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お約束

今回は柚子葉メイン回です!

わっしょい!

「な......一条.....お前......」


 山城の目の前には、全身に無数の針を受けた矢月が立っていた。明らかに致死レベルの傷だ。


「おれの......せいじゃない。俺のせいじゃ無い。俺のせいじゃ無い!」


 自分でミスで仲間が死ぬ...。恐ろしく鈍感な山城でさえ、その事の大きさに気づく。そして事実から目を背けるように、頭を抱えて騒ぎ出した。


 その時、


「うろたえないで山城くん! そのやづは本物じゃ無い!」


 柚子葉が叫んだ。


「えっ⁉︎」


 その声にはっとし、顔を上げる山城。よく見ると、矢月の体からは血が一滴も流れていない。


 その時だった。


 矢月の体がその形をグニャリと崩壊し始め、なんと2つに分裂した。

 別れた2つの塊は、それぞれ白と黒の光を放っている。


 そしてその片方に、山城は見覚えがあった。


「お前...あの時の...」


 そう、それはこの村に来る道の事。山城が大熊に襲われた際、それを救った光の大犬だった。そしてもう片方は、白の大犬をそのまま黒に変えた姿の大犬だった。


 未だに腰を抜かしている山城の横に、柚子葉が走ってきて、山城と榊に聞こえるよう話す。


「この子たちはやづの式神だよ。 やづは今成明を抑えてる。ここでの指揮は任されてるから、従って!」


 そして、その言葉の通り指示を出す。


「榊、山城両名は周囲を警戒! まこと黒衣こくえ 行くよ!」


「了解しました!」

「あぁ」


 真、黒衣と呼ばれた白と黒の大犬はそれぞれ返事をすると、柚子葉と共にマンティコアに突撃していった。


 僅かに先行していた真と黒衣は、それぞれ尾を刃のように形を変え、見事な連携でマンティコアを切りつける。その隙のない連撃に反撃は出来ないまでも、マンティコアは器用にその全てを交わしている。


 僅かな均衡状態が続く中、


「真、黒衣、離れて!」


 立ち止まって魔法陣を投影し終えた柚子葉が再度指示を出し、二匹の大犬もそれに従う。


「はあぁ!」


 柚子葉が術を発動すると、マンティコアに向かって凄まじい電撃が放たれた。その光に照らされ、辺りが一瞬真昼のように明るくなる。


 魔獣はそれをまともに喰らい、ぐああぁ! と叫び声を上げる。


「やった!」


 華麗にフラグを立てる榊。


 見るとマンティコアは、苦しんではいるものの倒れる事は無かった。目に見えるようなダメージも無い。


( これで駄目なの... )


 今のは柚子葉が使える中で、最も点威力のある術の1つだった。模擬戦で使ったような面火力のある術では威力不足と思い、真と黒衣に誘導させてまで一点集中に掛けたのだ。それでも足りないとなると......


( あれを使うしか無い...か )


 柚子葉はため息をついた。


「柚子葉ちゃん! 俺にも戦わせてくれ!」

「俺ももう大丈夫。やれる!」


 榊と山城は立ち上がり、先頭に加わろうとするが......


「だめ! 悪いけど邪魔になる!」


 そう言われ2人はしゅんとする。だがこういう時ははっきり言っておいた方が、きちんと指示が通る事を柚子葉は知っていた。


「真、黒衣。あなたたちも下がっていて」


「あれをやるのですね」

「分かった。任せる」


 二匹には、矢月が柚子葉の能力を記憶ごと叩き込んでいる。そのため、手を出さぬが吉というのも理解している。


 その時、完全に立ち直ったマンティコアが柚子葉に向かって針を放った。


「危ない!」


 山城が叫ぶ。


 だがその針が柚子葉を貫くことは無かった。


 カン! カカン!


 その全ては、金色の半透明の蛇に叩き落とされたからだ。そしてその蛇は、柚子葉の腰から尾のように伸びていた。蛇だけでは無い。柚子葉の手からも金色の長大な爪が伸び、同じく金の婆娑羅ばさら髪がなびいている。


 そして全身には、パリパリと電撃がほとばしっていた。


「行くよ!」


 そう言って柚子葉は、背負っていた大太刀の柄に蛇を巻きつけ、抜き放った。

 そもそもその大太刀は、小柄な柚子葉が手に持って振るうには大きすぎる代物だ。それでもわざわざ持ち歩いているのは、こういう使い方をする為だった。


 爪と刀を構えた柚子葉は、マンティコアに向かって突進した。一跳びで魔獣に肉薄する。みると、彼女が蹴った地面がえぐれていた。


「があ⁉︎」


 一瞬で距離を詰められた魔獣は驚きに声を上げる。


 その隙を見逃す柚子葉では無い。魔獣の巨躯の下に潜り込み、右の拳を握り腹をどつき上げる。


 ドゴッ!っという音と共に、マンティコアが5メートルほど上に飛んだ。


 それに合わせて柚子葉も飛び上がり、すれ違いざま両手の爪と太刀で切りつけ、続けざまに地面に向かって蹴り落とす。

 その全てをまともに喰らったマンティコアは、地面に小さなクレーターを作りつつ激突した。その体は傷だらけ。今度は確かなダメージが入っている。


 それでも尚起き上がろうとする魔獣。その脳天に、柚子葉は着地の勢いのまま太刀を突き刺した。


 赤い血しぶきが柚子葉の服を染めるが、気にする様子はない。そしてそのまま、マンティコアは事切れた。


「すげぇ...」


 榊の口から驚嘆の声が漏れる。一方山城は、自分でもそのくらい出来るとばかりに顎をしゃくれさせている。


「ま、一芸だけじゃ準二級には上がれないから...ね」


 振り返った柚子葉は、少しはにかみながら言う。


 その時だった。木々の暗闇、マンティコアが現れた辺りから低い男の声が響いた。


「虎の腕...蛇の尾...。ぬえのパラサイトか」


 その場にいた全員がビクッと身を振るわせ、その声の方を見やる。


「まったく...無駄に大物が釣れたものだ。骨が折れるな」


 そう言って男は街灯の明るみの中に姿を表した。


 長身に黒のロングコート、顔はネックウォーマーで鼻の上まで隠れている。


 そして男の目は、薄暗い中でもよく分かるほど綺麗な緑色だった。

ちょっと解説。


鵺とは、猿の顔、狸の胴、虎の腕、蛇の尾を持つ日本の妖怪です。雷獣と同一視されることもあり、今作ではその説を採用しています。

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