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さあ、回そう

今回は、非常に残酷な描写が含まれます。

お読みいただく際は、くれぐれもお気をつけ下さい。

 目がさめると、そこは全面コンクリート張りの、暗く狭い部屋。


 ああ、やっぱり夢じゃなかったんだなと、矢月は32回目の絶望を感じる。


 床にしっかりと固定された鉄製の椅子に座る矢月は、首と両の手首、足首の計5カ所が椅子に取り付けられた金具で拘束され、全く身動きが取れない。

 さながら、死刑囚が座る電気椅子。


 もっともこの椅子は、極刑用ではなく拷問用。その性能が遺憾無く発揮されていることを、矢月の体がこれ以上ないほどに示していた。



 人には見えない。



 今の矢月の姿を見れば、100人中100人がそんな印象を抱くであろう。

 それほどまでに、彼の姿はむごたらしかった。


 ボロボロの短パンのみを身につけている矢月の体は、全身血みどろ。


 20枚の爪全てはもちろんのこと、表皮という表皮が、がれ、かれ、全身から滴った血が、固まって赤黒く変色している。固まった血の僅かな切れ間からは、赤い身が見えており、所どころにうじがたかる。

 よく言えば、血がこびりついた人体模型。悪く言えばエイリアン。矢月の見た目はそれだった。


 とても生きていられるような状態では無い。だが矢月は、かろうじて生きていた。


 矢月が目覚めて5分後、ガチャリっと部屋の扉が開き、1人の男が入って来た。窓の無い部屋に急に光が刺し、矢月は目を細める。


「おはよう! 生きてるか?」


 まるで、仲のいい親戚のおじさんのように、その男……アーナム チャクラバルティは明るい挨拶を投げつけてきた。彼はインド人であるが、彼の話す日本語は母国語のように流暢だ。


「まあこの結界の中じゃ、死にたくても死ねないんだけどな」


 そう続けて、チャクラバルティは床をとんとんとつま先でつついた。


 その床一面には大きな魔法陣が描いてあり、極僅かに紫色の光を放っている。その中心に固定された拷問椅子に、瀕死の矢月が固定されているという位置関係だ。


 不死結界を改造した拷問用結界。ここに捕まった直後、チャクラバルティはそう矢月に説明した。


 この結果内にいる限り、死ぬ事も、気を狂わせることもできない……と。


 確かに矢月は、ここ1ヶ月致死レベルの拷訊を受け続けた。指や腕を切り取られ、肉を削がれ、目玉をくり抜かれた。しかし時間がたつと、"ある程度" 回復させられるのだ。ある程度と言うのは、放置されている間も最大限痛みを感じるように、調整、しているということ。


 事実矢月は、全身に火傷を負っているような激痛に晒されながら毎晩を過ごした。


 眠れたのはほんの数分くらいに感じる。こんな状態に晒されながらも発狂"できない"のは、部屋の結界が働いている証拠だろう。

 自ら舌を噛み切って死のうとした事も、一度や二度では無い。だがその度に、必ず生え変わってしまった。


 チャクラバルティは扉を閉め、厳重に鍵をかけると、矢月の前につかつかと歩み寄った。


「どうだぁ調子は? どこか痛むか?」


 そう言って両手をのばし、さも心配そうに矢月の体に触れ、そしてぺたぺたと触りまくる。


「うぅ……ぅ」


 触れられる度に、矢月の全身に焼きごてを当てられたような痛みが走る。もはや叫び声を上げる体力すらない矢月は、小さく呻く程度。滲み出る脂汗が表皮の無い体を伝い落ち、痛みの連鎖は加速する。


 5分ほど矢月を弄んだ後、チャクラバルティはようやく手を離し口を開いた。


「おっし、異常無し。今日も張り切って行こうぜ……なぁ?」


 その瞳に、凄惨な悦楽をたたえて。


 それを聞いて、矢月は力を振り絞って顔を上げ、声を出す。


「らぁれ………すぃえ……」


 しかしその口から漏れたのは、言葉では無く抜ける呼気の音。


「ん、なんだ? あぁ、そういや昨日歯ぁ全部むしり取ったままだったな。ちょっと待てよ」


 世話を焼く親のようなセリフを吐き、チャクラバルティが床の魔法陣に触れた。


 直後、微かだった光が突然強さを増した。部屋が紫色光で怪しく照らされ、2人の影が壁に歪な影を映し出す。


 しばらくすると、光は元の強さになり、部屋はいつも通りの暗さに戻った。


 気づくと、全て抜き取られていたはずの矢月の歯が治っている。


「これで話せるだろ? 聞いてやるから言ってみな」


 チャクラバルティは、変わらず愉快そうに促した。


 それを受けた矢月が、再度口を開く。


「ころして………やる……」


 かすれ切って聞き取り辛くはあるものの、今度はきちんと言葉を発した。


「おまえら…が、みん…なを、ころした」


 だんだんとその声に怒気がこもり始め、憎しみへと昇華していく。

 矢月の目が血走り、痛む喉を焼き切らんばかりに吹き出る狂声。ボサボサに伸びた髪を振り乱し、その全てを目の前の男に収束させる。


「ころす……ころぉすぅう!!」


 そしてその憎しみが、憎悪にまで達した。その時……


「当たりだ……」


 チャクラバルティが、今までで最も恐々とした笑みを浮かべた。

 漏らした声は、本人にしか聞こえないささやき。


 その視線の先は、矢月の体。


 固まった血とは違う、明らかに黒く変色し始めた、矢月の皮膚。




 その数分後、草刈島は歴史に残る大爆発に襲われた。


 その爆発が、黒の爆炎を伴っていたのは、隠された事実。



~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「久しぶりだな。アーナム チャクラバルティ!」



 フラッシュバックするあの日の記憶。痛みを与え、痛みを奪う、解けない呪い。


「お前達に奪われた全て、今度はこっちが奪う番だ」



 今、止まっていた時計が、静かに逆回転を始めた。


次回、vsチャクラバルティ。

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