自分勝手な奴に押し付けられたリーダーほど面倒なものは無い
今回ちょっと長めです。
隣室に移動した矢月ら4人。
先ほどのミーティングルームよりは1回り狭いその部屋には、長テーブルを挟んで2人づつ座れるように椅子が配置してある。
矢月が真っ先に椅子に腰掛け、次の瞬間には隣に柚子葉が陣取っていた。榊と山城は柚子葉の隣を狙っていたのか、悔しそうな表情を隠しつつ、今度は正面を取ろうと静かな抗争(椅子取りゲーム)を始める。
「じゃあ始めるか」
最終的に柚子葉の正面を勝ち取った山城がミーティングを始める。
「まずリーダーだけど、誰かやりたい人はいる?」
「「「.......」」」
山城の問いにだんまりを決め込むメンバーたち。
様々な面で損な役回りの舞台リーダーなど、基本誰もやりたがらない。せいぜい担任の内心に影響するくらいだ。
ここで山城は、
「一条くんやってよ。模擬戦のとき強そうだったし」
なんと矢月を生贄に捧げようとしてきた。
しかも強そうだなんて言っておいて、心では微塵もそう思っていない。人の感情が読める矢月にはそれが分かった。
「こいつが強そうなんて、何言ってんだお前。所詮変な初見殺し何個かつかえるだけだろ」
ここはシンプルに矢月を認めたく無い榊。
「じゃあ代わりに榊くんがやるってのかい?」
「やーだよそんな面倒いの」
代わりに、といのは山城のなかでは矢月がリーダーというのが前提条件なのか。
心の黒さが垣間見えている。
「俺がやるのは構わ無いけど、お前らちゃんと俺の指示聞くんだろうな?」
「当たり前だろ。リーダーやってもらうからには従うさ」
嘘だ、こいつは必ず自分の意見を通そうとする。そういう奴だと、分かる。
その後いくつかやりとりがあった後、結局矢月が引き受けることとなった。
次は移動手段だ。目的地は隣の山口県東部にある小さな集落(第六があるのは広島県)で、明日の正午には到着するようにとの事だ。
「俺は自分の車で行くから、お前らはどうする?」
矢月が榊と山城に尋ねる。
「俺たちは3人で新幹線で行くよ。交通費出るし」
「そうだな、お前はぼっちで来いよ。俺らは3人で楽しく行くからよお」
という山城、榊。
(後で2人にはLIMEで断っとくから、私も乗せてって)
と矢月に耳打ちする柚子葉。彼女は矢月と一緒に行きたいのだろうが、それを今言うと確実にいらない2人がついてくるだろうことは明白だ。
その日は、他にいくつか確認した後解散となった。
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次の日の朝、矢月のハンヴィーが大学寮を出発した。
乗っているのは、4人。
「まったく...何で榊と山城までいるんだ?」
「同じチームになんだから、一緒に行動するのが普通だろ?」
「お前が柚子葉ちゃんに変なことしないように見張らないとだからな」
(こいつら好き勝手言いやがって...。無理矢理ゆずの後を追ってきたくせに。)
矢月はため息をつく。
2時間ほど車を走らせたところで、県境を超え山口県に突入した。そのまま山陰の山道を進む。
車中では、榊と山城が柚子葉にひたすら話しかけていたのがもっぱらの会話だった。
その中で、矢月と柚子葉の関係について聞かれた事があったが、小学校が一緒で当時仲が良かった、とかなんとか誤魔化した。嘘ではないし、基本的に草刈島での関係は隠すことにしようと2人で決めている。
山中を走り続けていると、駐車場の近くに自販機が数台だけあるだけのちょっとした休憩所があったので、車をとめて一休みすることにした。それぞれ自販機で飲み物を買い、備え付けのベンチに腰掛ける。
「なあ一条、今から少しあの車運転させてくれよ」
矢月が缶コーヒーを飲んでいると、急に山城がねだりだした。
「え、駄目だけど」
一蹴する矢月。
「いいじゃん、俺ミッションの免許もってるから大丈夫だって」
(こいつ、ハンヴィー舐めてるだろ)
左ハンドル、それだけでも普通のドライバーは尻込みするのに、特にハンヴィーは車幅が尋常じゃなく広い。ペーパードライバーが運転させたなら確実に擦り傷は覚悟しないといけないだろう。
でも山城感情からは、そんな事では引かなそうな強情さと自信が読み取れる。
こんな時は、
「これ、準中型免許じゃないと乗れないから」
「え、まじで!? でも......分かった」
嘘である。ハンヴィーはギリ普通免許で乗れる。ただし、外部装甲を追加した重量ではその限りではないため、矢月は一応大型免許までは取得している。
五分ほど休憩していると、榊と山城は歩いて数分の所に滝があることに気づき、2人で見てくると言って席を立った。
うるさい2人がいなくなってほっとする所だが、なんだが嫌な予感がする。
「真、2人についてってやれ」
矢月は誰もいない虚空に向かって命令した。すると、
「かしこまりました」
なんと誰もいない空間から返事が返って来た。普通ならありえない現象に、隣にいた柚子葉はおどろ......くことはなく、
「何かあったの?」
むしろ矢月の考えていることに疑問を持った。彼女なはこの声の事は話してあるので驚かなくても不思議はない。
「妙な気配がしただけだが、真を行かせれば十分だろう」
それから数分後、山の奥から男2人の叫び声が響いて来た。
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「こいつ、急になんだってんだ!」
「やめろ...来るな」
今、榊と山城は山中の獣道を全力で逃げていた。
事の発端は、滝を見に行こうと獣道を歩いていた所、急に後ろから突き飛ばされたことに始まる。何者かに襲われたのかと振り向くと、それは見上げるほどの大熊だった。
急な襲撃だった上に、大して実践経験も無い2人は、大した反撃もできずに、こうして尻尾を巻いて逃げていると言うわけだ。
「おい...山城。てめえ...どうに...か、しろ」
「むりに...きまってるだろ」
全力失踪する2人の体力はすでに限界が近い。にもかかわらず、大熊は着々と距離を詰めてくる。
「あっ!」
足が上がらなくなってきた山城は、ついに木の根につまづいて転倒してしまった。
木の葉の積もる地面を2、3回転した後、顔を上げると、そのまま走り去って行く榊の後ろ姿が見えた。
「あ、あぁ...」
振り返ると、熊はもう手が届く所まで来ていた。
もう終わった。山城がそう悟ったその時だった、
ドゴッ!
白い光の柱が大熊が吹き飛ばした。
「な、なにが...」
光が飛んで来た方向を見ると、そこには先程の大熊よりも一回り大きな白い大犬が立っていた。その姿はまるで、もののけの姫を描いたアニメ映画に出てくる大犬のようだ。
だがサイズ以外にも明らかに普通の犬とは違う点がある。それは、体からほのかに白い光が放たれている、否、その体自体が白い光で構築されているように見える。
先ほどの光の柱は、この光の大犬の尻尾だったらしい。
「があぁ」
光の大犬に見ほれていると、先ほどの熊が立ち上がっていた。
腹に大きな傷を負ってはいるものの、怒り狂った熊はその精神力で大犬に立ち向かおうとしている。
「人に手綱を取られましたか。哀れなものですね」
なんと大犬は人の言葉を話した。
熊を哀れむように発したその声は、若くも威厳のある男らしいものだった。
大熊は力を振り絞って突進して行く。しかし大犬は焦りのカケラも見せず、なんと尻尾を三本に増やし、その全てを差し向け大熊をズタズタに刺し引き裂いた。
次回もよろしくお願いします。




