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   ([後]編-25)

 武骨で愛想の欠片も無かった辺境伯の屋敷が、華やかで賑やかになるその契機となった、ラトランド公国からの突然の来客。

 その当初は悲壮感さえ漂っていた金髪碧眼の美少女姉妹と美少年弟の三人が、朗らかに微笑んで楽し気に会話する光景が、俺の目の前で展開されている。

 そんな、陽光が差し込んで明るい華やかで可愛らしい雰囲気の部屋での、賑やかなお茶会。


 途中で招かざる客も訪れて、大根役者二人による胡散臭い劇が展開される場面もあったが、もう、そろそろ、今度こそ本当にお開きとしても良い頃合い、だと思う。


 俺が、ベアトリス公女と本日も何度目かになるアイコンタクトを取り、了承の意思を確認してから、口を開こうと...。


「それでは、私たちは、これにてお暇させて頂きます」

「ああ、そうだな。皆さんとお話が出来て、楽しかったよ」


 氷雪の騎士という二つ名を持つ御仁が、にこやかに、お暇の挨拶を切り出して、立ち上がる。

 紅蓮の騎士という異名を持つ御仁も、にこやかに、俺様な感想を述べながら、立ち上がる。

 俺も、アレクに目配せをしてから、立ち上がる。


「ベアトリス公女殿下。それでは、私も、失礼させて頂きますね」

「アルフレッド様、色々とご配慮下さり、ありがとうございました」

「いえいえ。これも何かのご縁でしょうから、お気になさらずに」


 俺は、アレクも立ち上がったのを確認してから、ラヴィニアさんの方を向く。

 いつも通りに、ラヴィニアさんを彼女の部屋まで送って、今日は(つい)でに少しばかりお邪魔して、白猫ドラゴンのエレノアさんに関して確認と念押しをしておこう。などと、思案する。


「ラヴィニアさん。お部屋まで...」

「ローズベリー伯爵殿!」

「ローズベリー伯爵殿は、我々に御同道頂けませんか?」

「「...」」

「たまには、男同士も良いだろう?」

「是非ともご相談したい事項があるので、少しばかりお時間を頂きたい」

「いや、ラヴィニアさんを...」

「ノーフォーク公爵令嬢をお送りするのは、貴殿の従者でも構わないのではないか?」

「申し訳ないが、今回は、我々にお付き合い頂けませんか?」

「...」

「さあ、行こう!」

「では。練兵場まで、御足労頂きたい」


 赤髪のワイルドな俺様イケメン氏と、青髪のクールな自己陶酔イケメン氏。この二人から、かなり強引なお誘いを受け、半ば無理矢理に進路を誘導される。

 嬉しくない、事態だ。イケメン様でも、やっぱり、男二人に囲まれると、むさ苦しい。


 俺は、男二人にがっちりと囲まれた形で、ベアトリス公女の部屋を辞した。

 俺の後ろには、成り行きで、アレクが先導する形となった、ラヴィニアさん達が続く。

 更にその後ろからは、何故か、わくわく顔のパトリシア公女が、侍女役を務める当家のメイド長補佐であるヴェネッサさんに付き添われて付いて来ていた。


 胡散臭い笑顔を浮かべたイケメン二人に囲まれた俺は、仕方なく、屋敷の廊下を練兵場がある方向へと向かってゆっくりと歩く。

 その後ろを、アレクと女性陣で構成された団体様の御一行が、無言でお淑やかに歩いて追随していた。


「ご用件は、何でしょうか?」

「まあ、まあ」

「...」

「私も暇ではないので、この後にも色々と予定があるのですが」

「折角の機会は、有効に使わないとな!」

「ベアトリス公女殿下の治療もほぼ完了したのであれば、我々騎士団も、そろそろ王都に戻ることになりますので」

「...」

「そう、そう」

「ですから、是非とも、ローズベリー伯爵殿とは一度、お手合わせを願いたい」

「う~ん」

「誰が一番強いか、確かめようぜ!」

「騎士として、自身の強さを把握するのは、重要な事なんですよ」

「まあ、それはそうなんでしょうが...」

「よし、決まりだ!」

「国外の情勢が少し不穏な雲行きですし、辺境伯としても、騎士団の実力を把握しておかれた方がよいのではないかな」

「う~ん」


 正直なところ、騎士団の正統派の剣術と俺の実践派の力業では、比較の対象に為らないと思う。

 しかも。俺は、剣士ではあるが、魔法使いとしての比率の方が高いのだ。

 確か、この国での騎士は魔法も使う優れた剣士といった定義だったとは思うが、剣士としての側面の方が強い筈だ。

 ご隠居様の手ほどきを受けているとはいえ剣士として我流の俺では、正統派の剣術をひたすらに極めている騎士と剣術で勝負するのは、(いささ)か不利で分が悪いような気もする。

 かと言って、俺が本気の魔法を使ってしまうと、試合の範疇に収まらないような...。


 うん。自国の騎士団の隊長を、跡形も残さず吹っ飛ばしてしまうのは、流石に拙いと思う。

 いやいや。魔法も使えるのが騎士なんだから、無傷とはいかなくとも防御くらいは出来るのか?

 う~ん。ご隠居様からもっと真面目に、対人戦についても教わっておくべきだったな。

 けど。どうしても、俺は、人間相手に攻撃するのに躊躇してしまう、のだよな。魔物相手であれば、だいぶ慣れてきたのだが...。


「やはり、私の立場も考えると、王国騎士団の小隊長さん二人との手合わせは拙いですね」

「...」

「そうでしょうか?」

「ええ。ですから、その代わりに...」


「アルフレッド。そう固く考えず、気軽に相手をすれば良かろう」


 突然。何処からともなく現れたご隠居様が、乱入して来た。


「「アーチボルド・プリムローズ閣下!」」

「...養父様。お加減は、宜しいのですか?」

「人を、病人扱いするでない」

「はあ。対外的には、病気療養のために引退、となっているのですが...」

「それはそれ、だ。屋敷の中でまで、辛気臭い顔などしておられるか」

「まあ、そうだろうとは思いますけど」

「で、じゃ。翡翠第一の隊長と紅玉第一の隊長が相手であれば、腕試しにはちょうど良かろう」

「いやいや。出来れば、あまり波風立てたく無いのですが...」

「馬鹿者!」

「うっ」

「脳筋には、実力行使あるのみ。良い機会じゃから、サクッと相手して来い」

「はあ...左様ですか。養父様がそう仰るのなら、仕方ないですね」


 崇拝の目で養父様を見る、赤と青のイケメン二人。

 泰然とした態度にニヤニヤ成分が微妙に混じった笑顔の、ご隠居様。

 その横には当然、リチャードさんが、鉄壁の無表情を維持して静かに控えている。


 ご隠居様がリチャードさんを伴い、率先して、練兵場へと向かって歩き出す。

 その後ろを、イケメン様二人が、ニコニコと嬉しそうに付いて行く。まるで、雛鳥のように。


 残念ながら、何故か俺とは相性が悪く何かと突っかかって来るイケメン様二人との手合わせは、回避できない運命だったようだ。

 さて、どうしたものやら...。

 はあ。と、溜息一つ吐いて。俺は、仕方なく、その後に続くのだった。


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