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閑話 白猫から黒猫に

祝、ページ数の三桁、達成。

100ページめ、嬉しいですね。読者の皆様に、感謝、です。

 プランタジネット王国の王都から南に馬車で一日足らずの場所にある、ベッドフォード公国との国境の町。

 物々しい雰囲気を漂わせた多数の兵士たちが忙しなく行き交う国境の検問所と砦から少し離れ、町外れの丘の上に静かに佇む立派なお屋敷、ノーフォーク公爵家の別邸。


 王都の南、王国の南部地域に広大で豊かな領地を治めるノーフォーク公爵家が所有する領内にいくつかある別邸の中でも一番質素、というよりは場所柄か質実剛健で武骨な感すらあるこの別邸は、今、いつになく華やかな雰囲気となっていた。


「エレちゃ~ん!」

「お、お嬢様。お猫様は屋敷の者がお探し致しますので、いったんお部屋にお戻り下さい」

「あら、どうかしたの?」

「バーナード様が、こちらにお越しになるそうです」

「まあ。お義兄さまが?」

「はい。何やらお嬢様にご相談があるそうでして、今、こちらに向かっているとの事です」

「分かりましたわ。では、お出迎えの準備をしなくちゃね」

「はい。お急ぎ下さい」

「では、エレちゃんをよろしくね」

「承知致しました」

「そんなに遠くへは行っていないと思うのだけど...」


 薄桃色の綺麗な長いストレートの髪を靡かせて、スラリとして綺麗な女の子が、侍女に先導されて優雅に、それでいてテキパキと屋敷の奥の方へと戻って行く。

 そんな少女を、庭に植えられた緑の葉が生茂った立派な樹木の上から見送った白猫が、素早く機敏な動作で木から木へと飛び移り、アッという間に屋敷の外へと飛び出して行った。



 * * * * *



 プランタジネット王国とベッドフォード公国とを分け隔て、国境線の大部分を占める高く険しい山脈。

 その山脈に連なりその南端に位置する山の麓の、よく手入れされた疎らな樹木で構成される明るい森の中に、ポツリと設けられた長閑な休憩所があった。


 そこに、ふらりと現れた、一匹の品の良さげな白い猫。

 その思慮深く物思いに耽るかのような瞳が、ふっと、ある一点を見詰めて止まった。


『ダリウス』

『...』

『ふん』


 白猫が、無造作に、軽く右の前足を振る。

 と。

 白猫が見詰めていた場所から、フッと、馬の繋がれていない中型の馬車が現れる。

 と、同時に。一瞬、何やら黒くゴツゴツした巨大な物体の一部も見えたが、そちらの方は直ぐに消えて見えなくなった。


『おいおい、エレノア。相変わらず乱暴な...』

『うるさい』


 白猫のヒゲが、ピクリと動く。

 白猫が睨みつけた馬車の横の見た目には何もない空間から、動揺の気配が漏れる。


『...』

『状況を、説明せい』

『いや。見ての通り、子供たちを連れて来たんだが?』

『五人も?』

『ああ』

『増えていないかえ?』

『まあ、そうだな』

『...』


 白猫のヒゲが、ぴくぴくと動く。


 ポンっ。


 という効果音と共に、象サイズの黒猫が現れた。

 少し焦ったような表情で、アワアワして。


『エ、エレノア。落ち着け!』

(わらわ)は、常に冷静じゃ』

『いや、まあ。うん、そうだな』

『...』

『勿論、エレノアは、いつも冷静だよな。うん、間違いない』

『ふん』

『し、しかし、だな。えらく、この辺りは騒がしいのだな』

『そうじゃの』

『確か、少し前に通った時は、ここまで人も多くなかったと思うのだが』

『まあ、そうじゃろうの』

『どうしてなんだ?』

『妾がここに居るから、じゃろうな』

『へ?』

『正確には、ラヴィニアが来たから、じゃがな』

『そ、そうなのか?』

『ノーフォーク公爵を動かしたのじゃ、大事にもなるわ』

『?』

『まあ、良い。ダリウスは、この書状を持ってアルフレッドの元へ戻れ』


 白猫の目の前に、パッと、書状が現れたかと思うと、黒猫の方へとスウーっと飛んでいく。

 それを目で追っていた黒猫が、大きく口を開けたかと思うと、書状をそのまま丸呑みする。


 白猫の眉間に皺が寄った、ように見えなくも表情となった。と同時に、周囲の温度が急激に下がりだす。


『お、おいおい、エレノア。深い意味はないから!』

『ほお~。妾に喧嘩を売っているのではない、と?』

『も、勿論だ!』

『ふん』

『で、では。この子たちは、任せて良いのだな?』

『ああ、馬がいるの。エカテリーナは元冒険者じゃから、適任じゃな』

『...』

『ダリウスは、ここで姿を消して待っておれ』

『お、おう』

『子供たちをエカテリーナが引き取ったのを見届けたら、アルフレッドの元へ戻れ』

『おう。分かった』


 唐突に、黒猫の姿が消失。

 白猫は、先程まで巨大な黒猫がいた場所を一瞥したかと思うと身を翻し、元来た方へと戻って行った。


 残された馬車の中には、複数の人の気配はするものの、物音はしない。

 微かに、寝息のような呼吸音が聞こえるのみ。

 だった...のだが、紙を開くようなガサガサという音が、意外と大きめの音量で周囲へと響き渡った。


『ふむふむ。なになに?』


『国境の宿場町まで来ました。頼もしい仲間たちも一緒です』


『いやいや。どう考えても、大規模な国家戦力が集結しているだろうが...』


 明るい森の中にポツリと設けられた長閑な休憩所にひっそりと置かれた、馬の繋がれていない中型の馬車。

 その横の何もない空間から、ブツブツと相手のいない念話が発せられていた。が、暫くすると、長閑で自然あふれる緑豊かな場所に、静寂が戻って来たのだった。


 ここまで読んで下さり、ありがとうございました。


 ブックマークと評価、ありがとうございます。もの凄く励みになります。

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 引き続き、よろしくお願い致します。

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