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11.([前]編-11)

 荒野の探索行も、二日目に入った。


 一日目の野営地を引き払うに際して、俺は、我々の足跡を記録する為にちょっとした作業を行う事にした。

 野営していた場所の横にある地面を、溶かして、固めて、矢印と出発した日時を刻む。

 簡単に言ってしまうと、そんな作業。

 目的は、結局は砦に残してきた伝令役の兵士に対して、俺たちの足跡を明確に示すこと。

 具体的な作業は、少しアレンジした高温版のファイヤーボールで、荒野の地面に硬いカンバスを造って文字を刻む、といった内容。


 ちなみに。この魔法もたぶん、俺のオリジナル、といった扱いになりそうな雲行きだ。

 ファイヤーボールを力業で圧縮、大きなオレンジ色の玉が小さな白色のボールとなり、その白色高温火球をゴロゴロと転がして地面を撫でる。と、溶けてドロドロになったちょっとした広場が出来る。

 その液状化した地面を、冷却系の魔法で冷やす。と、カチコチに固まる。

 そして。硬く固まった地面を大きなカンバスに見立てて、更に圧縮して飴玉大まで小さくした火球を使って、気持ち丁寧に大きく、記号と文字を刻んでいく。

 そんな作業を横で熱心に見詰めていたエカテリーナさんが、しきりと感心しながらも、作業を終えた俺に怒涛の質問攻めをしてきたのだ。

 勉強熱心で貪欲な知識欲の塊でありレベルの高い魔法使いであるエカテリーナさんが、知らなかった。

 つまりは、現在の冒険者の間では似たような魔法の使い方がされていない、という事になる。

 と言うか、魔法をアレンジするカルチャー自体が(すた)れている、のだろうなぁ...。


 そんな、本題とはまた別のエピソードがあったものの、特に波乱もなく、一日が過ぎ去っていく。

 今日も、順調に、何事もなく、荒野の旅路は(はかど)っていた。


 俺たちは、野営地を発ってからは少し移動速度を上げて、ひたすらに北の山脈を目指した。

 勿論、周囲への警戒は怠らないが、魔物の群れが移動したと思われる痕跡を辿って、丁寧に周囲を観察しながら進んだ昨日よりも足早に、北上を続ける。

 定期的に馬を休めて休息を取り、束の間の食事休憩を挟んだ後はまた、無理はしないものの唯々只管(ひたすら)に馬を駆って、北を目指す。

 そして。夕方になり、日が傾いた。

 本日は、辺境の開拓村と砦の間にある大河へと流れ込む支流の一つである小さな川の傍で、野営にする事とした。


 一日目は、「ヴァッシェン」で丸洗い、だった。

 二日目の今日は、川で露天風呂。簡易版の人工温泉を、屋外に造る。

 穴を掘って地面を固めてから川の水を導き入れて貯めてちょっとした池を造り、ファイヤーボールで絶妙のお湯加減にする。

 衝立代わりに、周囲の土を盛り上げてちょっとした土手を作り、外部からの視界は塞ぎつつも緊急時の退路は確保して、女性陣に配慮。

 皆さんには、満足して頂けたようなので、良かったと思う。




 そして。 荒野の探索行も、三日目。


 砦を出発した時には遠方に(そび)え立っていた北の山脈が、今はすぐ目の前に圧迫感を伴って立ちはだかっている。

 荒野の景色も、単なるだだっ広い荒地から、殺風景であることに変わりはないものの針葉樹が少し(まば)らに生えた森林地帯へと、その様相を変化させていた。

 ここからは、見渡す限りに障害物の無いこれまでの荒野とは違って少し視界も悪いので、周囲への警戒を改めて強化した上で、移動速度も大幅に落とすことにした。


 先頭を冒険者の二人が仲良く並んで進み、その後ろに俺とミッシェルさんがラヴィニアを挟むようにして横一列で進んで、殿(しんがり)にアレクが単独で続く。

 この三日間の定番となったそんな隊列で、(まば)らに針葉樹が生えた荒野とも森林地帯とも言えそうな土地を、足元に気を付けながら邪魔な障害物として時たま立ちはだかる樹々を避け、北に進路をとってゆっくりと馬を進める。


 俺たちが馬を進める速度を落としてから、一時間が経過しようかという頃に...。


「ん?」


 前方、まだかなり距離はあるが、それ程は遠くない距離で、魔法が発動されている気配。

 う~ん。これは...。

 スッと、アレクが馬を寄せてくる。


「アルフレッド様」

「ああ。ここから、このペースだと十分ほど、か」

「はい。しかも...」

「これは、かなりの大物、だな」

「はい」

「移動はしていない、よな?」

「そうですね。不自然ですが、気配は留まったままのようです」

「この大物以外には、魔物が居ない?」

「さて、どうでしょうか。前方の大物の気配が強烈なので、紛れている可能性も捨てきれませんが...」


 いつの間にか馬の歩みを止め、いつでも戦闘態勢に入れるよう身構えて周囲を警戒する、冒険者の二人。流石に、優秀だ。

 俺とアレクの会話が途切れたところでエカテリーナさんが、目線で俺に指示を乞う。


「大物だけなら、私が先鋒として単独で先行するけど、他の魔物や周囲の状況を把握しづらい現状では、人員を分散するのはリスクが高い」

「...」

「私が先頭で少し先行するので、デュークさんは今の位置を維持、エカテリーナさんは今の私の位置へ」

「「了解」」


 こうして。

 俺たちは、三日目にしてやっと辿り着いた、今回の異変にも関わりある可能性のある周囲に不自然で凶暴な気配を撒き散らしている生物がいるであろう場所へと、慎重に向かうのだった。



 * * * * *



 針葉樹林の中にある、広範囲に樹が薙ぎ倒されて炎に焼かれて焦げた跡も垣間見える、開けた場所。

 その中央に、息も絶え絶えになりながらも凶暴に暴れ続ける生物が、縫い付けられていた。


「古代竜、か...」

「そのようですね」

「初めて見たぜ」

「狂ってる?」

「こ、怖い...」

「...可哀そう」

「「「「「えっ?」」」」」


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