見捨てる訳にもいかないし
おかげさまで、地道にブックマーク数が増えて来ております。
それを見て、毎朝全力ガッツポーズをしている私です。
これからも頑張っていきますので、何卒ご拝読のほどよろしくお願い致します!
午前4時。矢月は大学寮の自室にいた。
秀島の指示通り寮に帰還した4人は、今は待機命令が出ている。第六の学生が拉致されている以上、他の学生が狙われる可能性は高い。そのため現在大学寮周辺は、民間警備が派遣した術師が守りを固めており、学生は外出禁止となっている。
寮は、1LDKの1人暮らし。学生の暮らしとしては破格の待遇。これは、トップチームに選ばれた学生の特権だった。何かのマンガの様なシステムだが、モチベーションの向上には非常に効果的だ。四半期に1度の成績更新は、毎回苛烈を極めるらしい。
「......政府は先程、アスラを名乗る犯行グループの要求に応じる事を、臨時会見にて発表しました。要求された不死結界の構造の受け渡し及び術師の派遣は、本日昼12時を予定されており、厳重な警戒体制の下......」
部屋には、つけていたテレビから流れるニュースの音声が響いている。
(要求内容の実行まで、およそ5時間...か)
矢月はリビングでニュースを流し聞きしながら、ブラウンレザーのソファに座って荷物をまとめていた。リビングはヴィンテージ調に整えられ、小綺麗に整理されている。
テーブルの上に並べているのは、霊符、ファイティングナイフ......そして、拳銃、アサルトライフル、アンチマテリアルライフルなどの銃器。
術師の増加にあたり、日本でも刃物類の武器の所有は認められる様になった。しかし銃器の所有に関しては、未だ脅威性がある為、厳しく規制されている。
矢月はその非常に厳しい制約をFOGに押し通してもらい、ここ日本でも銃の所持使用を許可されていた。
そんな中、部屋に客の来訪を知らせるチャイムが鳴り響いた。
「ゆず...か。真、頼む」
「かしこまりました」
そう返事が聞こえた直後、真がソファの後ろに姿を表し、入り口に向かった。ただし、今は普通の大型犬サイズだ。
真や黒衣の様に意思を与えられている式神は、召喚獣と違い、姿は見えずとも常に主人の側に控え守護している。これが、榊や山城に対して言わなかった、召喚獣と式神の大きな違いだった。
「やづ、お邪魔するね」
真に連れられて、柚子葉が部屋に入って来た。今は着替えて、ヨガパンツにTシャツというラフな格好をしている。シャワーを浴びたのか、乱れていた髪がいつもの整ったセミロングのゆるふわヘアに戻っていた。
「疲れてるはずだ。早く寝とけ」
発言こそぶっきらぼう。だがその声には、他の人に対しては無い温かみがあった。
指示を完了した真が、再び実体化を解き姿を消す。
「こんな状況......寝られないよ」
柚子葉はそう言って優しく微笑むと、矢月の隣に腰を下ろした。
そして、テーブルに並べられた武器類を見て察したのか、
「...行くの?」
矢月の顔を覗き込んで、短く尋ねた。
囚われた学生たちを助けに行くのか...そういう問いだった。
「ま...出来るだけ目立たず、国際的摩擦が少ない様にやるさ。最悪でも...」
矢月は続けた。
「最悪でも...俺の単独行動として、FOGでの籍を失う程度で済むだろう」
「FOGからの脱退⁉︎」
柚子葉が驚いて声を上げる。その顔には、先程よりも心配が色濃く出ていた。
「最悪の場合は、な。そうなったとしても、プライムセキュリティとしての立場は残るだろう。それにプライムの上官には、そのように行動するとさっき言っておいた」
「え...許可貰ったってこと?」
「うちの上官は話分かる奴だからな」
そう言いつつ、矢月は銃器をケースにしまい始める。それを見ながら、柚子葉は口を開く。
「草刈島テロから帰って、やづは変わった...他人に厳しくなったと思ってた。でもやっぱり...優しいままだね」
そう言う柚子葉は、とても嬉しそうな表情をしていた。
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午前5時。大学寮自室。
犯行グループへ爆弾が放り込まれるまで、残り7時間。
矢月は行動を開始しようとしていた。
グレーを基調とした戦闘用スーツに、太ももには拳銃を入れたホルスターとファイティングナイフ...それを左右1セットずつ。背中のスーツ付属のポーチには、拳銃用のマガジンやその他小物。腰まわりには、霊符を入れた長方形のケースをいくつか取り付けている。
その他の銃器は行動の阻害になりすぎる為、真と黒衣(の体内)に持たせてある。銃自体にも術を施してある為、式神と同調して実体化から離れることができる。
ソファでは、柚子葉が横になってスヤスヤと寝息を立てている。あの後寝付いてしまったのだ。
眠れないと言ってはいたものの、結局は疲れが溜まっていたのだろう。
この部屋には、矢月が仕掛けた防御用の結界が常設されている。柚子葉の部屋より安全性は高い。故に矢月は彼女を寝かせたまま、事に臨むつもりだ。
矢月は左手を握り人差し指だけ立て、その指を右手で握る...智拳印を結ぶ。そして、長ったらしい呪文を、静かに唱え始めた。
「荼枳尼縛日羅駄都鑁。荼枳尼阿卑羅吽欠」
唱え終えると、矢月の体を金色の光が包んだ。その光は徐々に移動していき、その全てが足に集まった瞬間、矢月が消えた。
最後の最後に出て来たのは、荼枳尼天法にて用いられる明咒です。
荼枳尼天法は様々な目的で執り行いますが、その一つが神通力を得る事。
今回はそれですね。




