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3年越しの仕返し

矢月回後編です。

「コロン」


 矢月がそう唱えた瞬間、水弾はあらぬ方向へ吹き飛び、榊はその回避のために足を止めざるを得なかった。


「何だ今の!?」


 防御されないどころか、自分の攻撃を利用されるとは夢にも思わなかったのだろう。その顔は驚きを隠せていない。


「どうした? 秒で終わらせるんじゃ無いのか?」


 そう問いかける矢月の口は、微かにニヒルな笑みをたたえている。


「はっ! 軽いジャブをたまたま避けただけで調子に......」




()()()()




 榊の言葉を遮った矢月。その言の葉は、模擬戦中ではまず聞くことの無いであろう類のもの。

 だがそれを聞いた榊は、自分でも信じられないというような驚愕の表情をしていた。


 おすわり、していたのだ。自分の意思と関係なく。


「なっ!? くそがざけんな! この! この!」


 懸命に解こうともがくが、その体はセメントで固められたように動かない。


「言霊だよ。昔から言うだろう? 言葉にはそれ自体に力がある.......と。お前みたいに心空っぽな人間にはよ〜く響くだろうな」


 羞恥と怒りで顔を真っ赤にした榊に、矢月はゆっくりと近きつつ話す。


「てめぇ! こんなズルして何が楽しい! こんなのふつう...」

()()


 矢月の言霊に口を開けなくなる榊。散々矢月の話を遮ってきた榊が、今度は完全に口を閉ざされている。


 さらに矢月は続ける。


「今となっちゃ、お前に対して恨みも憎しみも感じない。この程度のこと大した事じゃ無いと思うようになってしまった......」


 その冷たい表情には、確かに怒りの感情は見られない。見られないが......


「でもそれじゃ、あの頃の俺に申し訳が立たない。先の未来を見据えて、懸命に耐えて努力していたあの頃の自分に」


 そう話す矢月は、陰惨な笑みを浮かべた。


「だから、多少なり苦しめや」


 そう冷ややかに告げると、次の術の準備に入る。


 両手それぞれを数の “3” を表すように指を立て、手首付近で交わらせる。三鈷印と呼ばれる手印。そして真言を唱える。


「ナウボウアラタンナウ・タラヤヤ・ノウマクシセンダ・マカバサラクロダヤ・トロトロ・チヒッタチヒッタ・マンダマンダ・カナカナ・アミリテイ・ウン・ハッタ・ソワカ」


 唱えている途中から榊の額に脂汗が滲み始め、唱え終えた途端、目玉が取れんばかりに見開き全身をかきむしるように苦しみ出した。


「う、が、あああああああぁ!! は、あ、うあああああぁ!!」

「苦しいよなぁ。魂を直接攻撃してんだから、不死結界も意味がない。そしてこいつも...」


 そしてここで初めて矢月はコンバットナイフを抜いた。刀身には魔法陣とは似ても似つかない謎の文様が刻まれている。


 それを見た榊は、苦しみに声を枯らしながらも直感する。このナイフを食らったら、さらに苦痛を叩き込まれる事を。


「ぐ、や、やめ......」

「あ? 普段話聞かない人間に耳かすと思うか?」


 助けを求める榊を、眉ひとつ動かさず、ただただ冷酷に見下ろす。


 そしてそのまま榊の首を貫く。

 一際の絶叫と鮮血が飛び散り、模擬戦終了を知らせるアナウンスが響いた。



〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 その日の夜。大学の北側に位置する第3駐車場。そこに続く道を柚子葉は1人歩いていた。


『詳しい話は夜に』


 そう言った矢月は、あの後待ち合わせ場所を指定してきた。こういう律儀な面はあの頃から変わっていない。

 それが分かった柚子葉は穏やかな笑みを浮かべる。


「えっと、第3駐車場に停めてある1番ごつい車......」


 ただ、その指定された場所というのが少し奇妙で、具体性に欠けるものだった。だがその場所に着いた柚子葉は、すぐに理解した。


 ちょうど街灯に照らされ目立つ位置に、それはそれはごつい茶色の車両が停められていた。

 明らかに民間車じゃない軍用だ。普通そんな車両が停めてあったら、在日アメリカ軍の軍人あたりが乗っていると思うだろう。


 だが柚子葉は確かに矢月の存在を感じ、足早に近づき、運転席(外車なので無論左側)を除きこ込む。


 そこには、毎日のように夢に見ていた彼の姿があった。



 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜



 柚子葉を助手席に乗せ、軍用車両であるHMMWVハンヴィー を走らせる矢月。


 大学を出てからというもの、2人はほとんど言葉を交わしていない。


 何から聞いていいか分からない柚子葉、何から話していいか分からない矢月。


 結局その沈黙を破ったのは柚子葉だった。


「痩せたね。ちゃんと食べてるの?」

「食べてるよ。自分でも驚くくらい。でもそれ以上に消費してる」


「雰囲気少し変わったね。ピアスしてるのは意外だったけど、よく似合ってる」

「周りがみんな付けてるから」


 聞きたいことは山ほどあったが、どうしても核心に触れる勇気が出ない柚子葉は、たわいもない会話を続ける。


 そうしているうちに、矢月が車を停めた。

 ハンヴィー を降りた柚子葉は、少し意外そうに小首をかしげる。


「ここって、料亭?」

「そう、おすすめ。奢るからゆっくり話そう」


 明らかに高級そうな店だがいいのだろうか、と思ってすぐに、別の理由を教えられた


「それにここなら、話を盗み聞きするような人はいないから」

次回、ついに2人の過去が明らかに!?


ちなみに今回矢月が使ったのは、怨敵調伏の仏でもある軍荼利明王の三昧耶さんまや真言です。密教系仏教の呪術ですね。


そろそろ作者が呪術オタだと気づかれる頃でしょうか。いや、まだ大丈夫だな。

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