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絡まる

今回は、色んな立場の人々の思惑が交錯します。

こういうの凄い好き。

 深夜2時。矢月ら4人は、ハンヴィーに乗って第六大学へと向かっていた。すぐに帰還し大学寮で待機していろと、秀島から指示されていたからだ。

 成明と緑目の男の身柄は、近くのファクターの施設に引き渡してある。


 車載ラジオからは、少し前から同じ内容のニュースが絶えず流れていた。


「......アスラと名乗る犯行グループは、国立第六術師大学の学生8人を拉致し、現在も拘束状態にあると発言しています。犯行声明によると、人質解放の条件として彼らは、日本政府が所有、管理している、通称不死結界と呼ばれている術の魔法陣の構造の開示、更にはそれを扱う術師2名以上の身柄の受け渡し......」


「やっぱり...あの天来教の男が言ってたとおりだね」


 女性アナウンサーの声を聞きながら、助手席の柚子葉が心配そうに言う。


「政府は、要求を飲むと思う?」


 彼女は矢月の方を向き訪ねたが、例のごとく、答えたのは後部座席に座る山城だった。


「流石に拒否すると思う。今までだって、人質を取って立てこもりする犯人はいたけど、ほとんどがファクターか国防隊の特殊部隊に鎮圧された。今回だって、きっとそうなるよ」


 山城はさも当然と言った様子で話す。


 話に出た国防隊...すなわち国家防衛部隊とは、自衛隊の後身組織で、警察の後身であるファクターと並び立つ日本の2大術師組織である。


「まあ、また優秀な術師が何とかしてくれるんじゃね?」


 山城の隣に座る榊も、極めて楽観的な姿勢を見せているが、矢月の考えは違った。


「いや、政府は要求を受けるだろうな。少なくとも、表向きは」

「一条お前、何を根拠にそんな事言えるんだよ⁉︎」


 否定された山城は、いつものごとく不機嫌気味に言い返す。

 矢月もいつも通り、落ち着いた口調で説明した。


「いいか? 今回拉致されたのは、いづれも大学院生の引率がついていなかったチームの学生だ」


 矢月の言う通り、拉致されたのは第六1年次生、C、Dクラスのトップチームの学生だった。


「当然そのようなチームが狙われた事は、ニュースでも言及された。そして、引率

 無しの学生の活動を許可したのは政府だ。そんな失態が露見した上で尚、学生の危険を顧みず特殊部隊での救出を強行するのは、世間体的にかなりまずいはずだ」


 なるほどね...と柚子葉は頷く。山城は、納得はしているものの、自分の考えを下げるのをプライドが許さないのか、更に不機嫌そうな顔をする。


 この時、ピリリリ...と、ラジオの下あたりから音がした。通信機だ。

 矢月は右手をハンドルから離し通信機のボタンを押すと、


「This is Ichijo. Over. (こちら一条。どうぞ。)」


 英語で応答した。この通信機は軍用なので、連絡してくるのはプライムセキュリティかFOGの軍人だけだ。そのため、英語での会話が基本である。


 しかし通信機から聴こえてきたのは、若い男の日本語だった。


「矢月! 聞こえるか。 今日本で起きている拉致事件について情報が入った」

「ルイか。何があった?」


 声の主は、プライムセキュリティで矢月のオペレーターを務めている ルイ ミカド だった。彼はフランス人と日本人のハーフで、日、仏、英三ヵ国語を話せるトリリンガル。日本語の方が得意な矢月に合わせて、2人の時は日本語で話してくれている。


「FOGの諜報部が掴んだ情報だが、日本政府は犯罪組織の要求を飲むつもりらしい。じきに官房長官による公式会見も行われるらしい」

「......それで?」


 その程度の情報を伝えるためだけに、ルイが連絡をよこすようなことはない。それを知っている矢月は、静かに続きを促した。


「あぁ。だが政府は、偽の魔法陣と、偽の術師を送り込むつもりらしい。っで、その偽の魔法陣の内容が厄介なんだ」

「何の術を、使うつもりだ」

「術名は分からない。でも、その術を使って...」


 ここでルイは言ったん間をとり、そして続けた。


「巨大な爆発を起こし、人質ごと犯行グループを一掃するつもりだ!」

「「「なっ!」」」


 これを聞いて、黙って耳を傾けていた矢月以外の3人は、驚きの声を上げた。

 しかし矢月だけは、忌々しげに顔を歪ませている。


「なるほどな...。ずる賢さだけは感心する」

「どう言う意味だい?」


 ルイが質問すると、


「つまり...」

「黙ってろ」

「がっ...」


 なんとここでまで山城が割って入ろうとしてきた。しかしここは、容赦なく言霊を使って黙らせる矢月。そして、ルイへの説明を再開した。


「幸か不幸か、犯行グループはアスラを名乗っている。そんな集団がいるところで、大爆発が起きたら世間は...」

「草刈島テロの終焉時と同じ、アスラの自爆攻撃と勘違いする......政府は、可能な限り責任を天来教に押し付けるつもりか」

「要求を飲んだにも関わらず、アスラは自爆を行った...そういう筋書きだろうな」


 だが、ルイにはまだ疑問が残っていた。


「でもおかしい。この情報、簡単に漏れすぎなんだ。こんな秘密作戦、もっと厳重に秘匿されて

 然るべきなのに...まるで、わざとリークしているみたいだ」


 確かにFOGの情報収集能力は高いが、日本政府が全力で隠せば、そう簡単には暴けないだろう。


「何かしらの意図があるのか...。何にしても、今の段階じゃ情報が足りないな」


 これに関しては、矢月もお手上げだった。判断材料が少なすぎる。


「でも、これからどうするの? このままじゃ、第六の学生が殺されちゃう」


 柚子葉が心配そうに、矢月に言う。確かに、この状況は看過できるものではない。


 ここで、ルイの申し訳なさそうに声を出した。


「どうにかするって言っても、僕らじゃどうにも出来ないぞ。日本はアメリカ軍の庇護下にはあっても、FOG加盟国じゃない。矢月が手を出してFOG所属の軍人だとバレたら、国際問題になりかねない」

「...ぷは! 一条がFOG軍人だと⁉︎」


 ルイの話を遮って、言霊の縛りが解けた山城が怒鳴った。


「そんなこと有り得ない! FOGは、加盟国の軍事じゃないと入れないし、そもそも超優秀なエリート集団だぞ! 一条程度で、務まるはずがない!」

「お前、おろすぞ...」

「い、いいぜ。別に電車で...」

「......三枚に」

「ふぁっ⁉︎」


 ストレートにディスられ、さすがに半ギレの矢月。ドスの効いた声を出しつつ、胸ポケットから折りたたみのカードケースを取り出し、山城に渡す。そのケースには、二枚の資格証が入っている。一枚は、日本規格で準一級術師であることを示すもの。もう一枚は、A1ランクFOG軍人である事を示すもの。つまり、世界最強のうちの1人である事を証明する物だ。


 唖然としてそれを見ている榊と山城を見て、


「いいの?」


 っと、柚子葉が静かに矢月に尋ねた。


「まぁ...俺が個人的に目立ちたく無かっただけで、上から秘匿命令が出てるわけじゃないからな」


 だからって言いふらすんじゃないぞ、っと、矢月は後部座席の2人に釘を刺した。


「いやでも! やっぱり有り得ないだろ! 一条は日本人だろ? 日本は加盟国じゃ無いんだから、いくら国防隊のトップだろうとFOGには入れないはずだ」

「FOGは、民間軍事会社からの編入も受け入れている。俺はアメリカ領ハワイのPMSC所属だから、問題ない」


 それよりも...っと、矢月は続けた。


「人質をどうするか、だな。確かにFOG軍人としての俺では、介入しづらい」


 話しながら、矢月は山城からカードケースを受け取る。僅かに思いつめた表情で、矢月は口を開いた。


「ルイ。とりあえず、人質が確保されている場所を調べてくれ」


べ...別に、英語書きたくないからルイをハーフにしたわけじゃ無いんだからね!

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