それぞれの思惑
久々の更新です!
矢月が部屋に戻ったのを見て、山城はため息をつく。
「一条も、一応戦力になると思ったんだけど、仕方ない。とりあえず加古さんにだけは話しとくよ」
随分と上からな口ぶりで話し、柚子葉に向き直る。
面倒くさい……というのが柚子葉の正直な感想だった。
「さっきも言った通り、今からAクラストップチームの皆で、捕まった人達を助けに行こうと思う」
前傾気味の姿勢で、山城が改めて話を始めた。
「俺だって、馬鹿なことをしようとしているのは分かってるんだ。でも、被害を受けているのは第六の学生、俺たちの仲間だ!じっとしてはいられない!」
強い語気で話す山城。だがそれは、努めてそういう風に話している事に、柚子葉は気がついた。
(結局、仲間を助けたくてじっとしていられないっていう、かっこいい男を演じてるだけじゃん…)
草刈島にいた時、レジスタンスの皆は心から仲間を思って行動していた。だから分かる。山城からは、そんな思いは感じられない。
山城は続ける。
「政府は要求を飲むつもりみたいだけど、それで人質が無事に解放されるとは思えない。政府はその事にきっと気づいてない。だから俺たちで助けるんだ!でも、そのためには加古さんの協力が必要なんだ」
それを聞いて、柚子葉は心底嫌気がさした。
(実質私1人にどうにかして欲しいってことか…。その上、その名誉は横取り。どうせ、助けに来たよ!ってドヤ顔で言うんだろうなぁ)
山城の後ろには、トップチーム12人中の7人、山城を入れて8人が立っている。ここまで人を集めている以上、簡単には引いてくれないだろう。
だが、行かせるわけにはいかない。間違いなく矢月に迷惑がかかってしまう。
「山城君は…」
柚子葉は必死に言葉を選びつつ、口を開いた。
「捕まった人達を、死なせたいってことだよね?」
可能な限り、苛烈な言葉を選んで。そしてその表情は……冷たい。
「なっ!? 何言ってるんだよ! 助けに行くって言ってるじゃん!」
案の定、山城は頬を上気させて反駁する。
「だってそうでしょ?未熟な学生だけで助けに行ったって、間違いなく捕まって終わり。めでたく人質追加、下手をすれば、要求反故と見なされて皆殺される」
柚子葉は静かに、そして力強く言い聞かせるが、もちろん山城は反論する。
「だから! 加古さんの力が必要なんじゃないか!それに、なにも正面切る気はない。こっそり忍び込んで、助け出すんだ!」
はぁ…っと、柚子葉はもう一度ため息をついた。
「言っとくけど、私程度じゃ人質を助け出すのは無理だよ。たとえ、………」
ここで柚子葉入ったん区切り、続ける。
「たとえ、1人で行ったとしても…ね」
1人の方がむしろ成功率が上がる。お前らは足でまといでしかないから引っ込んでろ…という事を暗に伝える。
しかし、
「大丈夫!皆で力を合わせればなんとかなる!」
(気づいてない……。結構毒のある言い方したつもりなんだけど)
説得には骨が折れそうだ。柚子葉は長期戦を覚悟した。
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廃ホテル8階。客室の1つ。
矢月と愛菜は、1つだけ置いてあるベッドに、隣合って腰掛けている。
部屋に窓はない。そもそも外に面していないのだ。そのような部屋が存在するほど、このビジネスホテルは大きなものだったのだろう。
建物自体、優に20階を超える大きさだ。
「そういえば!天来教の人達が、大事なことを話してるのを聞いたんだった!」
不意に、愛菜が声を上げた。
「こっちもある程度事情は把握しているけど、話してくれ」
静かに矢月が促す。
至近距離で目が合ったせいで、愛菜は顔を赤らめて逸らしつつ、話す。
「運ばれてる時、天来教の人達が話してるのを聞いたの。天来教は、日本政府と繋がりがあるって」
「なるほど…」
これは初耳だった。正直、目新しい情報が出てくるとは思っていなかったため、少し驚いている。
だが、まだ終わりでは無かった。
「それと、天来教が今回学生を拉致したのは、日本政府から依頼されたからだ……って言ってた」
「何だって!?」
これには、さすがの矢月も驚きの声を上げた。
今の話が本当なら、今回の事件は全て政府の自作自演という事になる。
だが、なぜ?
天来教は、どこまで把握している?
分から無いことだらけだが、これだけは分かる。政府は、何か大きな事を企んでいる。予想していたよりも、大きな何かを。
「ところで、これからどうするの?」
考え込んでいる矢月に、愛菜がためらいつつ尋ねてきた。
「とりあえず、PMSCの仲間には報告を入れておく。そっちの考察は任せよう。俺たちはまず、ここから脱出しないと始まらない」
矢月は一旦思考を止め愛菜に答えつつ、スマホを取り出しルイにテキストメッセージを送る。
それを見ながら、愛菜がふと思い出したように言う。
「私の他に捕まってる人はいないの?」
「8人ほどいる。そっちは全員、俺の式神に任せてある。心配いらない」
「やづくんがそっちに行かなくてよかったの?」
「必要ない。あーなが優先だよ」
それを聞いて愛菜は照れて頬を赤らめる。
「そういうの、柚子葉ちゃん以外に言っちゃって大丈夫なの?」
「君に死なれちゃ、うまい飯が食えなくなっちまうからな」
「世界最強のA1術師様にそう言って貰えるなんて、光栄の限りだよ〜」
ここで、そういえば……っと、愛菜は疑問を口にした。
「前から気になってたんだけど、やづくんってFOGのA1術師じゃん?でもどうして日本では準1級しか取得してないの?実力では絶対1級取れるはずなのに」
「あぁ、それはな…」
矢月はなんということも無く答える。
「いらないから、取ってないだけだよ。FOG規格のA1持ってたら試験無しで準1級までは取れるから、取っといただけ」
「へぇ…日本でもそんな制度あったんだね」
「FOG加盟国じゃないから、あんまり知られてないシステムだな。この制度に関しては、アメリカが日本に圧力を……」
その時、途中で矢月が話をやめた。
他の学生を誘導していた真から連絡がきたのだ。
式神とその主は、離れていても思念の様なものでやりとりができる。
どうやらまずい状況らしい。
時刻は11時15分。
政府の爆弾投入まで、残り45分。




