに座り、優雅に美味なデザートを頂戴する。
つまり。その意味するところは、注目の的、という奴だ。
しかも。王女様は、激おこプンプン丸、な状態なので、尚更に注目を浴びることとなる。
合掌。
けど、まあ、喋っている台詞さえ聞こえなければ、美少女が可愛らしく座っているようにしか見えなくもない、かな。たぶん。
うん。流石、王女様。これって、役得というかイメージ戦略の勝利?
俺は、やむなくステルスモードを解除して、王女様の向かいの席で、大人しく猫を被っておく。
が、しかし。
王女様は、今日も絶好調だった。
「で?」
「?」
「ノーフォーク公爵令嬢は、何処?」
「...」
「ラヴィニア・ハワード嬢は、何処に居るの?」
「...さ、さあ?」
ダンッ、というテーブルを叩く音と共に立ちあがるキャサリン王女様の幻影が見えた、ような気がする。
そう、幻影、だ。
一瞬、そんなアクションを起こしかけたが、グッと我慢した。
そんな感じで、自身にドウドウと宥める言葉をかけながらも、怒りのオーラを立ち昇らせる。
私、怒っています。と主張する、十二歳の美少女は、微笑ましくて可愛らしかった。
うん。怖くはない。
怖くはないけど、拙い、よなぁ。
正面に座るキャサリン王女様からのプレッシャーがヒートアップするのも困りものだが、それ以上に周囲の視線が段々と訝しげなものになって来ているのが問題だった。
「叔父さま?」
「...」
「お・じ・さ・ま!」
「あ、ああ」
「アルフレッド、叔父様?」
「な、何かな。キャサリンちゃん」
「叔父さま、いったい何をやってますの?」
「...」
「ねえ、叔父さま。どうして、ノーフォーク公爵令嬢に声を掛けなかったのかしら?」
「いや、まあ...」
「ど・う・し・て、かしら?」
「ははははは...」
君たちに長時間拘束されたお陰で、その余裕が無くなったからだよ。
などと答えたら、余計に怒られるのだろうなぁ。
人の所為にしない、とお説教モードになる彼女の様子がまざまざと想像できてしまった。
「な・に・か・し・ら?」
「いえいえ、何でも御座いません」
「ふう~ん。まあ、良いわ」
「...」
「で。ノーフォーク公爵令嬢は、叔父さまの婚約者なんでしょ?」
「いや、違うよ」
「えっ。そうなの?」
「そうだよ。仲の良いお友達、かな」
「はぁ?」
「うん。ラヴィニアさんには、お友達として、仲良くして貰っているよ」
「ま、マジで?」
「うん、マジで」
「叔父さまって...そこまで、甲斐性なしだったの?」
「へ?」
「...駄目だわ、これは」
「...」
「う~ん。これは、やっぱり、あちら様の考えも聞いてみないと...」
何やら難しい顔をして考え込む、王女様。
いや~。悩んでいる顔も、可愛らしいねぇ。
十二歳というと、現代日本では小学校の高学年な訳だから、無邪気なものだ。
お子様が精一杯背伸びしている感じがして、微笑ましい限りだった。
まあ、俺の方は十五歳という事になっているので、公式には五十歩百歩なので表立っては偉そうに言えない立場なんだが...。
思わずニコニコあんどニヨニヨ、傍若無人でありながらも可愛らしい王女様を愛でている、と。
「ご無沙汰しております。ローズベリー伯爵様」
後方から突然かけられた声に、振り返る。
と。綺麗に着飾って大人の貫禄十分なベアトリス公女殿下が、ニッコリと微笑んでいた。
いつの間に接近されていたのだろうか。気付かなかった。
俺が気を抜き過ぎていただけか、要注意の対象として警戒すべき状況と相手だと捉えるべきか。
こちらは十八歳と、王女様とは逆に俺より三つ年上のお年頃な女の子というか女性な訳だが...。
ゾクリ、と一瞬寒気がした。
視線が合った刹那、瞳が鋭く光り、ロックオンされた、気がする。
何故か獲物認定、された?
「その節は、色々とお世話になりました」
「いえ、当然の事をしたまで、ですよ」
「ローズベリー伯爵様には、パトリシアとエルズワースと共々、大変感謝しておりますわ」
「恐縮です」
「ご一緒させて頂いて、よろしいかしら?」
俺は、チラリと、キャサリン王女様の様子を伺う。
先刻まで可愛い顔の眉間に皺を寄せて何やら考え込んでいた筈の王女様は、いつの間にか、姿勢を正してツンと取り澄ました顔で優雅にお茶を飲んでいたのだった。




